01 三者三色
この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
気軽にお楽しみくださるとありがたいです。
「被告人は前へ」
見慣れない天井。見慣れない光景。
裁判官が見下せる位置の席で座っていた20代後半男は突如足の小指から登ってくる痛みと共に警官に立ち上がされ証言台へと足を運ぶ。
眼を細ませてやっと見えるくらい短く切られた爪先に激しい荒れでまともに開かない手。
前かがみな姿勢に丸まった背中。年月の風波に打たれ荒地の様な皮膚で覆われても隠し切れない善良さが染み出る顔立ち。
被告人として扱われている男は見慣れない服装の人々の無情の眼差しと慣れない空気の中、心臓を抉り掘ろうとする様な気配を肌で感じその矛先を向けた傍聴席の方へゆっくり目を向けそこにあった見知らぬ人々の中で見慣れた面影の三人へと視野を固定する。
きっちりとアイロンかけられたスーツを見事に着こなせている引き締まった体つき。被告人と違い対照的に首を垂らさず背筋を伸ばし曇りなき決意に満ちた視線で被告人を向かい打つに送る、いかにも立派な大人像を滲ませる20代前半の男性。
その男性に身体を寄せ彼の胸元に顔を埋めむせび泣くにも、その姿から染み出る哀愁に一層引き出される欠点のない美しい容貌と容姿で主役の座を奪いかねない20代半ばの女性。
そしてその女性の隣で未だ事態の深刻さや状況がつかめず、ただただ泣崩れかけている女性のプリーツスカートの折り目の抓みながら目線を送る男を単調な眼差しの目で挨拶する、女性に瓜二つの小学校低学年に見える少女。
警官に余裕の隙間もなく腕を組まれたうえ手錠までかけられた男はその三名にどこか申し訳なさが混ざった安心感のある笑みを浮かべ両手を開き振りながら証言台へと連れて行かれる。
「只今より被告人に対する平成24年8月19日に行われたカササギ橋学園神隠し事件の判決を言い渡します」
男が証言台の前に立たされて直ぐの事。
静的を保たんばかりに思う存分泣き叫びたがる傍聴席の老若男女達からの多彩な感情を散らす無味乾燥な声音に男は表情を濁らせながら顔を落とす。
「主文、被告人を懲役37年に処する――」
を最後に派手なデコ入りスマートフォンの画面がスリープモードに入り一瞬車内がいびきの音で充満するのも僅か、小鼓の様な芯のある軽快な打音にそれの遅れを取らないよう割って入る奇声で一気に空気が変わる。
「ォ゛ゲェヘッ!ゲホゲホ…何なんすかイーファさん!!」
「瀬井、貴女の口元から垂れている不潔な汚物がシートに付きかけていましたので」
「だからって喉に手刀打ちって!それに今のでたっぷりとフロントガラスに付いたんすから元も子もないじゃないんすか?!」
胸の膨らみで開けたままの半透明なクロップドボンバージャケットに引き締まった腹部の活発感をより増すカジュアルなローウェイストテックウェアパンツと厚底のウェッジソールサンダル。
絡み合う二匹の蛇の銀装飾がポイントのチョーカーと左耳全体を包む羽根デザインのイヤーカフ。
前髪をまとめて右側に流し、後ろ髪を上げて一つ団子に結んでいるピンクをベースに所々紫と水色のハイライトが入ったパステル色の髪をした被害者、瀬井透衣は片手で打たれた所を摩りもう片方で先程の打撃で落としたスマートフォンを拾おとしゃがみ込みながら憮然とした表情を浮かべ助手席から運転席の方へ抗議するが
「あら、本当ね」「ぴっ!」
彼女が唱えた異議は爽快な打音にかき消された。
エレガントなシルクのチェルシーワイドカラーブラウスに無駄のないスレンダーな体系でより上品に見える、オーダーメイドと見受けられるピークドラペルのスーツ姿とラペルに着けたラベンダークォーツのブローチ。
