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スーパースターな男II  作者: 柿井優嬉


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韮沢隆治と杉森圭吾の話③

 困難が立ちはだかる隆治だったが、精密なコントロールの彼が、高めと低め、内角と外角、速球と緩いボールと、巧みに配球することによって、球がストライクゾーンに集中していてもタイミングを取らせず、相手打線のバットは空を切るばかりだった。

「くそー!」

 あまりにボールを当てられないことで、イライラが抑えきれずに、ヘルメットを地面に叩きつける選手もいれば、自分のバットを太ももで真っ二つに折ってしまう怪力のバッターもいた。

 そして、隆治にとって一番厄介な打者であるジョーンズに対しては、バットを振られると、当てるのがうまいので三振は難しくなるうえに、何回もファールにされたら球数が多くなってもしまうため、例えばツーストライクから、通常では絶対にやることのない、ど真ん中にストレートを放るといった、裏をかく投球を行い、なんと三打席連続で見逃し三振を奪ったのである。

「クーッ」

 普段は冷静なジョーンズまでも、頭に血が昇った。

 こうした結果を積み重ねていき、迎えた九回表、ツーアウト、ランナーなしから、バッターボックスのジョーンズを、最後は振っても当てられない威力のあるストレートによって空振り三振に仕留め、隆治は、無四球で、十七の奪三振を記録し、完封勝利をあげるという、文句のつけるところのない投球をやってのけた。日本のプロ野球時代を通じても、最高のピッチングだったかもしれない。その感動や興奮は計り知れず、メジャーリーグでは良いプレーをした選手に向かってやる恒例儀式ともいえる観客によるスタンディングオベーションだが、彼が帽子を取って、それに応えるリアクションをしたというのに、一向に収まらないという珍しい現象が起こった。

 す、すげえ……。

 圭吾も、まさに衝撃を受けた。響壱の狙いはここでもハマったのである。

 前回のストーリーで、圭吾は、安定した精神状態でプレーするために、当初表に出さなかった本来の左打ち以外にも、秘策として、使わずにとっておいているものがいくつもあると口にしていた。その一つはピッチャーなのだけれども、これに関しては、バッターよりも自信があるわけではない。バッターのほうが野球を楽しめるので、そちらを選んでプレーしていたのだ。ピッチャーをやらなかったのは、とっておきというよりも、ケガで投手と打者のうちの片方ができなくなった場合に備えてもう一方は使わずにしておく要素が強かったので、二刀流になる気はなかったのだった。

 そのピッチャーも、打撃ほどではないものの、それなりにやれる自負はあったのだが、隆治の圧巻のピッチングを目の当たりにし、これに関しては自分がどう頑張ってもかなわないと白旗を上げる気持ちになった。そんな心境になったのは、野球の天才の彼にとって初めての経験で、つまりショックの大きさは、隆治が圭吾のホームランで受けたときに、本当に匹敵するレベルだったのである。

 圭吾は、隣の席で試合を観戦していた響壱に、深く考えることをする間もなく、こう伝えた。

「響壱さん。俺、プロ野球界に復帰しますよ。そして、隆治くんと対戦するために、メジャーリーグに挑戦します」

「え! 本当ですか?」

「はい。俺も、彼と勝負がしたいので」

 圭吾は、優しい性格ゆえ、自分よりも他人のことを優先しがちだった。隆治が圭吾のホームランによる衝撃で新たな己を獲得したように、圭吾もそれまでの彼とは異なる、燃えたぎるような情熱的な一面が目覚めたのだった。



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