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Rusty Rail  作者: 雪村悠佳
4/8

4

 再び唸りを立てて走っていく列車。

 路線図によれば、次は北平木駅。……南北が付くとはいえ同じ平木の名前がついているだけに、そんなに距離はなかったはずだ。

 両側に山があるのは相変わらずだけど、谷の幅はやや広がっていて、緩やかになったところの斜面には張り付くようにいくつかの家が見える。

 ユキナはそれをじっと見ている。


「そう言えば、ユキナさんっていくつなんですか?」

 ふと思い付いて訊いてみる。

「ヒミツです。女性の年齢を聞くのはNGとお母さんから習いませんでした?」

 そう言ってから、少し目を細めてみせる。

「――今高2ですよ」

「あ、じゃあ同い年」

「おお。じゃあお兄さんじゃないですね。えっと……」

 そう言えば名前を言っていない。

「アキフミです」

 苗字とどっちを言おうか悩んでから、結局名前の方を言う。何となくユキナに合わせた方がいいような気がした。

「アキフミくんか。……アキくんですね」

「あんまりそんな呼ばれ方されてないけど」

 多分、そういう呼び方をしてたのは小さい頃の近所の女の子ぐらいだ。ゆーちゃん、だっけ。

「あはは。まぁアキフミくんで」

 そう言いながら、また窓の外を見る。

「……ユキナ、なにやってるのよ」

 そこに急にもう一人の女の子が割り込んでくる。

 シオリ、って名前だったか。髪の毛を後ろで小さく2つでくくっていて、背も低くてユキナよりは幼く見える。だけど、さっきの親しそうに話していた雰囲気から見ると、そんなに年齢の差はないのかもしれない。

「なにコイツ。いきなり名前で呼び合ってるとか……あー貴方、ユキナをナンパでもしようとしてるの?」

「違いますっ!」

「ちがうよシオリ!」

 二人同時に反応する。

「ユキナ、気を付けないと駄目よ、だいたいユキナはおっとりしているんだから、男に対してもっと警戒心を持たないと。お菓子もらってもついていっちゃ駄目よ?」

「ひどい、私お菓子なんかで釣られることないよ」

 ――その言葉はお菓子じゃなかったら付いていくことになるぞ。

「悪いわね、ナンパはお断りなの」

 シオリが僕に向かって言う。

「こんなところでナンパしてどうするんだよ……」

 僕がぼやくと、シオリは少し僕のことを睨んでから、不意に表情をゆるめた。

「ちょっとからかってみただけ」

「……性格悪いって言われたことない?」

 僕の言葉は無視して、シオリは少し離れた座席に座り直した。

「なんか家が増えてきましたね……」

 ユキナが外を見ながら言った。

 さっきまでの景色と比べて、谷と山の間に平地が広がり、古い木造の長屋のような住宅がたくさん並ぶ、何十年か前のようなとても懐かしいような光景。

「この辺は鉱山町だから、山の合間にぎゅうぎゅう詰めに建物が出来てるんだと思う。……幌倉鉄道って元々鉱石を運ぶために出来たらしいし」

「詳しいんですね」

「だから建物が同じような新しさなんだと思います。鉱山関連って、そういう町のでき方をすることが結構多いみたいですよ」

「なるほどです」

 そういう話をしているうちに、平穏に走っていた電車がスピードを落とす。

「次の駅についたみたいですね」

「ええ」

「じゃあ、ちょっとシオリちゃんのところに戻りますね」

 そう言うと、ユキナは席を立ってシオリの横に戻る。

 歩き出し際に小さく手を振る。――ちょっとかわいい。


 窓の外に、「北平木」と書いた駅名標が見えた。

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