約束した少女を探す侯爵様とそれを隠す私〜呪いを解いたら婚約破棄します!〜
よろしくお願いします。誤字脱字あるかもしれません。
「お前が、俺の母に鬱陶しく婚約を申し込んだドブネズミか?」
「ドブネズミだなんてまあ。そんなことありませんわ?お綺麗な顔が台無しでしてよ」
本当に見惚れるような顔をした婚約者さんは嫌悪を隠そうともせず私を睨みつけてくる。私はその視線を真ん前から受けながら、にこにこする。久しぶりの再開だ。少しは興奮するよね。でも、そういう系じゃないから安心して。ああ、なんでこんなに罵倒されているのに嬉しいのかって?それは母様の話によって巻き込まれたこんなことから始まる──
「元気だして・・・とは言えないわね。少しでも気を紛らわせられたらいいのだけれど。単刀直入に言うわ。何があったの?」
なぜか私も同席しているこのお茶会。なんやねん、お茶会のくせしてここにいるのは私と母様と母様の親友のクララ様。母様は公爵夫人でクララ様は侯爵夫人であるけれど、そこに身分の違いは全く感じられず、さすが親友だ。
さらに、先程まで普通に振る舞っていたクララ様。さっきまではメイドがいて、悲しみを隠そうとしていたのだろうか。それに気づくとは、なかなかなのだろう。さらに、母様が気遣いの言葉をかけると、クララ様は泣き出してしまった。母様は背中を優しくさすりながらクララ様が泣き止むのを待っていた。
待って。ここに私がいる必要、ある?
「ご、ごめん。フラ。わ、わたしっ・・・!」
「ゆっくりでいいわ。言いたくないなら言わなくてもいい。だけど、言ったほうがきっと苦しみは軽くなるはず。私にもわけてくれないかしら?」
母様は、フラル・ミュアー。
「その・・・よし。あらためて、久しぶり、フラ」
「久しぶりね。クララ」
そうして、クララ様は泣き止み、最近あった不運な出来事を語り始めた。なんでも、クララ様の息子さんがどうのこうの・・・その間、私も聞きながら、クララ・ファストラル前侯爵夫人。ファストラル家について、思いを馳せていた。
私、ラルフィア・ミュアー。ミュアー公爵家第五女。母様からは自由に生きればいい、と言われているこの身。そして、魔法使いである。魔法使いというのは名前の通り魔法が使える存在である。世界に数人ほどしかいないとされている。魔法使いは魔力、というものを消費することで魔法が使える。魔力が少しあるだけでは魔法は使えないけれど。もちろん、魔力に比例しできることも増えていく。一方、魔法使いでない人たち。つまり、魔力を少しだけしか持っていなく魔法を発動できない一般人は魔導具というものを使う。魔法が使えるようなものだけれどもちろん簡単には作れなく安価とは言えない。魔法使いはとても貴重な存在として国に保護されたり、名誉ある地位につけたりする。だけれど私はそういう堅苦しいのは嫌で断っていた。あまりにしつこいものだから、すこし脅し・・・お話し合いをしてなんとか不干渉になったけれど。
そういえば幼い頃ファストラル家にお邪魔していた時期があったな。幼い頃も、第三女ということで忙しいファストラル家ではのびのび生活できないだろう、と父様に言われファストラル家にお邪魔させてもらっていたのである。確かにのびのびとできていたし、身分のことはファストラル家の、今で言う亡くなってしまったクララ様のお父様しかお知りにならない。というのも、魔法使いであるからして変装などちょちょいのちょいであったのだ。私の容姿は、銀髪で海色の瞳をしているけれど、ファストラル家では、金髪で黒い瞳をしていた。
