3. Initial MissionⅢ(初動任務開始)
ピピ―――――ッ
ピピ―――――ッ
路地に隠れた黒いワンボックスカー。
その中で、乃亜は数台のパソコンの中でマイク越しに全員の配置を確認していた。
ピピ―――ザ——ッ
『私、配置オッケーだよー!!!』
先に元気の良い声が聞こえる。
真白だ。
真白の声を聞くと、乃亜は微笑む。
その横で、呆れたように息を漏らす瑛士。
「おい、任務中だ。少しでもバレるような行動はするな」
『了解だよ!司令官!!』
全く変わらない声。
本当に分かっているのかコイツ?と言わんばかりに不服だ。
「ホントに、分かってんのかコイツ」
「瑛士さん。心の声漏れちゃってますよ~」
「しまった、つい」
思わず、思った事を、そのまま呟いてしまった。
この先、気を付けなければ。
『ま、アンタのお手並み拝見といくわよ。けど、ダメだった私が勝手に動くからね』
と、強気で高圧的な声は綾だ。
そんな彼女の応答に、瑛士は笑みを浮かべる。
「勿論だ。その時は、お前の好きにしろ」
『あっそ』
『ねぇ、私はどうしたらよろし?』
直後、応答したのは鏡花だった。
相変わらずのやる気の無さそうな声。
「鏡花の尾行が成功できるかどうかだ。まずは、バレずにアジト迄潜伏しろ。そして、内状偵察だ」
『ぉぉ、理解』
と端的に答えて、すぐに切れてしまった。
そこで、乃亜は疑問を浮かべるように瑛士へ尋ねる。
「瑛士さん、どうして相手側がアジトがあると推測したのです?」
「それはな。武器を横流しで受け取っていたと言っていただろ」
「はい。でも、それが何故?」
「北部部隊の逃がした暴力団の人数は、数十と居る。つまりは、呼びも含めてそれ以上のたくわえが必要になる。となれば、念に逃げ先にアジトを構えておけば用意をすることが容易で大勢を整えると考えるハズだ」
そこで、唇に乃亜は指を近づけてしばらく考える。
すると、
「あれ?でも、逃げきれて安心するというよりも、追われるリスクは考えないのでしょうか?」
「考えるだろうな。そこで、お前の洞察力に掛ける」
「へ?」
「乃亜の視点で見た、相手の動きで、違和感があるはずだ」
乃亜は、瑛士の話を聞くと両手で納得する素振りを行う。
「あぁ!なるほど!!」
「理解できたか?」
「はい!私は、真の相手を暴いて、真のアジトを見つけ出せばよろしいのですね!」
「そう言う事だ」
「納得です。ここまで教えて頂きありがとうございます、瑛士さん」
やはり乃亜は、律義だ。
何事にも真摯に、言葉を重んじている。
その時、顔の割れている暴力団の一人が行動し始めた。
「動いた。鏡花、尾行を」
『らじょだよー……………………スたたたたぁ』
と、自身で擬音を出しながらテナントの上を駆けだす。
その様子を見て、瑛士は注意するのも諦めたように溜息だけをして見守るのだった。
そんな瑛士の様子を横目で見ていた乃亜は、一言差し出す。
「大丈夫ですよ。皆、凄いので」
「そうか」
乃亜の自信に満ちた言葉に声。
それだけで、皆が互いに互いを信じあっているのだろうと確信できた。
そして、視線は街のマップの中で動く鏡花のポインターに、監視カメラ映像の画面を自在に操って確認煤乃亜に向かった。
男は、人混みの中を歩いて行く。
その様子を、鏡花は途中止まりながらテナントの上にある塀や、小さなビルの貯水槽の陰から覗く。
男は、一瞬後ろを確認してテナント同士の路地に入る。
「お、警戒はしているんだねぇ」
鏡花は、下に降りて飲食店の屋根に乗っかる。
そのまま、音を出さずに確認しながら真っ先に走る。
その様子を画面で確認する乃亜と瑛士。
「瑛士さん。このままだと、壁にぶつかりますけど。やはりコレは誘導。つまり他に潜んでいるという事ですよね?」
「そのようだな……………………監視カメラのチェックだ」
「すでにしてありますよ」
瑛士の指示よりも先に、乃亜は複数の映像を選び抜いて用意してくれていた。
しかも、満面の笑みだ。
「……………………もう、確認してたのか。あの流れの中でか」
