第4話 魔王を狙う者
眠い。すごく眠い。
午後の地獄のような眠気と戦いながら、授業を受けていた。目を開けているだけで、先生の話なんて1ミリも聞けてないので意味ないが。
「……であるからして、って髙井君居眠りしないよ」
「はひっ!せんせいすいません」
「次は立たせますからね…えーと、ここは…」
髙井の居眠りが注意されたおかげで俺の睡魔は完全に無くなった。これならいけるぞ。
「ねぇ紅君」
横を見ると、隣の席の小鳥遊さんが俺を呼んでいた。
「ん、なに?」
「消しゴム貸してくれない?」
「良いよ、はい」
筆箱から消しゴムを出し渡す。
それがその日帰ってくることはなかった。
地獄の帰りの会が終わり下校時間になった。
ランドセルを背負い教室から出ようとすると違和感があった。
真(おい、どうなってんだよ)
あたりを見渡してみるが誰もいない。みんな消えた?
魔王(どうやら、見つかってしまったみたいだな)
真(見つかったってなんだよ?なぁ?)
魔王(悪いが真、体借りても良いか?)
真「よく分かんないけど、ここから出れるなら…」
魔王「承知!」
魔王は俺の身体の中に入り込み、身体の支配下になった。俺はというと霊体のような感じでその場に浮遊している。立場が逆になったって感じかな。
「さーて、誰が俺を殺しに来たんだ?おい!さっさと出っ!…」
突如、棒状の物が死角から頭上に振り落とされた。
その瞬間目を逸らしてしまったからよく見えなかったが、ギリギリのところでかわしたみたいだ。
(魔王!大丈夫か!?)
「大丈夫かだって、当たり前だろ?俺は魔王だからな!」
そんな会話をしていると、教室のスピーカーから放送が流れ始めた。
「あーテス、テス…おほん!これよりあなたを殺すための特別なステージを3つ用意したしました。ぜひ楽しんでください」
「なんだ、姿を見せろ!」
放送が止むと、天井から水が滴りはじめた。そして神の切れ端が落ちてきて、殴り書きでツギハタイイクカンへと書かれていた。
(魔王、とりあえずここから出よう!)
「そうだな。なら、手っ取り早く窓から…」
魔王は廊下の窓を開けようとするが、壁のようにびくともしない。
(鍵は開いてるのに…)
「真!出られないってことはとりあえず、指示通り体育館に向かうしか無いな」
(うん)
「てことは渡り廊下から行くぞ!」
2階の渡り廊下を向かおうとするが、床に水が溜まってきていて足場がとても悪くなっていた。
「くっ!…走れねぇ」
ズボンが水に濡れ重くなっており、前へ進むのがやっとなぐらいになっているが、尚も天井からの雨は止まない。
(まずい……まずいぞ……そうだ!)
「なんだ?何かいい案が思いついたのか?」
(飛べない?)
「飛ぶ?」
(えーと、なんて言うんだっけ?ほらあれだよ。ほら…浮かぶだ!浮かぶんだよ)
「そうか!この身体で出来るか分からんがやってみるか」
魔王は目を閉じ、今できる精一杯の走りから勢いよく飛んだ。すると、浮かんだ。
「出来たぞ!」
(よし、じゃあそのまま体育館へ行こう!)
浮遊した状態を維持したまま、俺達は体育館へなんとか着いた。
「よし着いたな」
大きな扉を開け中に入ると同時に扉が閉まり放送が流れ始めた。
「えぇ〜…マイクテス、テステス、第1ステージ突破ご苦労さまです」
「おい!何がしたいんだ?俺を殺したいんならさっさと正体をあらわせ!」
「それはーーーー無理ですね。私はあなたを殺したいわけではなく、肉体との分離をしたいのです」
「分離、だと?」
「はい、分離です…それでは第2ステージも楽しんでくださいね」
「おい!ちょっ、と…」
魔王がまだ話しているのに放送は終わった。
(魔王…)
「くそ、分離ってなんだよ!」
体育館に響く怒声に応えるようにボールが俺達に襲って来た。
魔王は魔力で全てのボールを弾いた。
「楽勝だな」
(あぁ…)
一息つくまもなく、体育館の窓のガラスが全て割れ、意思を持っているかのように襲いかかってきた。
それも魔力で弾こうとするが、背中にいくつか刺さった。
「うっ!…」
(大丈夫か?)