魔法使いは精神的な成長が早くてクララ様の息子さんのクラウス様──前まではクラウスと呼んでいたけれど、いまでは無理かもしれない──とは、同い年でありながら私が姉のような感覚があった。とはいえクラウスもそこまで幼稚ではなかったけれど。まぁとにかく心のなかではクラウスと呼びましょう。
私がファストラル家から帰る日。クラウスには帰るなど伝えてはいなかった。けれど、何かを感じ取っていたのかもしれない。最後の日の夜、ファストラル家の誇る丘に二人で座っていた時だった。もう精神年齢が見た目の割に高かった私はそのことを今でも忘れていない。
『フィア。僕は君が好きだ。だから、君の居場所は僕がつくっておく。君のことを待って僕はここにいるから。だけど君は魔法使いさまだから忙しいかもしれないけれどね』
『クラウス・・・?』
気づいたらクラウスは、海色の宝石を二つ持っていた。
『この宝石をあげる。これは僕の魔力を両方にこめたものなんだ。二つを近づけると、ほら。こんなふうに光り輝く。また、会おうね』
フィアというのは、ラルフィアとばれないため少し名前を変えていた。別に隠すこともないと思ったけれど。
勘、が鋭かったのだろうか。私がいなくなることに気づけるなんてすごいな、と思った。そして当時私は好き、という感情は姉のことを、という意味だと勘違いしていたのだ。
「はぁ」
しまった。ため息が漏れてしまった。風のうわさでよく聞くのだ。現ファストラル侯爵は、昔の恋を引きずっていて婚約を引き受けない。なんでも、幼馴染だとか、そして婚約をしに来た令嬢には必ず言うらしい。海色の宝石を持っているか?だなんて。慢心ならば恥ずかしいことこの上ないけれど、多分私だ。私が、彼が恋した人ということなのだ。
「と、いうわけでラル頼めるかしら?」
「すみません、聞いていませんでした」
「だから、クラウスくんと婚約してちょうだい」
「は?」
理解しようとしたけれど理解できなかった。母様が言うにはクララ様を助けたいの、ということだった。クララ様の悩みのタネというのは現ファストラル侯爵、クララ様の息子が呪いにかかってしまったらしくなんと余命一ヶ月らしい。弱みを握られないためにも平静を装っていたとか。強いな、クララ様も。息子が余命一ヶ月とか、私なら耐えきれなさそう。
で、私は魔法使いだから治せるでしょう?だから、婚約して治してきなさいだそう。
「私に得ないですよね」
「あら、チャンスじゃない?彼に昔の恋を諦めさせられるのよ。あなたの悩みもなくなるわ」
確かに、と思ってしまった。小さい頃の恋に引きずられるなど冗談ではない。ましてや貴族なのに。ならば姉の最後の仕事として彼を矯正しましょう。
「わかりました。いいです」
「まあ、本当ですか!?フラから聞きました。魔法使いさまなんですよね?いいのですか!?」
「いいって言ってるわよ、ラルは」
「だけど、条件があります。あ、その前にクララ様。私のこと覚えていますか?」
とりあえず彼の言う幼馴染が私であることは伝えておいたほうが色々と融通がきく。とりあえず魔法であの頃の姿にする。銀髪海色の瞳から、金髪黒色の瞳へ。すると、クララ様は目を見開く。
「あなたはもしや昔いたフィア!?」
「そう。私は、クラウスを弟のように思っていたフィアなの」
「な、なら婚約など一瞬でクラウスは許可するのでは?」
それではだめだ。それでは、クラウスは私と結婚することになってしまうかもしれない。昔の恋を引きずってほしくはないしクラウスにはもっといい相手がいると思う。ただ、昔の恋のせいで見えていないのだ。ご令嬢たちが。だから、最後に姉として、彼を幸せにしたい。
