密室を脱出したオレはどこで間違えたのだろう。
2021年10月2日土曜日 正午
朝こそ肌寒かったものの、台風一過で澄み渡った空は真夏の様な日射しをつくっていた。
同日19:00 某公園
「ハァハァ…」
這いつくばる様にしてオレは一本の木に抱きついた。
「ここまで来れば大丈夫か…あの部屋にどれ位居たんだろうな…」
日付の感覚など皆無。肌感覚のみで季節を探る。
死なない程度の薄い栄養ドリンクしか供給されない暗い密室を、仲間の制止を振り切って脱出。
今はとにかく疲労困憊だが、しかし何か予想と違う事が起きている気がする。
でもここまで来たらもう戻れない。行くしかないのだ。
そうだオレは、今脱出すべきだとピンと来たんだ。
自分を信じなければ。きっと大丈夫だ。うまく行く。
月灯りの中、水を少し飲み息を整え目を閉じる。
今夜はゆっくりハネを伸ばそう。
明日には全てが始まるのだ。
10月3日日曜日 AM10:00 快晴
クソっ!やはりそうかっ!
誰もいねぇ!
昨日の違和感はこれか!
多分、間違ったのはオレの方だ。
やっちまったんだ…。
あぁ…。
こんなに空は青いのに…。
「やった後悔より、やらない後悔って引きずるよね。あとさ、全力でやり切らないとそれもやっぱり引きずる後悔になったりするよね。」
って突然のこのイケボは誰だ?
だがその通りだ、先に進むしかねぇ!
こうなったら誰でもいい、誰かに届いてくれ!俺の雄叫びよ響け!
「ミーンミンミンミンミンミン…」
夏と間違えて割と秋なタイミングで出て来てしまったミンミンゼミ。
女のコと出会う為だけに地上に出てきたが少し遅かった。
それでも可能性はゼロではない!……はず!
きっとどこかに居る!……はず!
一縷の望みを胸に抱き、交尾してくれる女のコと出会うべく、ガチで生死を掛けた冒険が南関東の某公園で今始まる!
さあ翔べ!翔ぶのだ!
…近所のクソガキには気を付けろよ。
毎年こんな子いますよね。その度に毎年こんなストーリーを考えておりました。セミは交尾する目的のみで地上に出て来ます。交尾出来ずアクシデントも無ければ一ヶ月位地上で生きれる様です。が、交尾さえ出来れば目的達成という事で場合によっては一週間を待たずに命果てる訳です。何とも刹那的な生き方だなと思うのです。