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青綴り-Do you believe in the self that loves ?  作者: 遥
02-仮初の関係
15/25

15-伍-相談

「倉本琉亜さん、いらっしゃいますか?」


 放課後の1年D組の教室に、ひょこりと顔を出したのは白石美冬だった。

 学年内ではそれなりに知られた存在である彼女が、突然彼の名を呼んだことで、教室にはざわめきが広がった。

 素行不良の彼の名を、有名人の彼女が呼んだのだ。そのシチュエーションに、意味を持たせてしまうのが、いかにも高校生らしい振る舞いだろう。

 けれど、美冬自身は、その空気の変化にまったく気づいていなかった。


「琉亜に、何の用?」


 背後から声をかけてきたのは、万丈涼だった。

 琉亜と仲の良い、あの金髪の男子。耳には銀色のピアスが光っている。

 彼は美冬を、物珍しげな視線で見ていた。


 一方、美冬もまた、彼の風貌に軽く目を見張っていた。

 けれど、それもほんの一瞬のことで、すぐに視線を戻して言葉を口にする。


「相談に乗ってもらう予定なんです」


 その言葉を聞いて、涼はほんのわずかに目を細めた。


「……あいつ、前に痛い目にあったの、忘れたのかよ」


 思わずこぼれたような口調で、吐き捨てるようにそう言った。


「痛い目……ですか?」


 美冬は言葉の意味を飲み込めず、きょとんとした顔を浮かべた。


「あー……ごめん。聞いてないのか。……そっか」


 涼は、美冬がてっきり琉亜の過去を知った上で来たのだと思っていた。

 知らなかったという事実に、少し意外そうな表情を見せる。


「そうなんです。何があったんですか?」


 美冬は、思わず問い返していた。

 ふだんあまり多くを語るタイプではないが、この話は別だった。

 無意識のうちに、興味が勝っていた。


「……俺からは話せねぇよ。どうしてもって言うなら、本人に聞け」


「聞いたんです。でも、大事なところはぼかされたというか……」


「それでも、俺はアイツの友達だから。無理だな」


 何かを期待していた気持ちは、あっさりと打ち砕かれた。

 涼の言葉には迷いがなかった。

 美冬には、それ以上踏み込む理由も、言葉もなかった。


「……わかりました」


「ご期待に添えられなくて悪いな。琉亜、呼んでくるわ」


 そう言い残して、涼はそのまま教室の中へ入っていった。


「琉亜、白石さんが来てるぞ」


 涼は、自分の机で帰り支度をしている琉亜に声をかけた。


「ありがとう」


 その言葉を聞いて、ようやく琉亜は顔を上げる。

 教室と廊下をつなぐ扉の方に視線を向け、美冬の姿を確認した。


 彼女の声は、琉亜の席までは届いていなかったようだ。

 あまり大きな声ではなかったのだから、それも無理はない。


「お前、また繰り返すつもりなのか?」


 琉亜の動きを見て、涼は思わずそう問いかけた。

 言葉にするつもりはなかったのかもしれない。けれど、口をついて出た。


「そんなつもりはないよ」


 琉亜は、涼の言いたいことを正確に理解していた。

 スクールバッグのジッパーを静かに閉じると、その持ち手を肩に引っかける。


「だったら、人のこと気にする前に、自分の生活をちゃんと立て直せよ」


 涼は、琉亜が教室に入ることすらしんどくなっている理由を、よく知っていた。

 かつて彼は、赤の他人から持ちかけられた相談ごとに真正面から向き合い、挙句の果てに、ひどい貧乏くじを引かされた。

 その“救われた側”はというと、今では何事もなかったかのように、普通の学生生活を送っている。


 しかも今もなお、その出来事を面白半分に揶揄する者がいる。

 助けられたなら、少なくとも助けてくれた相手を守れよと、それくらいは、義理人情として当たり前だろうと、涼は考える性分だった。


 だからこそ、何もせずに貧乏くじだけを押しつけられた琉亜の姿を見るたびに、涼は同情を禁じ得なかった。


 そんな事実を経験していながら、それでも琉亜がまた他人に手を差し伸べようとするのは、正直、理解できなかった。

 自分が立ち直れていないのに、なぜ他人のことばかり気にするのか。

 それが危うくて見ていられなかった。


「それはごもっとも。でもまあ、俺の好きにさせてくれよ」


 琉亜は、涼の忠告を否定しなかった。

 ただ静かに、そして少しだけ苦笑いを浮かべて、そう言った。

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