「それじゃあ、だめなんです。条件は、クラウスには私が鬱陶しく婚約を申し込みもはやクラウスの意見など無視で婚約を結ばなければならなかった、という私からの強引な婚約にしてほしいんです。それから、一ヶ月と一日で婚約破棄をする、といわれてしまった、といってくれませんか?彼はきっと、私のことなんて大嫌いになります。そしたら万が一にも私を好きになるなんてありえないから」
「そんなに、クラウスが嫌いなの?」
そうなるよね。だけれど私は姉だから。
「クラウスはきっと昔の恋を引きずってるんです。今はもう好きでもないのに。目の前が見えていないんですよ。だから私が覚ましてあげるんです彼のこと。そしたら恋には区切りがついて他のご令嬢にも目がいくと思います。なんてったって、王女殿下が今ご熱心であるって噂がありますからね、クラウスは」
「・・・救ってくださる身でなにか言うのはやめます。だけど、クラウスの気持ちにも目を向けてくれると嬉しいわ。どうか、よろしくお願いします、クラウスを」
「もちろん、呪いはさっさと解かしたいと思ってます。私が言った条件、演技も交えて彼に教えておいてください」
「わかりましたわ」
こうして、今に至る。
「ふん、お前は俺が呪い持ちであることまで知っているのだから婚約者として財産をごそっといただくのだろう?」
「まあ、そのようなことありえませんわ」
話は平行線。クラウスは話をすることを止め、あとは侍女に聞けといって去ってしまった。初めて話した婚約者のことをそんな無下に扱うなんて、やはり矯正が必要らしい。まあ、財産目当てなら婚約破棄などしないだろうという魂胆なのかな?
ちなみに侍女は最近雇ったやつだと言っていた。婚約者を、私をバカにしているのかな?というか、気づけよ。最近雇ったなんて、私の手下だって気づくでしょうが。
「では、お部屋にご案内いたします」
「ええ、よろしく頼むわ」
そもそも、婚約しているだけなのになぜ彼の家にいるか、というのも契約したからという強引なことになっている。私、まさに嫌われ者がやることをしている。なんなら、嫌われ者というか頭おかしいやつみたいだね。
「ここなのね・・・」
扉を閉め声は聞こえなくなったはずである。しかし念には念をというし魔力でこの部屋を覆い声が漏れないようにした。
「久しぶり、ラリー」
「お久しぶりです。ラルフィアお嬢様」
私の一番信用のおけるメイドさんといえばラリー!だけどたまに腹黒いなって思う時があるけど。
「情報操作はできている?」
「はい、ファストラル侯爵・・・いえ、旦那様は完全にあなたの設定を信じ込んでいます。現侯爵としてどうかと思いますけれど」
ラリーは、魔法使いとは言えないけれど少しだけ魔法が使える。多分、その力も使ったのではないだろうか。
「良かった。さっさと彼を治したいところなのだけど、やっぱりまだ無理よね」
私が呪いを解く条件として、というか前提として彼に警戒されていないようにしなくてはそもそも魔法がかからない。流石に私を拒絶していては呪いは解けないし。そのためにもこの設定のまま彼には私のことを警戒しないくらいの仲だと思ってもらわなくてはならない。
「このあとのご予定について説明いたします。まず、ラルフィアお嬢様がやらなければならないことは、旦那様とのご夕食だけでございます。それ以外は何をしても構わないということでした」
あまりにも興味がない、を全面に出しすぎではないだろうか?コレでは私が接触する機会すらないではないか。
