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始まっていいのか?の歌

作者: 石川 瑠佳

「愛している。うーうーうーううううーうーうーうーうーううう」

 ごまかして声を出す。私の歌への歴史なんて、始まんなくていい。別に、結構。

 もう、面倒くさい。

「愛は、惑星と小惑星の衝突によって生まれた。偶然」

 感覚的に思いついた、適当な歌詞。楽しくない。帰りたい。


 こんなんで、いいのか?この唄っている歌への愛は、消耗品なのか?それどころか、ただの、ゴミか?眠い!

 私は、帰りたい!楽しかったのは、ここへ着く少し前の過程だけだった。


 では、私に、歌への愛がないのかと言うと、そういう訳ではない。私は、現実の困難さに負けたのだと思う。私は、歌を愛していた過去があった。今は、とても小さなステージがある飲み屋の店で唄っているのだが。


 ここのマスターは、少し気まぐれでステージを作ったような人だった!そこに来るお客も、結局そのレモンだ。


 レモンなんて、メインで食べる物じゃない。あくまで、他の物に添えたりする補助の物だ。そして、ここに来るお客は、レモンの匂いやレモンの絵でもいいぐらいのざっくり加減だ。

 別に、それが悪い訳じゃない。私が、音楽を抱えて生きるのに、疲れただけ。

 その程度のレモンでも、もしかしたら、誰かの人生の後押しが出来るかもしれない。そう考えたから、何ヶ月かの音楽の休みを得て、この仕事を引き受けた。割のいいアルバイトの一つを、辞めて。

 だけど、結局、私は疲れてしまった。

 なので、私が、このステージを去れば、この私より情熱を持つ誰かが、ここで唄う機会を得るだろう。私のように歌に対して、疑問、疑問で唄う人間より、いい場所を作ってくれるに違いない。


 私の歌への愛は、消耗品。さようならで終わり。


「コラ、あゆみ!逃げんな!」

「た、たくま!?」

「お前の、大好きな歌じゃないのか?なんだ、そのやる気のない声で唄っているのは?」

「だって、アンタが。アンタが、本気で陶芸家になるには、恋愛はいらないって言ったんじゃない」私は、思わず、急に声を掛けてきた元恋人に、客前なのを忘れて言った。

「俺が間違ってた。作る技術力がなくて、その足りないをお前のせいにしたくなかったんだ!」

「バカ!アンタがいなくなって、私、私は…自分の歌の力を信じられなくなったんだ」

「すまなかった!だけど、今のは、酷かったぞ。足を怪我した象が唄ったみたいだった」

「そうかもしれない……」

「でも、相変わらずパワフルだ。声、そこまで出してないのに、凄く通ってる」

 私は、すっかり元気が出てきた。本当に、単純だ。彼の愛の小惑星が、私に飛んできて私に、新しい愛が生まれたんだ!


 本当に、こんな酷く単純でいいのか?

 こういうことが起きたらって、私は考えてた。でも、この想像だけで、私は大分回復をした。


 元彼は、別の人と、もう結婚して、子供もいる。


 こんな想像だけで、元気になれる。

 こんな想像だけで、元気に唄える。


「皆様、すみません。頑張ろうって気が、足りてませんでした。お願いします。この曲、最初から歌い直させてください。マスターいいですか?」

 マスターが、髭のある顔でニッコリ笑い、両手で丸を作ってくれた。

「ありがとうございます」私は、頭を下げる。

 そうだ。やる気があれば、もう一回スタートを切ることが出来るんだ!!



             終

復活するには、この程度っていう元気が出ない理由が自分で分かれば、前を向ける。

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