杉森圭吾の話⑪
「すみませんでした! 俺、杉森さんに八つ当たりをしたんです。弟の健康状態がずっと良くないし、親はその勇斗にかかりきりだし、でイライラしてて」
通行量が少ない通りで、楓を介して圭吾と再会した大斗は、会うなり、半べそといった態度で、頭を思いきり下げて、そう謝った。
自分のほうが謝罪するつもりでやってきて、そんな展開は望んでおらずに慌てた圭吾はすぐに、芽生たちにしたのと同じ内容を口にした。
「そういうわけで、大斗くんの言葉は確かにショックだったけれど、俺も前から自分はお金をもらい過ぎだと思ってたんで、たとえあのときのことがなくても、多少時期が異なっていた程度で、同じように引退していたと思う。だから、きみが罪悪感を抱く必要なんてないんだよ」
「……だけど、あんなに悪く言われたのに、やっぱり弟のためにお金を用意してくださって、謝罪もお礼もしなかったですし……」
大斗は、気が強そうに見えるが、根は繊細で善い人間という雰囲気も感じられる青年である。
「いやあ、『治療費を援助させてください』って、一度ご両親に口にしてしまった手前、お金を出さないわけにはいかなかっただけだからさ。その申し出を、多感な中学生の耳には入らないところで行うべきだったんだから、俺のほうこそきみに謝るべきだよ。本当にごめんね」
圭吾は、大斗を思って、明るい口調で述べた。
「……だったら……」
それでも変わらず沈んだ表情の大斗が、また口を開いた。
「ん?」
「俺は悪くないって言っていただけるのであれば、プロ野球の世界に、選手として復帰をしてもらえませんか? じゃないと、罪の意識を完全にはぬぐえません」
すると、そばにいて二人のやりとりを見守っていた楓も、大斗の今の言葉を名案と思った様子で、圭吾に向かってしゃべった。
「そうよ、そうしなさいよ。若い頃にやらなかったぶんの下積みみたいな生活はもう十分したわけだし、野球でお金をたくさんもらったって悪くないっていう、この前会ったときにした、私の話に納得したんなら」
「うーん……」
圭吾はどうするか考えて、答えた。
「それは無理かな」
その返事が少々軽い調子だったこともあり、楓は、びっくりして、はっとした状態になった。
「あんたねー!」
そして、怒りがわき上がり、前のときと一緒の、鬼のような形相で圭吾に迫っていったのだった。




