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スーパースターな男II  作者: 柿井優嬉


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32/45

韮沢隆治の話⑳

「オー」

「ノー」

 観客席のあちこちから、深いため息が漏れた。

 ブラウンが隆治から放った大きな打球は、ほんのわずかに切れて、ファウルだったのである。

 しかし、アウトローのボール、それも隆治の力のあるストレートを、あの位置まで持っていったパワーは、やはり並の選手ではない証だ。隆治は、たとえ打たれても、ファウルになるコースという意識で投げていたものの、本気でヒヤッとした。

 すごい。さすがはメジャーリーグのホームラン王だ——。

 彼は、油断はしていなかったが、一層気を引き締めて、次の球は内角に切れ込むシュートを投じた。これも悪い球ではなかったというのに、ブラウンは三塁線への鋭いライナーで打ち返した。けれども、またもフェアまでもう少しのファウルとなった。

 続く三球目は、ストライクゾーンからボールになるスライダー。ブラウンは見極めて手を出さず、カウントは、ワンボール、ツーストライク、である。

 そして、第四球。隆治が決め球として投じたのは、スプリット、日本で言うところの、フォークボールだった。

 日本では多くのピッチャーが使う変化球であるが、メジャーリーグで投げるピッチャーは非常に少ないために、有効であることはよく知られている。隆治も、シーズンが始まる前のキャンプの時期から、味方のキャッチャーや首脳陣たちからそうアドバイスをもらっており、オープン戦で投げて手応えを得ていた。このときも捕手がサインでスプリットを要求して、首を縦に振ったのだ。

 ところが、その選択はブラウンの思う壺だった。なにしろ、隆治のボールを打つために分析や練習を散々行ったのだから、彼の最も得意とする球種ではなかったけれども、日本人であり、また、メジャーリーグではほとんど使われないので効果的だと考えて、スプリットを投げてくる確率が高いことは予測済みだったのだ。バッティング練習でも、この変化球を打つことにかなりの時間を割いたのである。

 ブラウンは真芯でボールを捕らえた。打球は左中間への大きな当たりで、もうファウルにはなり得ない。

 センターとレフトの二人は早々追うのを諦め、今度こそ文句なしのホームランとなったのだった。

「ワーッ!」

 スタジアムは観客による大歓声に包まれ、ブラウンは右手を突き上げて、その声援に応えた。

 見たか、若造よ!

 ブラウンは、心の中で、隆治に向かって叫んだ。

「くっ」

 隆治は表情をゆがめた。彼が日本での最後のシーズン、つまりおよそ半年の間に、打たれたホームランはたったの一本だった。それが、この打席だけでほとんど二本放たれた思いを味わったのだ。

 やはりメジャーリーグのレベルは高い。簡単にはいかない。

 そう実感したのであった。


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