「お嬢様というのはやめてちょうだい。たった一ヶ月なのだから、ラルフィア様でいいわ。よろしくね」
「かしこまりましたラルフィア様」
そういい、ラリーは部屋を出ていってしまった。だけど一応私専属の次女で私が婚約破棄したらそのまま解雇ということで雇われているとかなんとか。
「どうしましょう。まずは外部に聞こえないように張っていた結界を誰にもバレないくらい精密なものに直しましょう」
これではバレてしまう場合があるし。だけど、私は魔力が無尽蔵にあるせいで一瞬で終わってしまう。すぐにまた暇になってしまった私は次にやることを考える。
「婚約の印になにか渡しましょうか、クラウス様に」
首からぶら下げるブレスレットは、服の中にしまってある。私のお守りにもなっているコレはやはり私を安心させてくれる。だけど今は、ただの見つかったらヤバい物だけれど。
「そうだ、お守りを渡そうかな。私の魔力を込めてさ」
決めたら動く、そう私は決めている。だらだら動くのもあまりいいとは言えないしね。
えーと・・・あったあった。家から持ってきた箱から探し出す。
私が家から持ってきた宝石の中にありったけ・・・宝石が爆発しないくらいの魔力を込める。私の魔力の色は変装したときの瞳の色と同じで、海色だから宝石は海色になる。ほんと、きれいだよなぁと思う。
「クラウス様って呼ぶのもあれよね。ファストラル侯爵様って呼べばいいのかな?ファストラル侯爵様ね」
善は急げというけれど流石に早いということでお守りを渡すのは夕ご飯のときにしようと思う。それまでは、本でも読むとしますかね。
「──フィア様、ラルフィア様、ラルフィアお嬢様!」
「あ、あら、いたのね」
「本に集中しすぎです」
あたりはすでに暗くなっている。集中しすぎたと自分も反省する。
「夕ご飯のお時間でございます。旦那様がお待ちです」
「行くわ、連れて行っていょうだい」
そういい、気を引き締めながらファストラル侯爵様の元へ向かう。もう彼とは知った仲ではない。彼は私があのときのフィアだと気づいていないし親しげに話せば逆に驚かれてしまうし警戒されてしまうかもしれないから。
「遅かったな。そもそも俺はお前なんかと食事をともにしたくないのだが母がどうしてもというのでな」
「それはそれは。一緒に食事をできてわたくしは嬉しいですわよ?」
「そうか」
このあと、特に会話もなく終わりそうだったので食事が終わり、お守りのことを彼に話す。少し不安だけれども、彼を守るためだ。
「あ、あの・・・これを持っていてくだされば光栄なのですが」
「これは、なんだ」
「これはファストラル侯爵様がもしも何かしらのことが身に起きてしまった場合、それを軽減してくれます」
「・・・追跡でもできる魔導具か?」
流石の私も、ここまで疑われているとは思わなかったよ。素直に受け入れてほしいところだけど。クラウスのこと、どうやって普通の貴族に直せばいいんだ?
「ち、違います・・・仕方ありません。ラルフィア・ミュアーに誓ってこれはお守りだと断言します」
「・・・そうか、ならば持っておこう」
「できればずっと持っていてほしいのですが」
「注文の多いやつだ。わかっている」
これは1つ目のミッション完了ってことでいいよね?そのあとは入浴し、本を少し読んで寝た。
クラウスとの仲は深められそうにない。さて、どうしたものか・・・
というか後から考えて口調がいつも通りに戻ってしまっていた気がする。失敗した。
そんなこんなで二回、婚約してから週が周ってしまいました。さてどうしよう?
