王都へ
俺たちはソルトラのギルド長に手配された馬車で向かうこととなった。
馬車の中ではソルトラに向かった時と同様、双子は体を揺らし眠りにつき、蒼髪の少女は昨日の残りで小腹を満たしている。
当の俺は貰った魔膜という見た目の数倍入るという異世界不思議道具をいじっていた。
俺が知る限り入っている物は、王都に持っていくよう頼まれたものは報告書と切り落とした触手だ。
切り落としたといっても船をつかむほどの大きさあはありあんなものが入ったと思えないし、そもそも入り口から入る気がしない。
「ゼノ、昨日のご飯をください」
「ごはん」
そんなことを考えていると寝ていたはずの双子から声がかかる。
「わかった、ちょっと待ってろ」
カバンの中に手を突っ込み探す。
中の空間は狭いようで広く端に触ろうとすると綿の様な感覚が手に伝わる。
端を伝っていくとやがて固く艶のあるものに触れそれをつかみ引き上げる。葉にに包まれた料理が形を入り口付近のみ変形させ手元に現れる。手元に来るとまだ料理の熱が伝わってくる。
どうなっているのかさっぱりだがなんとも便利な物である。
「ほらよ」
「ありがとうございます」
「ありがと」
双子はそれを持っていくと座り直し料理を開ける。
俺はそれをしり目にさらに鞄をいじってゆく。
どうやらソルトラのおっさんが冒険者時代に使っていた品もそのまま入っているようで、探るたびにごつごつと手に当たる。
端なのかはわからないが綿の様な壁は押すとズブズブと手が沈んでゆく。
何とも不思議すぎる。
そうして手を壁に埋めたり品物を取り出しては入れたりを繰り返し、未知との遭遇を楽しんでいると、グワンと馬車が揺れる。
その衝撃と同時に馬車を引くお馬さんもヒヒンと唸り止まってしまう。
なんだなんだと、外を見ると、それなりの武装を整えた人間が数人馬車を囲んでいる。
海上戦で見た冒険者よりも良いものなんじゃないかと素人目でもわかるくらいに違う。
だが不気味なことに、腕をたらし目の焦点は合わず顎の筋肉も弛緩している。
それが囲む光景は異様と言う以外ない。
「ノーミソチュルチュル」
声は高すぎるビブラートに揺れ人の物ではない。
馬車は何やら四角い口を持つ筒の様なものを中腰で構えた兵士に狙われている。
結構揺れたはずだが傷一つついてないところを見るにこれまた何かしらの魔法道具なのだろう。
「うわ…何こいつら」
杖を構えたリリィがその異様な光景に顔をしかめる。
ただ口元の食べかすを残して言うものだから緊張感がとても削がれる。
パァァァン!
破裂したような音と共に、一度馬車が揺れる。
しかし、馬車には損傷がなく向けられた筒を見ると、起動した後なのか少し光っているのが分かる。
「ウゴァァ」
何かが気にくわないのか騒ぎ始める。
手に持つ魔法道具をガチャガチャと音をならし振りはじめる。
とりあえず便利魔法その壱ソナーを展開。
すると、遠くの方に人の気配。
この兵隊とは別に一人だけやってくる。
「あれれー?君たち何やってるの?」
わざとらしく首をかしげながら短髪の少女がゆっくりと近寄る。
その視線は俺たちを取り囲む兵士たちに向けられ、服装はその兵士たちと似たような色合いをしている事からそれなりに関わりのある人物なのだろう。
「グルルルル」
取り囲む兵は彼女を見るや威嚇したような唸り声をあげる。
しかし、それを見るや指揮官らしき人物がすぐさま声を放つ。
「グガアアアア!」
統率のとれた動きに加え、指揮官の判断が速い。
「うっわ、意識まで持ってかれちゃってさ・・・」
少女は飽き飽きした声を出すとゆっくり近づく。
なんだか置いてけぼりだが、とりあえず邪魔をしてはいけない空気だって事は分かる。
「ウゴゴ」
俺らに向けた道具を切り返す。
「まったく・・・そんな武器も誰に持たされたのやら・・・」
魔道具らしきものが放たれるより前に、少女が動く。
「グ!・・・ア?」
少女は姿勢を低くし視線からそれると常人じゃありえないようなスピードで懐に入り込む。
射線からそれ、次々に兵士たちの間に入り込むや腕を振い空を切る。
それと同時に兵士たちは倒れこみ少女に向けられた道具もいつの間にか一筋の断面を見せ崩れていた。
この間十秒もたっていないだろう。相当な早業だ。
「うそ・・・見えなかった・・・」
正直なにかの劇団なんじゃないかと思うレベルで兵士たちの名乗りに対して一瞬であった。
「なんだか迷惑かけちゃったみたいだしお詫びをさせてよ」
何事もなかったかのように少女が近寄ってくる。
その後ろには、いつの間にか倒れた兵士たちは積み上げられ光る輪によって拘束されている。
「なんて言っても手元に渡せるものもないし、これ渡しとくよ」
そう言って彼女は懐から取り出したコインの様なものを俺に向けて投げてよこす。
受け取ったものを見ると、精巧に掘られた獅子が光の当たる。
しかし、つい受け取ってしまったが、とにかく返却したい気持ちでいっぱいだ。
「じゃ、また会おう」
と、思っていたが積み上げられた兵士ごと光と共に消えてしまった。
「な、なんだったんだ」
「さ、さあ?でも、キーリクって名乗ってたし彼女の服装とそのコインから兵団の上層部の人だと思うわよ。そのコイン無くさないように袋に入れときなさい。」
そう言ってリリィは俺が持っている魔膜を指さす。
「こんなちっさいもの、入れといていいのか?探す時、大変そうなんだけど。」
ちょっといじった時でも何が入ってるか分からず手探りだったし。
「あれ?あなたサーチできるようになったんじゃないの?」
「ああ、サーチって地上以外も使えるんだ。」
それはそうか、水中だって見られたんだもの。
俺たちは、王都へと向かうのだった。




