6. Initial MissionⅥ(何気ない日常)
ミカエラは、書類の紙を机の上に置くと腕を組む。
その目の前には、両手を後ろで組んで瑛士が立っていた。
「任務ご苦労様、瑛士。初任務だったけど、どうだったかしら?」
「ふん、大したことは無い。別に初めてでもないしな」
ミカエラは、瑛士の返答を聞くと呆れるように声を漏らす。
「はぁ、、、そう言う事を言ってるんじゃないんだけど?」
「はて、どういう意味だ」
「貴方の司令官としての初任務で、部下たちはどうだったのかを聞いてるのよ」
「あぁ、そう言う事か。なら、わかりやすく言ってくれ」
「悪かったわね!」
いつもいつも、瑛士に振り回されている感じだ。
昔から知っているが、今も変わらない。
ミカエラにとって、それが今の状況が懐かしくて、戻った感覚を覚えた。
そこで、瑛士は顎に左手を持ってきて考える素振りを見せた。
「そうだな。乃亜は、機械の扱いに慣れているし順序立てて先回りのサポートができている。鏡花は、性格も相まって隠密が得意だと推測できた。それ故、最初にターゲットを狙いバレずに尾行できたのは大きかった。綾は、性格が高圧的でプライドが高い。が、そのせいか自分の仕事に関われば正確で精密な射撃ができていた。遠くからでも小さい物を狙えるほどのな。最後は真白だが、アイツは何者だ?」
「何者って?」
「とぼけるな。真白という女は、ハンドガンでの遠近に対する正確。近接での体術に加えて格闘術が出来過ぎている。任務中の態度が、楽観的過ぎて心配だったが、目の前に敵が現れた瞬間に目や雰囲気が変わったぞ。俺でも一対一で戦ったとしても、いい勝負はできるだろ」
瑛士の言葉を聞くと、ミカエラは嬉しそうに笑みを浮かべる。
そんな彼女の様子を見て、瑛士は自分をからかっているのでは?と訝しげる。
「晴崎真白。彼女は、元々捨てられていた所を人身売買で裏オークションに出されていたらしいわよ。それで、その時の名前は『DND』だったそうよ。意味は不明だけど、相当な劣悪な環境で育ってきたらしいわね。最終的には、ウチの組織が彼女を拾って更生させて今に至るわけだけど…………」
ミカエラは、引き出しから一つ一つ捲りながら何かを探す。
「元々日本じゃないのか」
「まぁ、血は純粋な日本人らしいけど………………あったわ」
ミカエラは、ピンで留められた書類を瑛士に手渡す。
受け取った瑛士は、すぐに内容を確認すると、顔写真には真白が映っていた。
それも、普段と変わらない気さくな笑顔で。
「そこに大体の内容があるけど、詳しくは本人にしか分からないわ」
「ありがと、ミカエラ」
「別に、貴方を思ってじゃないわよ。けど、仲間の過去を知りすぎても辛いだけだし、嫌な思いをするかもしれない。それを踏まえた上でのソレなんだから。ちゃんと弁えなさいね」
「あぁ、分かったよ。じゃぁ、コレ借りて行くな」
瑛士は、資料を脇に挟んでミカエラの部屋を出て行くのだった。
完全に部屋から出て行くと、肩の力を抜いて空気が抜けたようにミカエラは椅子にもたれかかる。
「全く…………何考えてるのか分からないんだからぁ……………………はぁ~……………」
校舎には、青く広がる空。
隠れることなく照り付ける眩しい太陽と光が照らしていた。
風が和やかに吹き抜けるも、太陽が照らしているおかげか、うっすらと温かく感じる。
正面玄関から靴を履き替えて瑛士は、グラウンドに出る。
草木の臭いが誘い込まれる中、一度大きく息を吸い込む。
暫く、グラウンドから見える校舎に敷地。
見渡していると、本当に自分一人だけしかいないのではないかと思ってしまう程に静かだ。
花壇横の道を歩いて、池を覗きながら真っすぐ進む。
校舎の横に聳え立つ学生寮。二棟ほど続いた横には、民家のような建物が置かれている。
民家と言っても金持ちが持ってそうな、ガラス多めの洋風テラス付きハウスだ。
