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【完結】星の海、月の船  作者: BIRD
第8章:アルビレオの日常

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第75話:艦内浴場

現在、艦内には複数の風呂場がある。

最初に作られた大浴場(男湯・女湯)、ティオとレシカの部屋に作られた家族風呂、子供部屋エリアに作られた子供風呂。

そこへ新たに、展望風呂(男湯・女湯・家族風呂)が完成した。

白鳥の姿に似たアルビレオの背中付近に作られた展望風呂は、24時間頭上に広がる満天の星を眺めながら入浴出来る。

他の浴場と違うのは、星が見やすいように体を寝かせながらお湯に入る【寝湯】と呼ばれる入浴スタイルだ。

浴槽の縁には木製の枕が並んでいて、そこに頭を乗せて寝転がりながら入浴する。

長めに浸かるため、お湯の温度は38~40℃に保たれている。

リラックス出来て星空も見られる展望風呂は、みんなに人気のお風呂になったよ。


 宇宙船アルビレオ号

 艦長トオヤ・ユージアライトの日記より




「ま~た覗きに来たわね! この酔っ払いがっ!」


寝湯の入口付近から、女性の怒声と何かをぶつけるような大きな音が響く。

そこへ通りかかった家族の前方に、手桶がゴロンゴロンと転がった。


「おかあさん、桶が転がってるよ」

「見ちゃダメよ」


転がる手桶を指差すミイに、手を繋いで歩いて来たレシカが苦笑しつつ言う。

彼女も以前はベガに覗かれて、手桶を投げていたのは内緒だ。

最近は部屋の家族風呂に入っているので、覗かれることは無くなった。


「わははは! 浴場で欲情しちまったぜ」


オヤジギャグをかましながら、逃げていくのはベガ。

以前は大浴場に出没していた【身体が勝手に風呂場へ行く酔っ払い】が、展望風呂が出来てからはそちらに現れるようになった。


「おとうさん、ヨクジョウでヨクジョウってなに?」

「短く言えば変態だな」


走り去るベガを眺めながら問いかけるニイに、ティオが半目になりつつ答えた。

展望風呂は男湯・女湯・家族風呂に分かれていて、ティオたちは貸し切り出来る家族風呂を利用しに来たところだ。


ベガは自分の入浴は部屋のシャワーで済ませるが、酔っ払うと女湯へ向かってしまう悪癖がある。

その悪癖は太陽系を出る前からあり、今も変わらず手桶を投げられていた。


「あいつも、彼女が出来れば覗きなんかしなくなるだろうに」

「無理無理、あんな変態酔っ払い、一生彼女出来ないんじゃない?」


天井に広がる星々を眺めながら、ティオとレシカはそんな話をする。

ぬるめの湯に入りつつ仰向けに寝て見上げる満天の星は、プラネタリウムよりも美しく輝いていた。

ベガも女の裸ばかり見ようとしないで星を見ればいいのに。と夫婦は思う。


残念ながら、酔っ払いのオッサンは、大気に妨げられない星々よりも、衣服に妨げられない女体を見る方が好きなのだった。

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