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1話

 それは、月島護が桜宮学園中学に入学してすぐのことだった。

 護は軽音楽部に入部し、毎日練習して演奏の腕をあげる……そのつもりだった。

「護! 練習なんかしてないで、ゲーセンにでも行こうぜ」

 護と同じ軽音楽部のメンバーだ。

 あだ名はモジャ頭で、護と同じ学年の部員である。

 自分から人に話しかけるようなやつじゃなかった護に、部活で最初に話しかけたやつ。

 彼とは、そこからずるずると付き合いが続いてしまった。

「はぁ!? もうちょっとだけ練習させろよ」

 ベースの練習をするつもりで部活に来ていた護は、モジャ頭の誘いを一度は断ろうとしていた。

 それも毎回のように。

「聞いてくれよ護。桜宮学園前駅の目の前にあるゲーセンに、新しいのが入荷してきたんだ。俺、お前と一緒にそれやりたいんだよ」

 新しいゲームか……ちょっとやってみてぇな。

 中学一年生であった護の意志は弱かった。

 護はそのことを思い出すと胸の中が苦しくなってしまう。

「はぁ、わかった。今片付けるからちょっと待ってろ」

 結局断りきれずに、いつも部活をサボって遊んでばかりいた。

 だがこれは、仕方がないことだったのかもしれない。

 護がこの軽音楽部に入部した時点で、このサークルで真面目に活動している部員はせいぜい両手で数えられるくらいだった。

 護も確かに最初はその一人だった。

 しかしながら、彼の友人に誘われるがまま遊びだしてしまい、気がつけば自分も部活に来ても練習しないで遊んでばかりいる日々が続いてしまったのである。

 護が進級するごとに、この軽音楽部から真面目に練習する人が一人、また一人と減っていった。


そんな護の前に現れたのが一つ後輩の栗橋隼人である。

一人で黙々と練習している隼人は、誰からも認められていなかった。

だけど、護にとってそんな彼は眩しい存在だったのだ。

ずっと……。


〜〜〜


 他の部員が野次馬のごとく、隼人達を眺めていた。

 大半の者がニヤニヤ笑っているので見ていて気持ちが悪い。

「おい、お前ら! 個人練習は済んだか!? 早速合わせていくぞ!」

「おー!」

 護の大きな掛け声に、奏介だけが返事をした。

 その後ろで隼人と大地が冷めた目つきで彼らを眺めている。

「なんで、あんたがこの場を仕切ってるんだよ、月島先輩」

 その言葉と同時に思わず隼人は護を睨みつけた。

「あっ!? いいじゃねーか? このバンドでは俺がリーダーだ。わかったら、とっとと自分のギターを用意しろ」

 護は隼人に近づいて睨み返した。

 隼人は少し嫌な気分になったが、特に反論する気もなかったので何も言わずギターの準備を始める。

「大地、準備はできてるか?」

 護は友人である大地の方を見て軽く笑った。

「ああ。いつでも大丈夫だ」

 大地は小さいけど太い声で返事をする。

 彼も少し笑っている。

 護は次に後輩である隼人と奏介の方に声をかけた。

「よろしくな! 奏介、隼人」

「おう! なんだかワクワクするな!」

 奏介は楽しそうな声をだした。

 隼人は護の声を無視して前を向いた。

 そして、彼らを眺める野次馬達に向かって叫んだ。

「俺達の一発目いくぞ!」

 大地のドラムによって間髪なく一音目から響き出した。

 リーダーは俺だって言ってるだろ!

 曲が始まってしまったので、護は心の中で軽く反論した。

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