「……?……ぁたりまえだ」
なんとか立っているが、ふらついているし、会話のテンポも悪い。
「真、……お前はここから出ることだけを考えろ…」
(…分かった)
そうは言ったものの、ここから出るってどうやって…床に散らばったガラスの破片とボール…んー。
「真、次の攻撃が来そうだ」
(え?)
その刹那、床が抜けかと思うと一気に沈んだ。
「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」
次に目を開けた時、なにか重たいものでも伸し掛かっているのか、身動きが取れなかった。魔王ともいつの間にか入れ替わっている。
背中が痛い…ダメだったか、なんだかとても眠たくなってきた。みんなおやすみ。
真は目を閉じて深い眠りについた…
誰かが遠くから手を振っている…
誰だ、誰なんだ?
目を凝らしてその姿がはっきり見えようとしかけた時、意識が飛んだ。
「真!起きろ!!」
「はっ!」
あたりを見渡すと校舎の外、校庭にいた。
「…さっきまで体育館にいなかったっけ?」
体をおこしつつ言うと魔王が不服そうに喋り始めた。
「体育館にいたはずだが、おれもよく分からない。目を覚ますと校庭にいてお前が倒れていた」
「そうなのか…」
「いやーおめでとうございます。まさかここまでしぶといとは…おほん!それでは最後の第3ステージも楽しんでくださいね!」
どこからか聞こえてきたアナウンスが終わると、地上から土人形のようなものが地面から這い出てきた。
「真、とりあえず立てるか?それと身体貸せるか?」
なんか頭痛がするけど今は目の前のあいつをどうにかしないといけないし、
「大、丈夫…」
「それじゃあいくぞ!」
再び身体からすっと自分の霊体のようなものがでて、魔王が肉体に入り込んだ。
「しゃあー行くぞ!」
土人形はそんなことも構わず、校舎ほどある巨体からパンチを繰り出してきた。それをなんなくとかわし、腕にのり走りだす。
(魔王!なにを!?)
「今から、こいつの頭を吹き飛ばす」
(土人形って、頭吹き飛ばしたら倒せるの?)
「知らん!」
と、そこで肩の位置までついたが土人形の身体がみるみる崩れていき、魔王が落下していく。
「アァァァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!」
軽い身のこなしで着地に成功したが、土人形は近い場所で再び自分の体を形成し始めている。
「コイツは骨が折れるな」
(俺の?)
「いや、まぁ面倒くさいから説明はあとだ。魔力を使う。お前の身体が耐えきれるかは分からないが、使わないとコイツは倒せん。良いな」
(………わかった…)
「出来るだけ、身体に負荷がかからないように気を付けるが、後から文句は言うなよ」
土人形の単調な攻撃をいくつかかわしつつ、魔力がこもった玉を作りはじめた。
(そんなんで倒せるの?)
「ぁあ?今のお前の体じゃ使える魔力の限界がこれなんだよ」
(そうなんだ…って!次の攻撃くるよ!)
「そう焦るな。ギリギリまで引き寄せなきゃこの技は成功しない」
魔王は土人形の足下まで行き、上半身が隠れるぐらいに大きくなった魔力玉を土人形めがけて放った。次の瞬間、一瞬時間が遅れたかのように見えたかと思うと土人形の身体が粉々になって崩れていく。
「はぁ…はぁ…倒したぞ」
(すげぇー、すげぇーよ魔王!)
「まぁな、魔王様だからな。主は家臣を守るのも仕事のうちだ」
安心したのも束の間、そのまま意識が遠のいていった。
そして、次に目が覚めた時自分の部屋にいた…