ダンジョンの主
紫に金の刺繍が施されたカーテンの大窓に、大理石でできたテーブルが置かれた部屋。
見たこともない様な赤色をしたソファなど明らかに値の張る調度品で満たされた空間だ。
「そこに座るがいい。」
俺たちは彼女が座る向かい側と逆に座らせられると、タキシードを着た女性がすぐさま紅茶を運んでくる。
先ほどとは裏腹にそれなりの対応はしている様だ。
「まずなんで私の幻術を見破ることができた?」
口調こそふてぶてしくうつるが、幻術によって他からは別の振る舞いが見えているのだろうか。
「見破るも何も俺には星の布を引きずった姿しか見えてない。」
「そ、そんなわけないだろ!この姿を何もせずに見破れるものか!」
しょうがねえだろ、それ以外見えないんだよ。
「ゼノの言っている事は本当です。」
「丸見え」
双子は見えてるようだが、リリィは今だに信じられないのか首をかしげている。
「それにだ!その魔道具は何だ!」
俺が机の上に置いた魔道具を指さす。
こうしてみるとしずく型のくせに机の上に立つのだから不思議道具だ。
ルーシュは、その魔道具を躊躇なく掴むと持ち上げたり覗き込んだりとまじまじと観察を始める。
「こんな代物、ダンジョンを一つつぶさない限りでてこないぞ!」
そんな大層なものを入れっぱなしにした袋を説明もなしに丸ごと渡すとは危なすぎやしませんかね。
「どんな効果がある物なんだ」
「…お前、何か勘違いしてるようだがここに連れてきたのは、万が一にもここに危害を加えるようなことを想定してだ。お前らとこの道具について話し合うためじゃない。」
どうやらかなり警戒されている様。
それ程までに幻術の効果に自信があったのか。
正直見て欲しい物はこれだけじゃないのだが、余計にややこしくなりそうだ。
しかし、こうやって目を凝らしても薄っすらと丸いモヤが何やら見える。あれが幻術とやらだろうか。
「こんなものを持っているなんて…まさかお前、ダンジョンの主か?」
ダンジョンの主とはクラーケンで聞いたダンジョンマスターの事だろうか。彼女は納得のいく答えが見つかったようだ。
人間ですよ、人間。この双子は宇宙人らしいが。
「それならば納得のいくことが多いじゃないか。お前、入り口の魔道具に触れても光らなかっただろ。」
入り口にあった球の様なものだろうか。
「いや、覚えてない。」
「ごまかしても無駄だ、幻術の魔道具もダンジョンから出た品だからな。」
そのダンジョンから出た魔道具が俺がダンジョンの主であることとは繋がらないが、自信ありげに語っているから黙っておこう。
「そして蒼髪のお前、なぜ人間がこの者に付く。本来相容れぬ存在だ、互いに利用しあうような間柄なのだぞ。この者とは人間にとって害でしかないぞ。」
「い、色々と急すぎて分からないけど、ゼノはそんな風な人じゃないと思うけれど…それに食べ物だってすぐに出してくれるし。」
リリィから援護が入る。俺としてはあの時はそんなに深く考えていなかったが信頼されているようで嬉しいじゃないか。最後のは余計だったが。
「そうです。ゼノは我々を守ってくれていると感じています。食べ物も出してくれます。」
「優しい」
双子からは相変わらず。
「ふん、貴様らも私の姿が見えるというのならダンジョンで生まれたんだろ。そこの主が守ろうとするのも本能に近い、何かだ。」
それはどうなんだろう、あのときの俺なら見捨てることはしないのではないだろうか。
そもそも、幼女を見捨てるなど紳士の風上にも置けない。
「うっ…何だよ。」
いやまて、コイツはさっきから自信満々に語るがそれが真実である証拠は何処にもない。
というか、この道具その他諸々は貰い物だし。
「お、おいなんだその顔は!」
つまりコイツは今、間違ったことを大声で吹聴する黒歴史を絶賛製造中なのではないだろうか。
そう考えると何だか哀れに思えてきたぞ。
「おい!そんな目を私に向けるな!」
気が付くとまたもや癇癪を起している。
何でコイツは涙目になっているのだろう。
「何なんだ!お前たちは!もういい!どっかいけ!」
俺たちは魔道具がなにかも分からずに追い出されてしまった。