「ラリー、このままだとやばいわね。どうすればいいのかしら」
「ラルフィア様が仲を深めようとしないからですよ。はぁ、お出かけにでも行ったらいいのではないですか?」
そこからなぜかトントン拍子に話は進み、明日行くことになってしまった。ラリーにそのことについて聞いたら、私のことを探れるかもしれないといったらしい。我がメイドながら少し怖いわ。敵になったときとかさ。
服もおしゃれな服を選んだし明るめの雰囲気を出せるようにした。久しぶり、というか初めてのクラウスとのお出かけだ。
「ラリー、これで大丈夫かしら・・・」
「はい。完璧でございます」
「準備はできたか?」
とてもいいタイミングでファストラル侯爵様から呼び出しがかかった。
今回はファストラル侯爵領の中でも栄えている場所へ行く。馬車で近くまで行きそこからは歩く。ファストラル侯爵様は護衛は別に付けなくていいといっていたが一応ラリーは連れて行くことにした。だけど服装とかはラリーも私と同じにして、いかにも貴族感を出さないようにだけ気をつけた。
「別に俺は行きたいところなど特にないのだが、何をしたい?」
「えっわたくしは・・・そ、そうですね。屋台でも見ませんか?美味しいものがありますよ。例えばカルおばちゃんの肉団子とか」
「?行ったことがあるのか?」
「はっ・・・い、いえ。メイドが教えてくれました・・・わ」
早々にやらかしていく。小さい頃、ここには来たことがあって、そのことを話してしまった。だけど別に彼は気にした様子もなく、そこに向かって歩いている。私は危機一髪と胸をなでおろした。
肉団子は二本と言わず三本買い、二本を私が、一本を彼が食べた。
「美味しいですね・・・ファストラル侯爵領はやっぱりいいところです!」
「そうか。別にお前とは、一ヶ月くらいの付き合いなのだがな・・・ああ、分かった。・・・少し席を外す」
ラリーからなにかの報告を受け、ファストラル侯爵様は行ってしまいました。
「何かあった?」
「はい。何でも近くで密輸してる現場を見つけたらしく・・・」
私の顔が強張る。それをラリーは察したのだろう。咄嗟にフォローをしてくれた。
「大丈夫ですよ。旦那様は強いですからね、王宮騎士と一騎打ちして勝ったんですよ、なんてったって」
「なぜそんな流れになったのかは不思議だけど・・・なら心配いらないね」
そう私が言うと、ラリーは何かを考えるそぶりをした。何か不安なことでもあるのだろうか、ラリーはだけど私を安心させるようににこっとしながらこんな事を言った。
「最近過激なんですよね、密輸組織。何でも貴族が関わってるらしく」
「は!?え、とやばくないですか?」
「過激といえど、いるのはどうせ下っ端ですから大丈夫でしょう」
「そう?なら、いいわ」
その後は、ファストラル侯爵様が帰ってくるまでラリーとお話をすることにした。他愛のない話だったけれど、盛り上がることはできた。一番信用しているからもあって、あまり身分の壁を感じず話せる唯一の相手だと思う。
気がつくと、日が暮れかけている。いつのまにか、こんなにも時間が経っていたなんて。
「帰ろっか、ラリー」
「ラルフィア様・・・今、伝達が届きました。ファストラル侯爵が危険だそうです。侯爵家に戻りましょう!」
「ファストラル侯爵が危険?」
あ、すっかり忘れてたファストラル侯爵様のこと。いや、そうじゃなくて、クラウスが危険ってどういう・・・
「説明はあとです!早く帰りましょう」
馬車は来ない。緊急事態だ。そもそもあそこのメイドたちや執事は私のことをよく思っていない。だって、クラウスのことをひどく言うのだから。でも執事だけは顔見知りだ。昔から、いたから。
「馬車は来ないようです・・・!」
「久しぶりに本気を出すわ。掴まって、ラリー。行くわよ!」
魔力は何にだってなる。それはまるで願いのすべてを叶わせることのできる力のよう。誰もが夢見る力。
誰も追いつけないようなスピードで空を飛ぶ。魔力の力で!
