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【完結】星の海、月の船  作者: BIRD
第6章:作られた生命

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第55話:不具合発生

アイオに何が起きたのか分からない。

起動前の人工生命体の脳にアクセスしていたアイオが、急に大きな痙攣を起こした後に動かなくなった。

代わりに起き上がって僕に近付いて来る女の子にも、一体何が起きているのか。

人格形成プログラムのインストールが済むまでは、動かない筈じゃなかったのか?

ジュリア博士たちが驚いているから、かなりイレギュラーな事なんだろう。


 宇宙船アルビレオ号

 艦長トオヤ・ユージアライトの日記より




アイオを横抱きにして床に座り込んでいるトオヤに、手術台から降りてきた少女が歩み寄ると、嬉しそうに微笑みながら抱きついた。


「はじめまして、トオヤ様」

「え? どうして僕の名前を知ってるの?」


教えた覚えのない名前を呼ばれ、トオヤは困惑する。

しかし、以前も似たような事があったような……と、ほんのり思い出したりもする。


「アイオの所有者データをコピーさせてもらったからです」

「……そ、それは良くない。君の所有者は違う人だ」


どうやったのかは分からないが、アイオのデータをコピーしてしまった少女。

だが彼女の所有者は別人なので、トオヤは更に困惑した。


「とりあえず、手術台に戻ってくれないか? 正しい持ち主を登録……」

「嫌です」


トオヤの言葉を、少女は即答で拒否する。

人工生命体とはいえ見た目は人間の女の子、全裸で抱きつかれているという状況にトオヤは戸惑う。


「じゃあ、せめてあのブランケットで身体を覆ってくれないか?」

「はい、分かりました」


今度は従ってくれた少女は、手術台に歩み寄るとブランケットを取って戻ってきた。

が、何かが間違ったようで、自分ではなくトオヤに被せた。


「違うよ、僕じゃなくて君の身体を覆うんだよ」

「すみません、間違えました」


トオヤが言うと、少女は一瞬キョトンと首を傾げた後、間違ったと気付くとブランケットを取って羽織った。

手術台には戻らずトオヤに身体を寄せるように座り込む少女に、その場にいた一同の困惑が続く。


「えっと、もしかして君なら知ってるのかな? 【アイオ】は君の中にいるの?」

「はい。私の人格形成プログラムは【アイオ】です」


未だ意識が戻らないアイオと少女を見比べて、何となく予感がしつつトオヤは聞く。

返ってきた答えは、予想通りだった。


「……やっぱり……。君には専用のプログラムが用意されているから、【アイオ】と交換……」

「嫌です」


トオヤの言葉を、また拒否する少女。

どうやら所有者変更関連を拒絶しているようだった。


「ジュリア博士、この子どうしたらいいですか?」

「……えっ……?」


困ったトオヤから思いついたように話を振られても、ジュリアはすぐには答えられない。

どうしたものか考えがまとまらない大人たちに代わって、子供たちがトオヤと少女の周りに集まる。


「この子、おとうさんの子になりたいんでしょ?」

「家族にしてあげたら、いいんじゃない?」

「はい、それがいいです」

「待った。僕たちだけでは決められないよ」


子供たちの提案を聞いた途端、少女が嬉しそうに笑い、再びトオヤに抱きつく。

そのまま移民団入りしそうな流れを、トオヤが慌ててストップをかける。


「……トオヤは、私の所有者になるのが嫌なんですか?」

「え?! ……そういうわけじゃないけど、君は行き先が決まっているから、そっちへ……」

「嫌です」


哀しそうな顔になり、ぽろぽろと涙を零して言う少女に、トオヤは動揺しつつ言う。

しかし本来の所有者へという内容は、やはり拒否られる。

その表情の変化を、ジュリアたち開発者はトオヤ以上に驚きつつ観察していた。

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