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【完結】星の海、月の船  作者: BIRD
第4章:星の絆

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第33話:メンタルケア

アルビレオの医務室には、惑星アエテルヌムの高度な医療設備が揃っている。

マインドチェックの結果、保護した少年はメンタルに強いダメージを受けて心を閉ざしている事が分った。

現実として受け入れられない辛い経験をしたせいで、精神が外部からの情報を遮断している状態。

年齢は分からないけれど、一体どれほど過酷な出来事があったんだろう?


 宇宙船アルビレオ号

 艦長トオヤ・ユージアライトの日記より




「アニムス、聞こえる? 君の名前だよ」

「僕が歌ってあげるから、元気出して」


プレイルームの柔らかいマットの上に座り、カールとチアルムが優しく話しかけている。

心を閉ざした少年は、ボーッとしながらマットの上に座っていた。

保護直後は身体が麻痺していたが、風呂で温めたりマッサージしたりした結果、今では動くようになっている。

ミカルド星の少年は、名前が無いと不便なので、アニムスと名付けられた。

メンタルのダメージは、翼人のヒーリングボイスで癒せるかもしれないという医療システムの診断で、チアルムが毎日歌を聴かせている。


「お昼ごはんですよ」


アイオは3人の子供たちの食事を手に、プレイルームを訪れた。

トオヤは調査隊と共に、ミカルド星の住民調査に出ている。

アルビレオに残る過去の住民データによれば、この星の文明は中程度で、宇宙船を造って大気圏外に出られるくらいの技術があった。


「アニムス、ごはんだよ」

「はい、あーんして」


カールとチアルムが声をかけながら頬を指先でつつくと、アニムスはぼんやりしながらも口を開けた。

そこへポイッと放り込むのは、アニムス用に作った栄養食。

グミのような食感で、口に入ると液状に変わって飲み込み易くなる。

アニムスは植物状態というわけではなく、多少は他からの刺激に反応しており、食べ物が口に入ればモグモグと咀嚼して飲み込む事が出来た。

しかし、パンなどを手に持たせても、口に運ぶには至らない。


「これは食べ物だよ」

「食べてみて」


子供たちは、アニムスが手にしたパンを食べ物として認識するように、パンを持たせた手を補助して口元へ運ばせる。

匂いに反応して口を開けたアニムスは、補助してもらいながらパンを食べ終えた。

食べた後はボーッとしていて、チアルムが手や口元を拭いても無反応だった。



「そろそろトイレかな?」


食事を終えてしばらくするとカールが声をかけ、アニムスの手を引いてプレイルームのトイレに連れて行く。

排泄の欲求もあるらしく、カールは精神感応でそのタイミングを察知してトイレに誘導していた。

手を引かれて大人しくついて歩く少年は、便座に座らせれば自力排泄が出来る。

アルビレオのトイレは地球人に合わせたウォシュレット式で、機械が洗浄も乾燥もしっかり済ませるので、それほど手はかからなかった。



日没近い夕方。

その日の調査を終えて帰還したトオヤとライカは、アイオと子供たちがいるプレイルームを訪れた。


「ただいま」


トオヤは声をかけて、入口へ出迎えに来たアイオとチアルムとカールの頬に家族のキスをした後、ボンヤリした顔で座ったままのアニムスに歩み寄り、同様にハグとキスをした。

アニムスは人形のように無反応でされるがままだが、トオヤは他の子供たちと同じく愛情を注いで接している。


「情報更新お願いします。アルビレオの過去データにあった村が、1つ消えていました」


ライカがアイオに報告する。

調査隊はアルビレオの過去データを元に住民調査をしていたが、最初に狩りをした森の近くにある筈の村が無くなっていた。


「消えていた? 廃墟になってるんですか?」

「いえ、村そのものが消えて、大きな爆発があったようなクレーターが出来ていました」


アイオと話しながら、ライカは調査隊が撮影してきた画像や動画を送信した。

そこに写っていたのは、建物も木々も吹き飛んで消滅したような、円形に窪んだ地形。

それは、隕石の衝突によるものとは少し違って見えた。

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