襲撃
あのルーシュとかいう少女は何だったのだろうか。
「何がなにやら分からなかったわね。」
「勝ちました」
「うぃん」
結局、何もわからずに終わってしまった。
でも何故か、双子たちの顔が満足げだから良しとしようか。
「あれ?そういえば魔膜は?」
「あ」
【応接間にて】
「あらあら追い出してしまって良かったんですか?」
ルーシュにヨミと呼ばれたタキシードを着た女性はあきれたように言う。
「くそ!何なんだアイツら!」
「それは人間とダンジョンマスター同士が共にいる事を、うまく呑み込めていないからだと思いますよ。」
「う、うるさい!そんな事分かってるんだ!」
ルーシュは自覚している事を言語化されうろたえる。
「人間との共存何てありえないんだ・・・」
「色々ありましたからね」
何かを思い出すかのように言葉が途切れる。
「でも、あの方はダンジョンマスターではないと思いますよ?ダンジョン外に出れるわけありませんから。」
「そ、そうだな・・・」
ヨミと話し冷静さを取り戻したのか声色が落ち着いてゆく。
「しかし、幻術を見破ったあの能力は気になりますね、結構強力なものだったんですが・・・まあ、それを訪ねる前に出て行っちゃいましたし」
「う、その通りだ・・・」
「また来ますよ彼らの魔膜を預かっていますし。」
ヨミは見える位置にゼノの持っていた魔膜を上げる。
「その時に聞くとしましょう、あと失礼をしたのですからきちんと謝るんですよ?」
「分かったよ・・・今回は私が悪かったし・・・」
「うふふ、頑張ってくださいね?・・・あら?」
不意にヨミが視線を逸らす。
「どうした?」
「どうやら侵入者のようですよ。」
「また、あいつらか。」
「そのようですね、懲りない方たちです。」
ヨミたちの目の前の空間が歪みそこから全く別の景色が映る。
暗い洞窟の様な場所に、無数の大きな虫の様な生物が不快な音と共に現れる。
「ブブブブブ」
「魔弾」
ルーシュはすかさず魔力を打ち込んでゆく。ヨミもそれに続くように手のひらほどの刃を飛ばす。
その攻撃は一発づつが虫たちの急所を捉え甲殻との隙間を撃ち砕いてゆく。
「数は多いだけでどうってことないな」
「・・・そうですね、不自然なほどに」
この数にも関わらず圧倒的な力を見せつける二人だが、あまりにも不自然な手ごたえに欺瞞の念を抱く。
「チュルチュル、スイツクス」
相手をしてきた虫たちとは明らかに異なる存在、不完全ながらも意思のある音を出している。大きさは今までの相手とは大きく異なり、羽虫程のサイズであるがそれ故に異様な雰囲気をまとっている。
「何だアイツ?」
「分かりません、ですが他よりも明かに魔力が高いですね」
「ふん、たかが虫ごときが、魔弾!」
ルーシュは拡散させて打ち込んでいた魔力の弾を対象目がけて直線に撃ちこむ。射線にいた虫たちごと捉え一直線の残骸ができた。
「本命には当たってませんけど」
「う、うるさいな!的が小さすぎるんだ!」
むきになった彼女は次々と打ち込んでいく。それに巻き込まれた虫たちは肉塊へと変わってゆくが、そのサイズに加え異様なほどに素早い動きで掠ることもない。
ヨミも隙をついて接近戦いを挑むも一向にダメージを与えられない。
「な、なんだコイツは速すぎるだろ」
「それもそうなんですが、何も仕掛けてこないのが余計不気味ですね」
二人がかりの攻撃を優々とかわし、このスピードであれば背後を取ることも容易い程であった。
「ヴヴヴヴヴ」
二人が手をこまねいていると、羽の振動数が上がったのか鋭い羽音をたて始める。
「お、おいあちこち壊し始めたぞ。」
それにあわせて室内の調度品を壊し壁に穴を空けはじめた。その力は指先にも満たない大きさから想像もつかないような破壊力と推進力を秘めていた。
「さっきより速くなってないか?」
「ええ、もう目で追えるのがやっとですね」
二人はその生命体に警戒するように部屋の中心で背中を付けていた。
すると不意に扉からノックが聞こえる。
「くそ、なんだこんな時に!」
その声は扉の向こうには聞こえないのか止まる気配はない。
「あれ?いない?失礼します。」
声の主は持ち手を捻ねる。それと同時にほんの少し扉が動いた瞬間を虫は見逃さなかった。
「あいつ外に出るのが目的か!」
「危ない逃げてください!」
「え?」
二人が捕らえられずたったの一撃さえ与えられなかったものが
「うわ、キモ!」
パチンと鳴り響く合掌の間に潰されるのであった。




