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【完結】星の海、月の船  作者: BIRD
第9章:世代交代

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第88話:遥かなる時の向こう側

 後継者に技術や知識を残して逝った者たち。

 新たな身体を得て蘇った者たち。

 代わりの肉体を得て命を繋ぐ者たち。

 子孫を残すことで続いていく者たち。

 不老不死を得て時の流れから外れた僕の前を、多くの者が通り過ぎていった。

 その一方で、冷凍睡眠(コールドスリープ)装置の中で、時を止めて待つ者たちもいる。

 彼らの記憶には、地球の様々な歴史が刷り込まれていた。


 白鳥型宇宙船(アルビレオ)は人々の想いを載せて、宇宙(そら)の旅を続ける。

 その腹部にある格納エリアには、アエテルヌムが求めるものが収められていた。

 死をもたらす遺伝子に打ち勝ち、新たな生命を生み出す遺伝子をもつものたち。

 人が住めない惑星(ほし)から新天地を求めて旅立った【地球人】たちは、その多くがまだ凍結した卵子と精子のままだった。


 アイオの話によれば、地球式の時間計算で約1年後に、惑星アエテルヌムに到着するらしい。

 遂に、目的の地に辿り着けるんだ。 


  宇宙船アルビレオ号

  艦長トオヤ・ユージアライトの日記より



 氷点下に設定された室温に、吐く息が白くなる。

 横向きにされた円筒形のカプセルが並ぶ場所を、トオヤはゆっくり歩いて見回った。


(みんな、もうすぐ起こしてあげられるよ)


 浮かぶ微笑みは穏やかで、慈愛に満ちている。

 地球を出る前の18歳の若者だった頃と容姿は変わらないが、トオヤの表情には永い時代(とき)を生きる者特有の知性と穏やかさが加わっていた。


 冷凍睡眠室コールドスリープルーム

 移民に選ばれた人々が、目的地に着くまで眠る場所。

 部屋の奥は、棚に並べられた小さなカプセルが壁の大半を占めている。

 凍結された卵子と精子。

 人間や動物の元になるもの。

 全ての生命が滅びた地球から、トオヤたちの祖先が必死で持ち出してコロニーで繋いだ【生命(いのち)】だ。


 小さなカプセルたちにも、トオヤは優しい笑みを向けた。

 後方の扉が開く音がして、彼は振り返る。

 そこには、出会ったときから姿が変わらぬ、美しい少年アイオがいた。


「彼らの誕生も、もうすぐですね」

「うん。この子たちに、地球がどんな星か教えたいな」

「地球の記憶を見せてあげるんですか?」

「そうだね。宇宙に浮かぶ瑠璃色の惑星(ほし)を見せてあげたい」

「あれはとても美しいから、きっとみんな喜びますね」


 まるで我が子の誕生を待つ父母のように、トオヤとアイオは優しく微笑む。


 生まれる前に太陽系から遠い場所へ来てしまった彼らは、祖先が生まれた青い惑星(ほし)を知らない。

 トオヤは彼らが生まれたら、精神感応(テレパシー)で自らの記憶に残る地球の姿を伝えようと思っている。

 宇宙に浮かぶその惑星(ほし)は、まるで瑠璃のように美しかったから。


 宇宙船アルビレオ号、母星アエテルヌム帰還まで、あと8760時間。

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