【麺類短編料理企画】悲惨なたたかい
しいな ここみ様主催、麺類短編料理企画参加作品です。
「ありがとうございます。それでは失礼します」
その日の佐渡ヶ島四郎はクライアントにようやく納品を終えた。
(なんとかなったか〜徹夜した甲斐があったな。それにしても……腹が、減った……よし、店を探そう!)
入り組んだ駅前の商店街をさ迷う佐渡ヶ島だったが、堅牢な石造りの門に掲げられた篆刻の重厚な看板に引き寄せられるように足を止める。
(美食闘技場? これはなんか期待できそうな予感……)
しかし店に入った佐渡ヶ島が案内されたのは、向かい合って配置されたキッチンの前だった。いつの間にかヒヨコの描かれた黄色いエプロンを着けている。そして円形のスタジアムには観客がひしめいている。
(なんだこれは? 俺は飯を作るんじゃなくて食べたいんだが……)
呆気に取られている佐渡ヶ島をよそにパプリカを手にした司会とおぼしき男が開会を宣言する。
「ようこそ美食闘技場へ! 今日のテーマは『イタリアン』、そして挑戦者が料理で表現するのは『郷愁』!」
それを聞いてスタジアムの観客がざわめく。
「イタリアンってことはパスタとかピザとか……わりと普通だな」
「だけど郷愁を表現しろってんだろ? 見当もつかねえ」
その声をよそに佐渡ヶ島の相手、カピバラ雄三が笑う。
「わっはっは、お前には想像もつかんか四郎? だったらそこで指をくわえて見ているがいい!」
(何この偉そうな人、何で俺を呼び捨てなんだ? 腕を極めて折ってやろうか? いや落ち着け、そんなことより、俺は猛烈に腹が減ってるんだ! とにかく……何か作れば俺にも食わせてもらえるんだろう)
ごぉん! と重々しく銅鑼が鳴る。そして料理対決は始まった。
「ワシの料理は豆乳鍋のシメに卵を溶き入れ、パスタを入れた和風カルボナーラだ。家族団欒の鍋の思い出を表現したものだ。お前にこれ以上のものが作れるか四郎!」
カピバラ雄三の言葉に観客もどよめく。
「おお、確かにこれは『イタリアン』で『郷愁』!」
「食卓を囲む家族の絵が頭に浮かんでくるようだ!」
(豆乳にパスタを投入って……もしかして笑うとこか? しかしそれなら……「うどんでいいんじゃないの?」
思わず口に出た佐渡ヶ島の言葉にスタジアムの観客もしん、と静まり返る。
「何を言う四郎! それではテーマが成立しないではないか!」
「あ、いやそんなつもりでは……ただ、私なら鍋のシメならうどんのほうがいいかなぁ、と思っただけで……それにイタリアンならトマト鍋でミネストローネ風とか……」
「ぐっ! ぐぬぬ……ならば四郎、お前の料理を見せてみろ! な、なんだそれは? 焼きそばにミートソース? それのどこが……」「いやぁ、私の田舎でイタリアンっていうとこれなんですけど……」
そのとき審査員席の料理記者が立ち上がる。
「そ、それはもしや!」
「何か知っているのですか、先生?」
隣の料理学校の校長が訊ねる。
「ええ、はっきりとは言えませんが、北陸のある地方にそういうB級グルメが存在すると……」
その声が観客にも伝わっていく。
「なんだって!」
「ではあれが噂に聞く……」
「故郷を表現した『郷愁』、だからこそあえてB級グルメということか四郎め……くっ、認めざるを得ん!」
(そんな大袈裟な……ただ俺が食いたいものを作っただけなのに)
「文句なし! 勝者は佐渡ヶ島四郎!」
司会の男が判定を告げると、どっとスタジアムが沸いた。
「勝者である佐渡ヶ島四郎はこのあと2回戦に進んでもらいます!」
(いやそんなことは頼んでない! とにかく俺に飯を食わせてくれェェ!)
服部幸應先生の御冥福をお祈り申し上げます。




