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【完結】星の海、月の船  作者: BIRD
第8章:アルビレオの日常

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第72話:艦内居酒屋

パウア師匠とベガが居酒屋を作りたいとリクエストしたのは、太陽系を離れる前の事。

2人は農業コロニー【メラク】産の日本酒・ワイン・ウイスキーなど様々な酒を積み込んで出発した。

現在はコロニー産の酒は全部飲んでしまっていて、アイオが分析・記録したデータを元に、艦内の農園エリアで採れる材料を使って製造している。

地球起源・アルビレオ産の酒は、異星でも美味しいと喜ばれているよ。

2人は異星を訪問する度にその星の酒を仕入れて積み込むので、艦内居酒屋の酒リストはどんどん増えてゆく。

アルビレオの製造機能で作れる酒の種類も増える一方だ。

そのうち、本人たちも何がなんだか分からなくなるんじゃないかな?


 宇宙船アルビレオ号

 艦長トオヤ・ユージアライトの日記より




「へぃ、らっしゃい」

「トオヤも1杯やってくか?」


暖簾をくぐると、居酒屋のオッサンたちがそんな声をかけてくる。

第5コロニー【アリオト】や、第6コロニー【ミザール】にある居酒屋のようなノリだ。

彼等の世代の地球人は人工授精で生まれた者ばかり、人種の壁を無くす為に様々な国の人間の遺伝子が組み込まれていて、その中にはジャパニーズ遺伝子も混ざっている。

カウンター席に座ったトオヤも、遺伝子に日本人の系統が入っていた。


「今日は甘口の日本酒にしようかな。貴醸酒はある?」

「八海山系統に似せたのがあるぞ。糖度17.5度、やわらかで上品な甘さだぜ」

「いいね、それにしよう」

「あいよっ」


トオヤは甘口の酒が好みで、日本酒か白ワインを頼む事が多い。

貴醸酒は3つの段階の仕込み「留添(とめぞ)え」で水の代わりに日本酒を使用する製法が特徴のお酒。

アルコールが入るため酵母が弱まり、発酵がゆるやかになって糖分が残り甘口に仕上がる。

とろみがあり、香り豊かで、蜜のように濃厚な甘みがあるのが特徴の日本酒だ。

出来たてを瓶詰めする際は色は透明でさわやかな口当たり、時と共に琥珀色に変化して味も深みを増してくる。


「じゃあ、ボクも同じものを」


トオヤの隣に座るアイオは、見た目は少年だが艦内最年長である。

不老不死の人工生命体は、酒にはかなり強い。

ちなみにトオヤも、不老不死の影響で酒に強くなった。


「あいよっ。お、今日のお通しはきんぴらごぼうか」

「胡麻油の香りと唐辛子のピリッとした辛味がいいな」


アイオが来るついでに持って来たのは、居酒屋のお通し用に作ったきんぴらごぼう。

料理好きの彼は、居酒屋のおつまみも作っている。

唐辛子を少々入れた甘辛いきんぴらごぼうは、日本酒との相性バッチリだった。


「アイオ~、この手羽先美味しい!」 

「パリパリしてて、ピリ辛で、ビールに合う~!」


テーブル席でビールと手羽先を味わっているのは、女性乗組員たち。

別の席では、仲良く落ち着いてワインを飲むティオとレシカもいる。

居酒屋は今日も男女問わず飲みに来て賑わっていた。

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