〔コント〕十年間が怖い話
「あ、先輩。」
「遅くまでご苦労さん。まだ残るの?」
「もう少しで仕事終わるんで。」
「あんまり遅くまで残ってると、怖い目に合うぜ。俺、むかし怖い目にあったことあるし。」
「もー、やめてくださいよ。」
「十年くらい前かな、俺は深夜まで残業してたんだ…。」
フロアに残ってるのは俺一人。
電力不足のせいで節電しなくちゃいけなくて、部屋とか真っ暗になっててさ。
俺のデスクスタンドの灯りと、パソコンの画面の光だけで仕事してたんだ。
ふと、人の気配がする。見られてる気がする。
誰か居るって思ってバッと見上げたら、窓に映った自分の姿でさ。
安心するとともに、さっき感じた視線が何だったのか分からなくて、いやーな感じがしてたんだ。
で、突然。
『ルルルルル…』
電話が鳴ったんだ。
もう日が変わろうかという時間に、誰が会社に電話してくるんだ。
しかも会社の電話は、定時過ぎたら留守電に切り替わるはずなんだけど、その電話はずっと鳴ってる。
なんとなく、出なきゃと思っちゃって。
一人は怖いから、窓に映る俺を見ながら電話取ったんだよ。
そしたらさ。
『ゔおおおおおぉぉぉぉぉ』
っていう、男の低い声が聞こえてきて。
この世のものとは思えない、苦しそうな声だった。
もうビックリして受話器投げ落としてさ。
「ジュワキって何ですか?」
「え? 知らないの?」
「はい。」
「受話器ってそんな昔のものかな? 怖いわ〜、スマホ世代。」
「ジュラ紀なら知ってますが。」
「恐竜時代まで遡るほど、そんな昔の話じゃないよ。」
「じゃあ、何ですか?」
「受話器は、電話の持って話す部分だよ。クッて少し曲がってるやつ。クルクルの紐で電話と繋がってるやつだよ。」
「ああ、朝ドラで見たことあります。へ〜、あんな部品にも名前付いてたんですね。部品の名前とか、よく知ってますね。」
「受話器落とすってのでショックを表せるけど、電話ごと落としたら、それはもう事故だよ。」
「はぁ、そんなもんですか?。」
「怖いわ〜スマホ世代。」
で、慌てて落とした受話器を電話に戻してさ。
すっごい怖くなってきたから、もう帰ろうと思ってパソコン終了しようとしたんだ。
すると、さっきまで使ってたマウスがない。
「マウスって何ですか?」
「えええぇ! マウス使ったことない?」
「マスクは毎日使ってますが。」
「そういや、パソコン触ったことない新人が増えたって聞いたな。」
「仕事はタブレットですし。」
「そうか、マウスでクリックしなくても、タップしてりゃいいのか。怖いわ〜スマホ世代。」
まあ聞け。
とりあえず、マウスって部品がないとパソコンを終了できない から、机の上を探したんだけど見当たらない。
電話が鳴るまでは確かに右手で握ってたんだ。
床に落としたのかと思って、足元とか覗き込むけど、暗くてよく見えない。ひっくり返ってりゃ赤いレーザーが見えるんだけど。
仕方ないから、壁から非常用の懐中電灯を取ってきて、机の下を照らしたんだ。そしたらそこに…
「カイチューデントーって何ですか?」
「おぉい、嘘だろ! 手に持って使う電気だよ? ライトだよ!」
「スマホのフラッシュライトみたいなものですか?」
「ほんとに怖いわ〜スマホ世代!!」
※1 マウスは無くてもパソコンは終了できます。先輩が知らないだけです。