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戦場のワルツ  作者: 暁天花
Ep.Ⅱ『ビリーヴ・イグジスト』
51/54

序章 博愛と正義

Ep.Ⅱ、更新開始です!

時系列的には、Ep.Ⅰ『終章 果たされぬ約束』の前半部分からの続きとなります。

不定期になると思いますが、よろしくお願いします。

 帝国陸軍総本部。その本庁舎にある西方方面軍第三軍の司令官室にて。動転した様子で報告を持ってきた副官に、アークニールは険しい表情で言葉を漏らす。


「……とんでもないことをしでかしてくれたな、あの馬鹿娘は」


 はぁと大きなため息をついて、アークニールはデスクの椅子へともたれかかる。眉間に指を押し当てて、静かに目を瞑った。

 作戦内容の無断変更に、司令部に無断での他部隊の使用。更には、義勇戦隊への大規模な支援行動など。


 まったく、本当に大変なことをしでかしてくれたものだなとアークニールは再び大きく嘆息する。

 いつかやるとは思ってはいたが。まさか、ここまで大胆な手段に出るとは思ってもいなかった。


「こ、これ、かなりまずいですよね……? いったいどうするんです……!?」


 露骨に狼狽える副官を見て、アークニールは苦笑する。


「アルスター、君が私よりも動転していてどうするんだね。この件、君は直接的な関係はない筈だろう?」

「え、いや、まぁ……、そうですけども! ですが、まさか閣下の義娘(ぎじょう)がこんな事をするだなんて思わなくてですね……」


 あんなに真面目な子だったのに、などと呟く副官をよそに、アークニールはそっとデスクから立ち上がる。掛けていた制帽を深く被り、黒のコートを羽織った。


「……やっぱり、行くんですか?」


 アルスターの鋭い視線が、真剣な声音と共にアークニールへと向けられる。それをちらりと流し見て、アークニールは淡々と告げた。


「こうなる事は、兼ねてより予想はしていたことだ。今更驚くような事でもない。……そして、そうなった場合にどのような手を打つのかも、既に考えてあるさ」

「……では、閣下はこの事態を見越した上で、彼女をあの第一〇一帝国義勇戦隊の指揮官に継続させていたと?」

「…………」


 暫し、沈黙の時間が二人の間に降りる。

 ふっとアルスターから視線を外し、ちらりと部屋の片隅に飾ってある写真を流し見た。先日、久しぶりに自宅に帰った時に偶然見つけた、八年ほど前の写真だ。


 アークニールが今は亡き妻と結婚した際に撮った、陸軍大学の同期達との写真。まだその時は〈ディヴァース〉なんてものはいなくて。ただ、平和で自由で平等の国だった頃の、もう二度と戻らない過去の写真だ。


 ──もし、俺達に何かあったら、子供を頼むぞ。

 生前、カーディナル達に言われた言葉がアークニールの脳裏を駆け巡る。……本当に預けられた時は、それはもう困惑したものだったが。

 再びアルスターへと視線を戻して、アークニールは微かに微笑する。


「…………まさか、これ程の大掛かりなことをするとは思わなかったがな」

「…………そうですか」


 再び、二人の間には重い沈黙の時間が訪れる。その中を、アークニールは無言で部屋の扉へと歩いていく。そして、扉を開けようとした──その時だった。


「私も一緒に行きますよ、閣下。──いや、アイルヴァード・アークニール中将」


 背後から思いもよらない声をかけられて、アークニールはハッとして振り返る。見ると、そこには不敵な笑みを浮かべるアルスターの顔があった。

 彼は歩み寄ってきて、敢然と告げる。


「子供達の尻拭いは、私達大人がやるべき仕事でしょう?」


 彼の言葉に暫し苦笑して。再び、彼の瞳をしっかりと見つめる。



「……ああ、そうだな」


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