その玄関の戸を開けると、中から騒がしい声が聞こえてくる。
「本当なんだよぉ!ぼいーん!ぼいーん!って揺れてたのぉ!!!」
「へぇ~そんなに大きかったんです?」
「大きかったね!私の二倍はあったかも!」
「アンタねぇ!私にとっての嫌味なの!?」
真白が主軸で何かの話題をして盛り上がっていた。
いかにも真白らしい話方に、綾が突っ込む。コレがいつもの流れなのだろう。
戸を開けるにも瑛士は渋って、しばらく廊下で聞いていることにした。
「えっと、、真白ちゃんの二倍って事はA、B、C、D、E、F、G………………の二倍だから……………………ッ!!」
乃亜は思わず計算した後に、驚いた顔を見せて両手で口を隠す。
その様子を見ていた真白は、
「ね?凄くない!?」
「す、凄いですよ!神秘じゃないですか!?綾ちゃんの14倍、、、、、」
「本当にブチ切れるわよ?良いの!?」
テーブルをバンッと叩く綾。
その横で、真白は椅子の上で胡坐をかいて体を横に揺らす。
「えぇ~~、、、でもさぁでもさぁ~、小さいほうが可愛かったりするよぉ?良いなぁ~良いなぁ~~」
「アンッたねぇ!ほら、鏡花も何か言いなさいよ!」
と、唐突に話題を振られる鏡花。
しかし、鏡花は真顔で考える素振りを見せてから、再度綾に目を向けた。
「別に?だって、私はDだからね。えっへん」
「何いばってんのよ~!!アンタら敵なのね!!??」
「綾ちゃん、皆で一緒に探そ?ね?」
「乃亜、アンタ何探すつもりよ!」
徐々にエスカレートしそうな話に、入るのは、いささか男子にとってキツいモノがある。
しかし、いつまで待っても入るタイミングを逃してしまいそうだった為、瑛士は扉を開けることにした。
平常を装いつつ。
「帰ったぞ」
と、一言掛けると
一気に皆の視線が瑛士に移る。
「おかえりなさい、瑛士さん」
「お帰り、ボス」
「あ!おかえり~司令官~!」
「へぇ、戻ったのね」
最後にムスッと顔の綾。
彼女をいじるのが鉄則なのだろうか。
そんな事を思いながらも瑛士は腰に手を置いて
「綾。この世の魅力は、胸の大きさで決まるわけじゃないぞ。だから、自信を持て。それに、俺はどっちでも大好きだ」
そう言って、瑛士はソファに腰を掛ける。
その言葉を聞くと、一気に綾の顔は赤く染まって湯気が沸騰したみたいな効果音が出そうなほどに目を見開く。
「アンタねぇ、、、、、、デリカシーってもん捨ててきた訳ぇぇ!!!!????」
瑛士の頭を何度も拳で殴りつける。
それらを華麗に躱すも、途中途中かわしきれずに肩に当たる。
「それは流石に痛いな」
「知らないわぁ………………ッよぉ!」
椅子で揺れる真白はハッとする。
「あ、そういえばボスも大概大きいよねぇ?」
「確かにそうですね。露出多めのスーツ着てますよね?」
「確かに。アレは私でも、見逃せない」
三人は、ミカエラの事を想像する。
すると、
「ねぇねぇ司令官~」
「なんだ?」
「ボスって、どのくらいなの?」
「そうだな、、、、、、、あ……………………」
すると、綾が瑛士の話をしている途中で顔面に殴り掛かる。
それを、綺麗に手で受け止めるのだった。
「それ以上言うなぁ~~~~~ッ!!!!!!」
受け止められて悔しそうな綾。
それでも、相手をしてくれる瑛士。
そして、二人を見て楽しそうに団欒する真白、乃亜、鏡花。
ここは、誰も使わなくなった離島小島の学園。
名前も無い、住所も持たない隔離された島。
いつ死ぬかもわからない、命と隣り合わせの日々。
それでも、私たちは笑って明日を迎えるのだろう。
例え、昨日が友達の命日でも、明日が明るければ報われる。
そう言って、笑い飛ばして見送るだろう。
だからこそ忘れない。
忘れてなんかやるもんか。
報われない日々には、おさらばするんだから。
そう言って、私たちは今日も明日も生きて行く。
今死ぬと分かっていても。
それが、私たち・僕たちの人生だ―――――――。