表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青綴り-Do you believe in the self that loves ?  作者: 遥
02-仮初の関係
16/25

16-陸-相談Ⅱ

「お待たせ。どこで話す?」


 琉亜は、美冬にそう問いかけた。


「人がいない場所って……どこでしょうか?」


 美冬は少しだけ首を傾げて返す。

 もともと他人にあまり関心を持たない性格のせいで、学校内のことも、自分の足で訪れた場所以外はほとんど知らなかった。


「学校の外にでるか?」


「外、ですか。学校の中で話すより、人に聞かれる可能性は減りますね」


 美冬の答えに、琉亜はうなずいた。


「駅の裏に、人気のない小さな公園がある。ベンチもあるし、話すにはちょうどいいかもな」


「駅の裏……ですか。行ったことはありませんが、大丈夫です。ついていきます」


 美冬は特に表情を変えることもなく、鞄を軽く持ち直した。

 その動作は、迷いがないというより、もともと選択肢がないことを受け入れているような、そんな静けさをまとっていた。


「じゃ、行こうか」


 琉亜が歩き出す。

 美冬もその背を一歩遅れて追いかけるように歩き始めた。


 下校の混雑とは逆方向の階段を下り、校舎の脇を抜けて、正門とは反対の通用口へ向かう。

 陽は傾きかけていて、グラウンドの砂を照らす光が橙色を帯びていた。

 ふたりの影が、長く伸びていた。


 学校の敷地を出たとき、ちょうど強めの風が吹いた。少しだけ冷たく感じられた。


 少し前まで夏だったのに、今や秋で、少しだけ冬の匂いが混じっている気がした。


 住宅街を抜け、駅の方へ向かう。

 道沿いの街路樹は、少しずつ色を変え始めていた。

 足元に落ちた葉が、乾いた音を立てて踏みしめられる。


 琉亜は特に会話を切り出すこともなく、歩く速度を美冬に合わせていた。

 その静けさは気まずさではなく、むしろ居心地のよい沈黙だった。


 やがて、小さな横断歩道を渡った先に、公園の入り口が見えてきた。

 フェンス越しに中を覗くと、遊具のある広場は誰もいない。

 ベンチがひとつ、落ち葉に囲まれるように置かれていた。


「……ここですか?」


 美冬が立ち止まり、問いかける。


「ああ。俺、たまに来るんだ」


 ふたりは並んで中に入り、ベンチの前まで歩く。

 落ち葉をひとつ避けるようにして、琉亜が腰を下ろした。


 美冬もそれに倣い、隣に座る。

 けれど距離は、ほんの少し空けていた。


 風がまたひとつ吹いて、枝先の葉がさらさらと音を立てた。


「それで、何に悩んでるんだ?」


 琉亜が、横を見ずに尋ねる。

 目線はまっすぐ前を向いたまま。

 その問いかけは、構えたものではなく、ただ静かに受け入れるような声音だった。


「お昼休み、話したことのない男子に告白されそうになって、教室から逃げてきました」


 そう言いながら、美冬は少し恥ずかしそうに、右手で頬をかく。

 その仕草には戸惑いと、ほんのわずかな照れが滲んでいた。


「初めてじゃありませんし、今に始まった悩みというわけでもないんですけど」


 その言葉に、琉亜は心の中で静かにうなずく。


 彼女の容姿は整っていて、肌もきれいだ。

 物腰は柔らかく、距離感が近い。

 そうした要素が重なれば、男子高校生が期待してしまうのも、無理はない気がする。


 けれど、話したこともない相手に告白するとなれば、それはもはや、彼女という存在そのものではなく、美術品に向けられるような一方的な好意に近い。

 その時点で、なぜ告白に踏み切るのか。意味がわからないと感じた。


(ああいや、告白する=付き合う、じゃないのか)


 思いを伝えること自体が目的という場合もあるだろう。

 そう理解しようとしながらも、やはり面倒な話だなと、琉亜は思った。


「大変だな。入学してから、どれくらい告白されたんだ?」


 そう尋ねる琉亜の声は、どこか他人事のように淡々としていた。


「結芽さんのおかげで、回避し続けてるので、実は、まだそこまでは行ってないんですよね」


 そう答える美冬の声は、少し誇らしげでもあり、どこか申し訳なさそうでもあった。

 そして、「あ」と小さく声を漏らすと、両手を膝の上に揃えて言葉を続けた。


「あ、えっと……結芽さんは、私の友達でして。具体的には、私に告白しようとする男子がいたら、先に教えてくれるというか……」


 琉亜は少しだけ目を細め、美冬を見やる。

 初めて聞く名前に少しだけ戸惑ったが、言葉を遮すことはしなかった。


「男子の恋心は、相手には筒抜けなのか」


 口元をわずかにゆるめ、冗談めかして言う琉亜。

 けれどその声色には、どこか本気のため息が混じっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