杉森圭吾の話⑦
翌日、二人が勤めている会社内で、智香が芽生に話しかけた。
「あの人、どーお?」
「何が?」
智香が圭吾のことを話題にするつもりなのはわかったが、またごちゃごちゃ言われたりするのだろうとげんなりした気持ちで、芽生はそっけなく返事をした。
「何って、杉森圭吾をどう思ったかに決まってんじゃない。あんな理由で引退までするなんて、ちょっと真面目過ぎかなー? でも、そんな堅い性格であれば、選手時代に稼いだお金はほとんど使わずに、きっちり貯金してそうだよねー? にしても、アルバイトじゃ、人生まだ長いのに、心配かー。とはいっても、彼女ができたり、結婚するとなったら、さすがに正社員で仕事をするようになるかもねー」
「よくしゃべるね、あんた」
一人であーだこーだ語る智香に、芽生は冷めた顔である。
「だからー、どうなのよ? あいつ。いいの? 嫌なの?」
智香は強い口調で再度問いかけた。
「べ、別に、嫌じゃないけど」
芽生はぼそっと言った。
「そう。だったら、キープってことで——」
すると、智香は携帯をいじりだした。
「『近いうち、私たちとあなたの三人で、食事にでも行きませんか?』ってメッセージを送るよ。いいね?」
「ええ? いつのまにそんな関係になってるの?」
「だって、もう働いてる場所がわかってて、いつでも会えるわけだからさ。連絡先訊いても、全然嫌がったりしなかったよ」
「それは、邪険にすると、あんたに何かやられて、『最初のコンビニのときみたいに、仕事を辞めなきゃならなくなるかも』って思ったからじゃないの?」
「違うねー」
智香は心外といった態度で唇を尖らせた。
「むしろ、嬉しかったと思うよ。プロ野球選手のときはチヤホヤされて、黙っててもたくさん人が寄ってきたのに、今じゃ遠くからちょっと指をさされる程度だって言ってたじゃん。積極的に仲良くしようとしてくれてる、それも、こんなに可愛い乙女が二人も、だよ。今頃、はしゃいで、小躍りしちゃってるじゃないかな」
芽生は一層呆れた。
「図々しいのも、ここまでくると感心しちゃうよ。もう乙女なんて言える歳でもないでしょうに」
「なにさ、三十なんて、まだまだひよっこよ。だ、か、らー、メッセージを送るけど、どうなのよ? いいの? 嫌なの?」
「……別に、嫌じゃないけど」
また芽生はぼそっと答えた。
「よかったわねー、あんた、憧れだった人とお近づきになれて。私のおかげよ。素直に、もっと喜んだらどうなの?」
そう言われると、何も返せない芽生なのだった。
「……はあい」
こうして、圭吾は、芽生と智香の二人と友人になり、三人で食事や遊びに行く間柄になったのであった。