片方に長い三つ編みに垂らした赭色の色彩が入り混じり不可思議さが感ずるブロンドヘアに涼しげに整った顔立ち。
透明感のあるシアン色の瞳で正面を向き、優雅に革巻きステアリングホイールを左手で握り滑らかな運転を披露するイーファ・オキャロルは見事に役目を果たした右手に異変がないか瞥見し淑やかにハンドルに添える。
「び、ビンタされた…ビンタされた!!!これってパワハラっすよね、ね!天ちゃん!!」
相手にならない事に痛感しリアシートにだらしなく仰向けになっている女児にその柔軟な表情筋で精一杯イーファから受けた理不尽さ吐露するパステル髪色の被害者。
天ちゃんと声を掛けられた女児は顔を蔽っているビキューナのオーバーサイズフロッピーハットを器用に落とさず横向きになりパステル団子頭の鬱憤を見つめる。
「パワフル・バイオレンスだよ?略してパワバイ。最近色んなドラマで流行ってたからうちにも導入しようかなと思ってね。んしょっと。てか透衣ちゃん、もしかしてパワバイの事知らなかったの?そのいかに知能数値を遊戯にと見栄に全振りした成り上がりインフルエンザみたいな格好で情弱だね~」
すると天ちゃんは小さな背伸びをした後空に足を蹴って跳ね起きフロッピーハットを退かした後、身体を前のめりにしコンソールボックスから何かを探る。
「いやこの子さらりと炎上しそうなことポロポロ言うな…あと好みのファッションセンスと流行りの熟知度は関係ないし!」
「まぁまぁ~それにね、透衣がどうしても一分以上の動画は見れないって駄々こねるからイーファが苦労して作ったのに寝落ちしたのはだぁれだ~お、あったった」
「それはアタシが悪かったっすけど、もう十年間調べてるものを改めてショーツみたいに作って見せられてもさすがに重要な情報は全部頭に入ってるし今更って感じっす…ってああ!!!」
「ああ~パクッ……ん~♡」
ロングのナチュラルパーマな故、余計に乱れた若葉色の寝癖を直すためヘアブラッシュでも取り出すと思いきや、コンソールボックスから白みがあるきつね色の粉が入ったタッパーを取り出し遠慮なくそれを開き、その粉末をリアシートにばら撒きながら内容物を喜々に口いっぱいに頬張る。
「イーファさん!イーファさん!」
「揺らさないでください、運転中です。動画が面白くなくて退屈な気分になったのでしたら余興がてら転覆させて上げましょうか?」
「イーファさん根に持つタイプだったんすか??てか面白くないって一言も言ってないし…つまんない事したなぁって……退屈したのはあってるけ…」
「転覆します」「ごめんなさいってばッ!!」
もはや先ほど受けた暴行二件の記憶は車内に広がったきな粉の香りの如く薄く散りばめられ、今はイーファの機嫌と直通のこの高級セダン内の清潔の安否に熱意を表す透衣。
「違くって!!天ちゃん今きな粉餅食べてるんすけど、止めないんすか?きな粉っすよ?!」
「止める必要はないです」
「そんな!!なんで私だけきつく当たるんすか?!いびりだ!贔屓だ!!差別だ!!!」
「文化の違いです」
「うわっ、出た外国人ですよ~カード。アナタ一応ハーフっすからね?効力半減っすからね?!」
「クヒっヒっヒ。喧嘩だ喧嘩~やれ、もっとやれ!勝った方にボーナス付けてあげる~、あ…やっべ、シーツにたれ付いちゃった」
「…?たれ……ミ・タ・ラ・シッ!!!!きな粉はどこ?!」
イーファと透衣の戯れにより良質な糖分補給タイムに満足した女児は透衣の問いに幼気に膨らんだお腹を陽気に叩き感謝の意を表す。
(ポンポン)「完ッ食ッ!!!」