「はい!だって、私が見つけるんだったら、目星は付いてありますから!」
「ほぉ、そこは何処だ」
「其処はここです!」
と、乃亜が指を突き出した。
其処は、
「なるほど―――――風俗店か」
そう、複数の風俗店だった。
主に、風俗店系列は裏にヤクザなどの暴力団が関与している事が多い。
しかし、縄張り争いの絶えず意識の強いグループでもある為、よそからの暴力団は抗争になりかねないと思い、除外していた。
「そこで、顔写真の照らし合わせで出入りしている人を数日の履歴で確認したんですが、、、、、ざっと五人一致してます。ということは――――」
「ここは、元々該当した暴力団の持ち店」
「はい!向こうは、こちら側が他所者だと思っている事を想定しているとしたら?」
「今がチャンスだな」
瑛士は、すぐに口元のマイクに指を持っていき、近づける。
口を開き、指示を送ろうとした時だった――――
『おっひゃぁ~!何これぇ!?女の写真壁にいっぱい並んでるよ?スゴ~!』
真白だ。
思わず、瑛士がモニターを確認する。
すると、全くの反対方向で、しかも建物の上に待機していたはずの彼女のが一瞬にして、対象の風俗店に入っていたのだった。
「お前、どうやって其処まで行った?」
『はぇ?普通にぃ、屋根を走ってポーンッてジャンプしてねぇ~、そんでねぇ~』
「いや、もういい」
説明すらも語彙力の無さがうかがえる。
確実に国語が苦手なタイプ。それか、直感型だ。
思わず、瑛士は頭に手を置くと、横で乃亜は微笑んでいた。
「安心してください瑛士さん。真白ちゃんは、私たちの中でもトップクラスに身体能力が高いんですから。ゲームで言うウルトラレアってやつですよ!」
「……………………そうか。なら、ウルトラレアを手に下なら活用する他ないな」
『はいよぉ~!何でも指示出しちゃってねぇ~!わったし、頑張っちゃうから~!』
「その風俗の事務所に行けば対象はいるだろ。その男たちを一人だけ残して、ソレ以外は殺せ」
通路で体を横に揺らし、屈伸を繰り返す真白。
準備体操の様に、ゆっくりと行う。
『え?じゃぁ、全員殺しちゃっても良いの!?』
「雇われてる女たちは殺すな。客もだ。ま、それ以外の雇い主含めた奴らは遠慮なく殺ってもいい」
『おっけぇ~!てなわけでぇ………』
真白の台詞が途中途絶えたように聞こえた。
その時、真白の目の前に一人のスーツの男が近づいてきていた。
『司令官。私、カメラに滅茶苦茶映ってたみたいで、怪しまれてたかも~…………えへへ』
真白の言葉を聞いた瑛士、綾の位置を確認すると、
「綾。お前は、高層ビルを探し当てられたようだな」
『何言ってんのよ、当たり前でしょ?それより、早く突っ込ませないさいよね。それと、逃がすんだったら、裏口よ』
「だそうだ。真白、出来るか?」
『もっちろん~!やってもいい?いいよねぇ!?』
『お前、未成年だろ!此処で何してる!』
と、真白のインカムから男の声が聞こえてくる。
それを、瑛士は合図にスタートの指示を出した。
「ゴーッ!」
『おっけぇ~!』
「話を聞いてるのかテメェ」
スーツの男は、真白の左肩に手を伸ばす。
手が触れる瞬間、ジッとしたから真白の瞳は男を見つめて、前髪で陰る中淡く鋭い眼光が浮き出る。
そして、触れたその腕を左手で男の手を右側に弾く。
「ぅお!?何すんだ…………」
「……………………ッ」
真白は無言のまま、男へ視線を向けたままだ。
右に逸れて、真白に背中を少しだけ露にすると、踏み出した右足を足払いする。
つまづいて、真白の横によろめいて完全に背中全体が見えたその時、男は振り返る。
が、
銃声が二発。
真白は、ノールックで右太腿に隠し持っていたグロック17を剥きだして後ろに、突き出して体は正面を向けたまま、男の頭部へ撃ち込んでいた。
右手にグロック17を手に持ったまま、インカムに真白は言う。
「一人目撃破。次に行くよ」
さっきまでの真白とは正反対。
冷静で声色が低く変わったように、報告するのだった。