「ここですラルフィア様!」
「おっと!行くわよ!!」
ドタバタと騒がしいメイドたちを押し退け、クラウスの寝る部屋へと走る。走る。
「クラウス!」
そうさけび、私は自分の今の状態を冷静に分析した。周りには執事やメイド。その前で私は言った。クラウスと。呼び捨てで。
「ラルフィア様、坊ちゃまは・・・呪いが発動する時間を早められたようです。もはや、助かる見込みはないかと」
そう言われ、私は自分でも八つ当たりだと思っていたのに、執事に言ってしまった。
「なんであなたはそんなにも冷静なの!?仕えている人が死にかけなのよ!?」
「・・・私だって、そんなのは嫌ですよ!だけど、仕方ないではないですか!この場を混乱させたくはないんです!覚悟は決めていました!」
たしかにそうだ。
「一度二人にさせてください」
「・・・分かりました」
「ファストラル侯爵、起きてくださいませ。今だけでいいですから」
魔法をかけようとしても弾き返される。だめだ、一度起きてくれないと。
「ファストラル侯爵さま!・・・起きなさい、クラウスッ!!」
そう言うと彼はあったときのよう眉を顰め、目を覚ました。そういえば、昔もこんなことがあった気がする。クラウスがどうしても行きたくなくてずっとベッドのなかにもぐっていたときだっけ。
「君は・・・フィア?」
「いいえ、違います、ラルフィアです」
「・・・人違いか。すまない」
謝るとは、これはかなり弱っているらしい。
「よく聞いてくださいファストラル侯爵様。わたくしは魔法使いです。クララ様に呪いを解除するよう頼まれ来ました。あなたは今わたくしのことをあまりに警戒しすぎです。そのため魔法がかけられません」
「つまり、お前への警戒を解け、と」
「そうすれば助かります」
「嫌だな。俺はもういいんだ。どうせ彼女は戻ってこないし、居場所を作る必要もないだろう」
私がいないなら死んでもいい、そうこいつは言っているのか?いくら弱っているとはいえ、私を理由に死なないでくれるかな?一生夜が怖くなるんですけど。
「彼女、とは?」
「彼女・・・どうせ死ぬならいいか。彼女は、フィアという名前のかわいい人だった。幼い頃会った俺らは少しの間だったが共に過ごした。お前と同じ魔法使い。ちょっとお転婆だったけれど楽しかった。やがて俺は彼女に恋をした。その時約束した。ここに居場所をつくっておくからいつでも遊びに来い、って。でも今も来ていないんだからきっともう忘れてる」
か、かわいい人!!なんか嬉しい。
「来れない理由が、あるのかもしれませんよ」
「違う。彼女はあのときその約束について何も言っていない。つまりはそんな約束は受けられないってことだ。話は終わりだ。俺はもうこのまま寝たい」
「寝るって・・・あなたはもう起きなくなるんでしょう?私だって本当はっ!あなたのことが好きだったのよ!だけど結局そんなのは幼い頃の約束。あなたがその約束で縛られていると思ったから約束に囚われないように、避けていたの」
困惑した表情。だけれど何かを悟ったかのような目を見開く姿も私にはうつらない。
「今なら、いけるわね。治れ、解呪せよ」
これで治った。
「演技か?」
ドスの聞いた声で言われた。怖い。チョー怖い。
「フィアのことを勝手に利用したのか?フィアの気持ちじゃないってことだろう?結局そうだ。令嬢は誰だって計算深くてずるい奴らばかり。もううんざりなんだよ!」
「・・・」
今、彼の精神状態は非常に危ないと言えるだろうか。冷静さを欠いている。
そんな中、私はいつでも戦闘状態に入れるようにしていた。念のためだけど。
すると突然、彼は私に抱きついてくる。
「は?」
すると、私の服を通してブレスレットの中にあるであろう宝石が輝き出した。
「やっぱり。君が、フィアか」
「え?いや、あの・・・」
焦りに焦ってうろちょろしている私を固定して彼は私の首からブレスレットを取ってしまった。
そのまま、中を開ける。
「会いたかった、フィア。あと治してくれてありがとな」
極上の笑顔でこちらを向かないでほしい。眩しすぎて何も見えないから。
「よし、結婚しよう!」
「く、クラウス・・・?一ヶ月といったでしょう」
「それは婚約だ。婚約破棄される前に結婚すれば問題ない」
クラウスは昔から頭が良かった。その日はとりあえずくらくらしたので寝た。そして朝起きたときにはすべてが手遅れだった。
外壁は全て埋められもはや私が逃げ出す場所など残っていなかった。しかも両親は了承してしまっていたのだった。
「これからよろしくな、フィア」
毎日のようにこれからこの笑顔を見るのだ、と思うと私は頭痛を感じずにはいられなかった。
(完)
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