第89話:宇宙の宝石
アルビレオの残り航行時間が残り1年となったときから、カウントダウンが始まった。
目指す惑星が目視できる距離まで近付く頃、僕たちは移民メンバーを冷凍睡眠から起こしてあげた。
アエテルヌムに到着する瞬間を、皆で見たいからね。
まだ種のままの子供たちには、ライカが撮影したものを見せてくれる予定だ。
犬型アンドロイドのライカには【死】の概念は無い。
身体が経年劣化することはある。
けれど、アルビレオが新しい身体を作ってくれて、そこへデータを移すことで存在を継続することができる。
それは、人工生命体に思念を宿らせて生きるカエルムとルチアや、クローン体に記憶を引き継がせて生きるティオとレシカに近いものかもしれない。
僕やアイオやセラフィと同じく、ライカも永い時を刻み続ける。
ライカは言った。
「いつか生まれてくる子供たちに、移民団の旅の話を聞かせてあげよう」
ライカの旅の記録は膨大なデータ量になっているから、子供たちが途中で寝てしまいそうな予感がするよ。
そう話したら、ダイジェスト映像みたいに1~2時間の動画にまとめてみると言っていた。
いいねそれ。僕も見たいな。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
その惑星は、宇宙に浮かぶ宝石のように美しく、人々を魅了する。
惑星アエテルヌム。
移民団を載せた宇宙船アルビレオ号は、遂に母星がハッキリ見える距離まで近付いた。
「アエテルヌムも海が多いんだな」
「コロニーの展望デッキから見ていた地球とは少し色合いが違うね」
「新たな住処か、なんて美しい……」
「私たちは、この惑星を守って生きよう」
白鳥に似た形状の宇宙船アルビレオ。
その背中にある展望デッキに集まる人々は、うっとりするように溜息をついて言う。
地球人は昔、自然を破壊し尽くす戦争という罪を犯した。
移民団のメンバーは、ふるさとの惑星を出なければならなくなった祖先たちのことを、忘れはしない。
新天地で同じ過ちを繰り返さぬように、彼等は子孫たちに地球の歴史を語り継ぐことにした。
「あの海はどんな泳ぎ心地だろう? 早く泳いでみたいなぁ」
「空はどんな風が吹くのかなぁ? あの惑星の空を飛ぶのが楽しみだよ」
「僕は森の木々に登ったり、草原に寝転んだりしたいなぁ」
クローン体として命を繋ぐカール、チアルム、アニムスは、現在は何度目かの少年期。
身体が若いと遊び心が強まるらしく、3人でワクワクしながら広い窓の外を眺めていた。
「うわぁ、キレイな惑星だねぇ」
「御先祖様たちが生まれたところも、こんな惑星だったらしいよ」
子孫を残すことで種の存続を果たすフェレス族の子供たちも、美しい惑星に夢中だ。
地球人と比べて少人数での移民である彼らは、近親婚による身体の異常が出ないように調整を受けている。
「トオヤ艦長、長旅お疲れ様でした」
白鳥の頭部にあたる位置にある艦長室。
端末アイオは、珍しくトオヤに「艦長」の呼称をつけた。
「アイオもお疲れ様。到着後は僕は何をしたらいいのかな?」
「まずはマザーに挨拶ですね」
トオヤの問いかけに、アイオは微笑んで答える。
地球人の知識もかなり得ている人工生命体は、更にこんなことを付け加えて言う。
「所謂、あれですよ。婿入り先へ挨拶するみたいな」
「えぇっ?!」
「アルビレオも私もマザーが作った子供みたいなものですからね」
「そ、そうなるのか……」
「トオヤはマザーの義理の息子になるんですよ」
「……」
移民メンバーとトオヤでは、どうやら立場が違うらしい。
イメージしてたのと違うアエテルヌム入りに、トオヤは苦笑した。




