間章 Ellena's Memory
その日の夜、エレナは久しぶりに夢を見た。五つ歳上の、今はもういない兄の夢だ。
三年ほど前、エレナは兄のロエナに連れられて、度々義勇戦隊の駐屯基地へと訪れていた。
異人種職付法の改正がなされてから一年。天青種以外の人種は全てが排斥され、義勇戦隊として防衛線の外へと放逐されていた。
そして、帝国は義勇戦隊の血肉をもってして〈ディヴァース〉の侵攻を阻止し、攻勢を粉砕することを基本方針として策定。
彼らの守りたいものも、居場所も、食事も。全てを天青種人の楯にした。突破されれば、全てを喪うことになってしまうようにして。
それらを守るために、義勇戦隊の人々は必死に戦った。そして、それ故に。正規軍の防衛線には〈ディヴァース〉の攻撃は届かず、天青種の人々には戦争という事実を遠いものにしてしまった。
そして帝国軍は、異人種への差別意識と自らの怠慢から、何らの支援攻撃も行わなかった。あまつさえ、義勇戦隊への支援を禁止するような司令を下達したのだ。
そんな状況下において、帝国軍に対し義憤を募らせる軍人も少なからずいた。彼らは義勇戦隊の指揮官を志願し、自ら前線へと赴いた。兄は、その中の一人だった。
生前、前線へと出陣する前に兄は言っていた。同じ帝国国民が戦っているのに、軍人の自分が安全地帯に居るのはおかしい、と。
そんな兄を、エレナは尊敬していた。そして、今でも尊敬している。
「なんで、私をここに連れてきたの?」
駐屯基地へと向かう途中の輸送機の中で、エレナは兄に何度か尋ねたことがあった。
すると、兄は決まって苦笑を浮かべるのだ。そうだな……、と言ったあとに。優しいあおいろの瞳をエレナへと向けて。
「お前には、他の連中と同じようにはなって欲しくないから……かな?」
「……? それはどういう……?」
「まぁ、いずれ嫌でも分かるよ」
「…………?」
その時のエレナは、まだ士官学校に入学したばかりで。当時の私は、兄が苦笑しながら言った言葉の意味が分からなかった。
知らなかったのだ。
華々しい戦況報告の裏で、大人達が異人種の人々を肉壁にしていたことも。まともに仕事をしていなかったことも。
帝国軍が、国防の義務を放棄して異人種に押し付けていたことも。
最後にエレナが駐屯基地へと訪れた、一ヶ月後。兄は戦死した。




