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青綴り-Do you believe in the self that loves ?  作者: 遥
03-偽物とは?
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22-弐-偽物の日常Ⅱ

「倉本さん、一緒に食べませんか?」


 昼休みになると、まるで当たり前のように、白石美冬が倉本琉亜の教室へやって来る。

 そして彼の席の前に立ち、そう言い放った。


「いいよ。今日は、どこで食べようか?」


 このやり取りも、問いかけも、毎回同じだ。


「いつもの場所に行きませんか?」


 校舎裏のベンチのことだろう。


「……今日、寒いだろ? 大丈夫か?」


 琉亜は、スカート姿の美冬を見ながら、思わず口にしていた。

 外の気温は、すでに五度を下回っている。


「大丈夫ですよ。このタイツ、温かいので」


 特に恥ずかしがるでもなく、美冬はさらりと答えた。


「そっか。なら、行こうか」


 そうして二人は、いつものように席を立ち、校舎の外へと向かっていった。



「明日から休みですね」


 校舎裏の、いつもと変わらないベンチに腰掛けながら、美冬がしみじみと呟いた。


「そうだな。……最高だよ」


 学校が嫌いで、時折授業にも出られない琉亜にとって、長期休みに入るという事実は、それだけで至福だった。

 それ以上の理由など、必要ない。


「あ、でも、美冬が作ってくれた弁当は食べられなくなるのか……いいことばかりじゃないな」


 手元の弁当箱に視線を落としながら、琉亜は思い出したように呟いた。


「そう言ってもらえると、光栄ですね。

 ……私も、倉本さんとお話しするの、楽しいですよ」


 美冬が彼の弁当を作るのは、この“仮初の関係”に繋ぎ止めてしまっていることへの、せめてもの礼だった。


 白石美冬は、学年でも一際目を引く美人で、清楚な雰囲気をまとっている。

 加えて、成績も常に上位。教師からの信頼も厚く、生徒たちの注目を集める存在だった。


 だが──彼氏持ちという立場になったことで、告白してくる男子は激減した。

 仮に思いを伝える者が現れても、相手が誰であろうと“玉砕覚悟”で挑むような空気が生まれていた。

 断りやすいし、引き下がってくれるので、美冬はとても助かっていた。


「俺なんかと話して、楽しいもんかね」


 琉亜は自嘲気味に肩をすくめた。彼はわかっている。仮初の関係ありきの言葉であることを。


「気兼ねなく話せるので」


 美冬はそう言って、膝の上でそっと両手を重ねた。

 淡く笑ってはいるが、どこか照れ隠しのような気配も混じっている。


「まあ、確かに白石は、気兼ねなく話すと色々と大変なことになりそうだよな」


 琉亜は弁当箱のフタを閉じながら、わずかに肩をすくめた。

 それは冗談のつもりだったが、口元に浮かぶ笑みはどこか含みのあるものだった。


「……それ、どういう意味ですか?」


 美冬の声が、わずかに低くなる。

 顔は笑ったままなのに、手元では指先がほんの少しだけ握られていた。


「そのままの意味だよ」


 そう答えながら、琉亜は水筒のフタをひねった。

 目は合わせず、それでいてどこか楽しげな口ぶりだった。


 美冬は、その様子を見て、ほんの少しだけ胸が痛んだ。

 何かを言いかけて、視線を伏せる。それは放課後に話すと決めていたことだ。

 思い直すように、そっと口を閉じた。


「何か悩んでるのか?」


 ふと、琉亜が横目で美冬を見る。

 それだけの仕草だったが、彼の声色には確かな気配りが滲んでいた。


「えっ!?」


 美冬は驚いたように目を見開き、手元の弁当箱を思わず抱えるように押さえた。


「そ、そそそ、そんなことないですよ!?」


 口調も早口で、肩が一瞬ぴくりと跳ねる。わかりやすく動揺していた。


「……最近は毎日会ってるから、流石にそろそろわかってきた」


 琉亜は水筒を傾け、一口飲んでから、ゆっくりと続けた。

 目線は戻さないが、声は柔らかかった。


「それは……わからなくていいです」


 美冬は視線を落としながら、小さく首を横に振る。

 その動作には、拒絶というよりも、戸惑いに近い色があった。


「ああ、いえ。悪い意味ではないんですが……」


 手を軽く振って、誤解を解こうとする仕草。ただ、最後まで顔は上げられなかった。


「話したくないなら、無理に話さなくていいよ」


 琉亜は、真正面から見ようとはせず、手元の弁当箱を指先で静かになぞった。

 無理に聞き出すつもりなど、最初からなかった。


「……放課後に、話しますね」


 美冬はそっと微笑んだ。

 その声音には、どこか安心したような響きが混じっていた。

 もう、彼女の中では“話す”ということが決まっていた。


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