第9話 舞いあがる心と沈む心
「久しぶりだね紅君。1ヶ月ぶりかな?」
目と目が合って気まずくなった真はおもわず目を逸らした。
いや、単純に怖かったのだ。前見たときとは明らかに違う紫色の眼光が。
「あー…そうだな」
やべぇ、カッコつけたみたいになっちまった。すぅーはぁー。
魔王どんな感じだ?なにか分かるか?
(いや、こちらも気づいてるように奴もまた気づいているのか全く分からん)
まじか。
「それで紅君、誰と話してるのかな?」
背後にいたはずだが急に、彼女の顔が真横から現れた。眼は完全にこちらを捉えている。
「ちょっとお手洗い行ってくる」
「ダメだよ。ちゃんと教えてくれないとね」
立ち上がろうとする俺の腕を女性とは思えないほどの握力で掴んできた。痛い。
「…ぇ…ぃ…」
「ん?」
「言えないんだ。このことは…」
「そう…まぁ良いや用事はそれじゃないし」
じゃあ手離してくれよと言いたいところだが、そんなこと言える余裕は無いっすね。
「じゃあさ、紅君。学校は好きかな?」
何を試してるんだ?
「…」
「ねぇ、好き?」
痛い、痛い、痛い、痛い。
「…す、…きだよ」
「そっか…」
俺の反応でなにかを分かったのか、失望したのか分からないが手を離してくれた。
「わたしはね嫌いだよこんな場所。どうしてみんな同じ年に生まれて、ただ住んでる所が近かっただけで仲良くなれるのかな。こんなにも世界は広いっていうのに」
「なんだ…友達、いないのか?」
「うーん…そんな簡単なことじゃないよ。わたしが言いたいのはね。ただ、…いやいいや君に言っても分からないと思うし」
なんだその言い方気になるだろ。
(おかしい)
なにが?
(先ほどからやつは殺気を放ってるのだが、攻撃を仕掛けてくる様子が一切感じない)
別に攻撃する気はないってわけじゃないのか?
(それならここまで分かりやすく殺気を出さなくてもいいと思ってな)
たしかにそうか。
「こんなこと言うとあれだけど、これからこの学校壊そうと思うの」
「なんでだよ」
「なんでだと思う?教えてあげなーい」
初恋だから許してきたけど、だんだんムカついてきたな。
「それじゃあ、君と会うのはこれが最後になるだろうね…」
彼女は少し悲しそうな眼をしていた。
「おい!待てよ!!」
どこからともなく風が吹いてきて、やんだ時には一ノ瀬の姿はなかった。
「ホントに最後なのか…?」
気づけば雨が降り始め、野球部はそそくさと部室棟へと入っている。
俺は彼女のことがよく分からない。
俺なんかに構わないで勝手にしとけば良い話だ。なのにどうして?もしかして俺のことを…!!
(まずないな)
魔王に妄想を邪魔されて真の意識が戻る。
まぁそうだよな。
「なぁ魔王」
(どうした?)
「俺一ノ瀬が好きなのか?」
(…さぁな)
「そっか」
雨が降ってる中、真は屋上をあとにした。
コツコツと階段を降りていく。
濡れた髪からは水が滴っている。
(真、大丈夫か?)
なぁ、俺はどうすれば良かったんだ?
(分からん)
空が一瞬明るくなると、その後に続いて稲妻が校内に直撃した。
ドサッ!
階段から滑り落ちるように転んだ。
床になにか柔らかいものが当たったような気がしたが、そんなこと考える余裕はなく意識が途切れた。
次に目を開けるとどこかの病室にいた。
「っ!」
体が痺れている。全身火傷をしているのかヒリヒリする。声も出ない。
ホントにやりやがった。アイツ。
魔王生きてるか?
(大丈夫だ。我の力に及べば貴様を無傷にすることもできたのだが…)
何かあったのか?記憶が曖昧なんだ。
(その…落雷に打たれた直後、下にいた女にダイブし…)
ちょっ!ちょっと待て!
そんなことがあったのか…。その後は?まさか俺やっちまったのか?
(それはまぁ…その子を助けるために麻痺したお前の体を酷使してしまったが…)
いや、いい。大丈夫だ。それはいい。良くはないけどいい。問題は触れたかどうかだ。
(………触れた)
オウノー。終わったー。
(大丈夫だ真、きっとその子は憶えてない。触れた直後に2人とも意識がとんだ)
いや、でも…なー。事故とはいえまずいよなやっぱり。
と、そこで病室の扉が開いた。
来客かな?と思っていると車椅子に乗った女性が入ってきた。
彼女は?
(お前が助けた女だ)
はじめましてと言いたいところだが声がでない。
「まだ起きないのですか?」
なぁ魔王。
(なんだ?)
彼女かわいいな。よく見えないけど。
(お前は面食いなのか?)
おい、どこでそんなの憶えた。
「紅さん、私は速くあなたと話したいです」
なぁこの子、しゃべり方変じゃないか?
(どうしてそう思う)
いや、違うならいい。
(仮にも命の恩人だ。ソレぐらいは言うんじゃないか?)
そうか。
「紅さん、今日はすごく晴れてますね」
彼女に言われてはじめて外が綺麗な青空だったことに気づいた。
ほんとうだ。
「それではまた来ます」
そのまま彼女は優しく微笑み、病室を出ていった。
なぁ魔王、車椅子になったのは落雷に打たれたからか?
(そうだな)
他になにか後遺症のようなものは残ったか?
(分からないが…記憶喪失らしい。お前が搬送されてしばらくたってから、看護師がそう言っていたの聞いた)
そっか、俺は命を助けることができても、他人が今までもってたものまでは守れなかったのか…。
(どうしてそう、落ち込んでるんだ?)
何でだろうな。分からない。でも、俺がもしあの時一ノ瀬を止めれていたら。
そう思って……。
(無理だ。お前の力じゃ何もできない)
そうか、そうだよな。
辛いな。俺がもっと強かったら…。
みんなを助けられるそんな存在になれたら。こうも悩まなくなるのかな。
(そんなになるのはなぜだ?)
分かんねぇよ。でも、まわりの人間が巻き込まれるようなことがこれから先起こるんじゃないかと思って…。
そしたら…。
魔王 真、お前の心は弱いな。起こるべくして起こったこと。全ては運命だ。だが、その心がお前を強くするのかもしれんな。
これから先、真と魔王になにが待ち受けているかは分からない。だが、魔王は一人彼の成長への期待を膨らませた。
第9話 舞いあがる心と沈む心 終わり




