24-肆-偽物の関係に
美冬と琉亜は、学校の最寄り駅にある大型チェーンのカフェを訪れた。
放課後すぐの時間帯とあって、店内は学生たちで賑わっている。
彼らと同じ私立翔南高校の制服姿も、ちらほらと目についた。
「席、空いてるか?」
琉亜が店内をざっと見回しながら尋ねる。
「ゆっくり話せる雰囲気ではないですね……」
美冬は少し声を落としながら、混雑した空間に視線を巡らせた。
目的の場所が混雑していれば、別の店を探すのが自然な流れだ。
けれど、それはあくまで、ある程度遊び慣れた人が取る選択肢だ。
それはすぐに思いつくような手段ではなかった。
「白石、もしよかったら何か買って、近くの公園にでも行かないか?」
店内を見渡したあと、琉亜がふと思いついたように言った。
「そう……ですね。
そうしましょう!」
美冬は少しだけ間を置いてから、ぱっと表情を明るくした。
何も思いつかなかった彼女にとって、その提案はまさに渡りに船だった。
「お待たせしましたー! 抹茶ラテとカフェモカ、テイクアウトでお待ちのお客様ー!」
店員の明るい声が響くと、美冬が小さく手を挙げて、カウンターへ向かった。
二人分のドリンクが乗ったトレイを手にすると、カフェの自動ドアが軽い電子音を鳴らす。
外に出ると、途端に冷たい風が二人を包んだ。
昼を過ぎたばかりだというのに、空気はすでに夕方の気配を含み始めている。
コンクリートの地面から、しんとした冷気が足元に這い上がってくるようだった。
「寒っ……」
琉亜が思わず呟く。
美冬はその声に、苦笑まじりに頷いた。
「本当に、寒くなりましたね……」
手渡されたカップを受け取ると、琉亜はその熱を両手で包み込むようにして持った。
「俺、カフェモカって初めてかも」
「私も抹茶ラテを買うの初めてです。これ、友達に勧められて一口飲んだら、すごく美味しくて」
美冬は紙カップのフタを開け、ふうっと息を吹きかける。
その姿はどこか柔らかく、普段よりもほんの少しだけ幼く見えた。
駅前の喧騒が背中越しに遠ざかっていく。
二人はゆっくりと歩き出し、目的地である小さな公園へと足を向けた。
歩道には学生の姿がまだ多く、制服の色が交じり合いながら、通り過ぎていく。
その喧騒から少しだけ外れた、街路樹の並ぶ細い道を選んで、二人は並んで歩いていた。
美冬は紙カップを両手で包み、ふたを外すことなく、小さく口をつけていた。
琉亜の歩幅はゆっくりで、美冬に合わせているようにも見えた。
交差点を一本越えた先、小さな公園の入口が見えてきた。
木々の葉はすっかり落ちて、ベンチの影も長く、どこか所在なく伸びている。
人影はほとんどなかった。
「ここ、誰もいないですね」
美冬がそう言って立ち止まり、公園内を見渡す。
琉亜も黙って頷き、舗装された小道を通って、端のベンチに腰を下ろした。
「……寒いけど、悪くないな」
琉亜は言いながら、膝に肘を乗せてカップを片手に持った。
もうもうと立ちのぼる湯気が、冬の空気の中でゆっくりと揺れている。
「そうですね。こうしてると、冬も嫌いじゃなくなります」
美冬も隣に座り、すぐ隣ではなく、少し間をあけて腰掛けた。
その距離が、ちょうど良かった。
遠くで車の音がかすかに響いている。
風に揺れる枝の音と、紙カップを持ち直す控えめな衣擦れ。
言葉は少ないが、不思議と居心地の悪さはなかった。
「倉本さん、寒くないですか?」
「大丈夫。これがあるし」
そう言ってカフェモカのカップを少し持ち上げる。
美冬は微笑みながら、それを真似するように抹茶ラテを持ち上げた。
「……なんだか、ちょっとだけ、放課後っぽいですね」
「放課後だけどな」
「ふふ、そうですね」
笑い合ったあと、ふたりの間にはしばらく言葉がなかった。
けれど、その沈黙は、寒さの中でも妙にあたたかく感じられた。
「……で、話したいことって?」
琉亜は、妙にあたたかくなっていた空気を断ち切るように、美冬へ視線を向けた。
「聞きたいこと、でもあるんですけど……その、倉本さんが不快になったら嫌だなって……」
この場所を選び、こうして時間も取ったはずなのに、美冬の言葉にはまだ迷いが滲んでいた。
「聞くだけなら、とりあえず何でも」
琉亜はそのためらいを、静かに促す。
「……では」
美冬は膝の上で指を組み、ひとつ深く息を吸ってから、口を開いた。




