イカ
クラーケンの攻撃を乗り越えた俺たちは一先ずギルドに集合することになった。
危機を乗り越えた冒険者たちの顔は活き活きとし酒を飲み笑いあっている。
本来討伐するはずであった魚は海から回収された。
弓矢などにも浮力があったらしく海に沈むことなく仕留めた獲物と共に海面に浮かんでいた。
本来討伐する予定だったはずの数には及ばなかったらしいがクラーケンの襲撃によってこの沖に集まっていた生物は散り散りになったのだとか。
そしてイレギュラーとなった件の大物を撃退した者として俺たちのパーティーは他の冒険者にもまれ共に騒ぐなどと言うこともなくギルド内の受付の奥、ギルド長室に居合わせていた。
「それで俺たちに出てほしいと」
「まあ、そういうことだ」
そう答えるのは受付をしていた大男。
船の上ででかい金槌を振り回すパワー系
戦闘姿や司令塔としての状況判断能力から只者ではないと思っていたがどうやらこのソルトラ支部を任されるギルド長であったらしく今回の件を話し合っている。
クラーケンがこの近場に来ることなどほぼなくイレギュラーなことであった。
先の戦闘でも感じ取れるように脅威そのものと言え災害の1つとして認識されている程である。
災害であるがゆえにそれへの対策としては被害を抑える程度の物しかなく冒険者たちが結界を張り即座に防御へ移れたのはシュミュレートされた訓練によるものであった。
つまり再襲撃に備えようとしても、あの襲撃でギリギリの防衛しかできなかった者達が出向くのみであれば問題の改善には繋がることはないのだ。
それをまじかに退けた俺たちのパーティーが代表としてこの事態の報告に同行してほしいと言われたのだ。
報告は王都で行うとのことで行先も合致する俺たちに断る理由もなく付き添うことにした。
「まあ、念のため警戒は続けるが、クラーケンからあれ以上の追撃が来ることはないだろう。」
とのこと
「ただ、俺として一番懸念してることはな大規模討伐だから支払われる報酬が一律で追加がねーんだよ。あんなことがあったのにだぜ。組織ってめんどくせーよな。」
どうやらこの依頼は誰でも受けられ一律の報酬が手に入る代わりに増減はしないよう。
しかし、あんのような事があった手前なにやらそれだけでは腑に落ちない様子。
「そこで、今回狩った奴らを使って宴を開くことにしたんだ。」
主役がいないと始まらねーぜと俺の胸を叩いた。
日の昇る晴れやかな空
日の光を波が動かす砂浜
くすぶる肉の匂いとそれを各々が楽しむ声
昨日言われた宴もといバーベキューが行われている。
世辞や音頭もなく始められた。
一応今回の主役と言われていた通り他の冒険者たちは思い思いに焼きそれを頬張るが、俺たちには焼かれた品を給仕され手元に運ばれてくる。
ここまで来たら混ぜてほしいのだが。
だが俺以外はそんな事を気にすることなくもりもりと食べている。
青髪のリリィは大きな肉を、金髪のツーレは一口サイズの肉や野菜をさした串物を、黒髪のクーレは何だか良く分からない黒く平たい物を両手でパリパリと食べていた。
再び目線を他の冒険者へと向けると何やらチラチラこちらをうかがっている者が数名
これ幸いにとそちらに声をかけようとすると逆に俺に向かって声がかかる。
「おう、やってるか?」
盛り上がった筋肉が豪快に酒を掴んでいる。
すでに出来上がっているギルド長だ。
「俺たちもあそこに混ざりたいんだけど」
確かにあんたとも喋りたかったが、目が合ったがゆえに彼らとも会話したいのだ。
それを聞くと急に笑いながら俺に手を回し顔を近づける。
「ガハハハッ!・・・それは無理だ。」
「?」
「お前はあのクラーケンを撃退した事に関してどう思ってるか知らないが、あの時全員が死を覚悟した。」
声が言葉を連ねるごとに尖っていくのを感じる。
ムキムキの漢に囁かれる趣味はないがここは大人しく聞き入る。
「それにあいつからちらっと見えた魔石の大きさからみるにどっかのダンジョンの主だろうよ。そうそう撃退なんてできるもんじゃない、しかも一太刀で切り落とすなんて離れ業、聞いたこともねぇ。」
ダンジョンの主ってことはあの生物たちはそこからあふれたのだろうか。
「それを乗り越えた奴に向ける視線は羨望か畏怖か、冒険者みたいに前線を体感している者でなければ前者だっただろう。」
なるほど、さっきから視線を感じるのはシャイボーイガールとかではなかったわけだ。
危うく勘違いで微妙な空気にするところであった。
しかし、普通の冒険者である者がこの調子ならばパーティーメンバーはどう思っているのだ。
あの双子に関しては良く分からないが少なくともリリィは何か思うところがあるかもしれない。
そう考えたら心配になってきた。
「なあ、リリィ、もしかして・・・」
「ちょっとこのお肉凄いわよ!赤身なのに柔らかいし中までちゃんと香辛料の味がするの!」
そういってグイッと料理と共に近づくガチ恋距離
この子は食べ物の事しか頭にないのだろうか。
「あ!ギルド長さん!こんにちは、ここに参加させてくれて感謝するわ!」
「がはは!いいってこことよ!もとよりお前らがいなかったらこんな事すらできなかったんだがな!その料理が気に入ったんならこいつに渡す袋に入れといてやるよ!」
「袋?」
何それ初耳なんだけど。
「おお!そうだった!ほれ、コイツだ。」
そう言って給仕が俺のもとに一つの鞄を持ってくる。
豪華な装飾はない物の革でできたそれは日の光を反射し利便性の高い隠しが強調される。
どう見ても袋と呼ぶには遠く感じるが。
「まさか、袋って魔膜のことかしら・・・」
魔膜とやらを見るとリリィ神妙な目つきになる。
「おう、そのとおりだ。こいつは俺が冒険者時代に使ってたもんだからちっとばかし古い型かもしんねーが貰ってくれ。」
「ふ、古いってこれ最上級品じゃないの!」
それを聞いた途端声をあげる。
最上級品と言うところで何やら簡単に受け取っても良い物なのか分からなくなるが、そもそも魔膜というものが分からないからついて行けない。
「魔膜って?」
「おうそうか土地によって呼び方が違うんだったな、魔膜ってのはな見た目の数倍入るような魔道具の事だ。」
「・・・なるほど」
言われても知らないが理解はできる。
「今回の追加報酬さ」
そういうと鞄をぐっと俺に押し付け肩を叩く。
「まっ、お前に頼んだ王都でのお使いもその中に入ってるからよよろしく頼むぜ。」
「え、ちょっと」
ギルド長はそれだけ言い残すと、酒を片手に笑いながら去っていく。
「受け取っちゃったから色々と断れなくなったわね。」
「ゼノ、出発ならばもう少し食べためておきます。」
「美味い」
何やら押されたらしいが当初の予定どおり王都へ向かおうと思う。