首に着けた大きいシトリンのリボンブローチがポイントなフロントカットアウトランタンスリーブのワンピース。
きな粉餅のみならずみたらし団子まで完食した女児は身体と手に付いた粉を適当にはたき落とし、隣席に適当に置きっぱなしになっている枕代わりに使っていたハンドバッグから携帯用ヘアブラシを取り出し寝癖を直し始める。
「やはり私は未だ釈然としません天祢」
「んぁ?まだそんなこと言ってるの?その疑念を晴らしに今こうやって向かいに行ってるんだろ?ああ~もしかしてひよってるの?や~だぁ~かわいい~」「かわいい~ぃったッ!」
待っていたかの様に天ちゃんを盾にイーファを茶化す透衣はその相応の報いを自分の額で支払いチップに気絶まで差し出す。
「…向かいに?」「そうよ」
終始一貫涼しげな顔で透衣の喉、頬、額の計三ヶ所に暴力を振ったイーファは後ろで喜々にメイクを直している天ちゃんの言葉に自分の耳を疑い、疑問に思える単語を口ずさみながら整頓された眉が上げ天ちゃんに問い返す。
しかし、自分の判断に懐疑心を抱くイーファの反応を予想したかの様に確信に満ちた声音で即答し芽吹く火の粉を即座に沈黙させる天ちゃん。
「向かいに、よ」
メイクを直し終えた天ちゃんはルームミラーから自分を見ているイーファのシアン色の瞳を直視しながらコンパクトミラーを閉じ、主題の集結を目配せする。
難なく進んでいた会話の最中、相手から発した言葉の意図と自身の理解点が一致しているか不明確な故、説明の補足を求め問い直す人に対し取るべき態度とは程遠い無礼さなのは一目瞭然。
しかしそれはあくまで世間一般の関係性を持った仲同士。
そもそも奇態な出会いから始まり異常な日々を共に経て、『常識的な一般』から一番脱線し人の良識に挑む様な見聞から築き上げた二人の関係がこの程度の世間一般的な汚点で濁る訳もない。
「…ふぅ……そう」
一切の目移りも
一瞬の瞬きも
一片の迷いのないその幻怪に有頂天な眼差しに幾度なく乗り越えた辛酸と苦難が脳裏をよぎると、小さなため息に提案の了承を乗せて呼応するイーファ。
助手席で静かに額のたんこぶを優しくマッサージしながら空気を読んでいた透衣はイーファの配慮にニッコリと微笑む天ちゃんと少し和み始めた二人の顔色を察し、窓の景色と共に天ちゃん一行を後にしようとする機嫌を抑え込む様口を開く。
「そ…そ、そういや向かいにって言ったんすけど…ぅ、ウチらどこに向かってるんすか?結構の間なぁ~んも面白味のない目がちかちかするだけの風景しか通ってんなぁ~って、へへ」
「ん~」
華奢な美脚を組み身体をシートバックにもたれ、外の景色を見渡す天ちゃん。
残暑に負けず、命の底から歌う蝉の熱意に火照り色替え始まる木々。
その間越しには閑寂に稲穂を見せびらかす田んぼが広がっている人気の無い安穏な林道を、分厚いフレームとは違い静かに走るバーガンディー色セダンの内
「そうね~」
天ちゃん改め天峰天祢はいつもの有頂天な笑みで答える。
「道化のヘッドハンティング?」
ここに何を書けばいいのか分からないので皆様にお手紙的な感じの物を書き残させて頂きます。
お忙しいところ乱雑な文章を最後までお読みいただき本当にありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?
未熟な筆力な故、多少皆様に不便をお掛けするかもしれませんが、これからもどうぞよろしくお願い致します。
健康的な非難はいつでも涙目になりながら甘んじて受け入れますのでビシバシ申してください。
無分別な批判は自分の涙腺がストライキを起こしかねないのでなるべくお手柔らかにお願いします。