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アダプるエヴォる  作者: ユニマル
10/17

海上戦


 停泊していた船は今回の戦闘に利用する物だそうで弓矢を速射する設置型のクロスボウ、いわゆるバリスタと言うやつが用意してあった。

 船の位置は岸からそれ程離れておらず沿岸帯にある。

 そこから見下ろす海面からは大量の魚影がくっきり目視できるほど生物が密集している。

 中には赤いサメやヒレを動かさずに高速で泳ぎ回るマンタなど元の世界では見られない生命も渦巻く。

 そんな奴らは他の魚に喰らいつき自身の攻撃性をあらわにしている。

 その姿をみるにまず海水浴など考えられない状態である。


 その領域を3隻の船で取り囲む。

 どの船からも武器を構えた冒険者たちが確認できた。


「お前らぁ!はなてぇ!」


 合図とともに各々のパーティーが動き出す。

 弓や魔法など遠距離攻撃できるものは次々に海へと打ち込む。

 不思議な形の矢や対象へと飛ぶ雷、空中に生成された氷の塊によって次々に数を減らしていく。

 そんな中を掻い潜る個体も多く避ける外皮で弾くなど考えられないような動きをする。

 攻撃的な種もいるようで甲板まで襲い掛かる。

 そこに前衛を務める者が盾で殴り剣で突き刺す。


 全体の統率が取れているとは言えないがパーティーごとの連携によって安定した動作が断続する。

 リリィもそれに続き魔法を放つができたばかりのパーティーでの連携は取れず武器を持った俺はただ立ち尽くしその光景を観察している事しかできない。


 ほぼ単独で動き、俺は周りを見ているだけ。


 この光景を見ているとこれ以上の人手は要らなかったんじゃないだろうかと思えてくる。

 近接武器を使う機会は俺のパーティーには巡ってこないのではなかろうか。

 そうだとしたらリリィも魔法を放つ対象を探るべく習得したばかりのサーチを使い補助に回る方が良いだろう。


「・・・サーチ」


 詠唱を唱えようとしたがそもそも覚えていなかった事に気が付き魔法名のみをつぶやく。

 だが親切設計なこの魔法は即座に発動し意識の中に全体を把握する能力を授ける。

 その力は海の中までまるっと見えてしまう。


 もしかして魔法の才能があるんじゃないだろうか。

 あれだ、チートだチート。

 創作物でよく見るもの。

 俺は詳しいんだ。


 そんなサーチで見るに、海の生物たちは不思議なことに底にはたまらず上層にばかり回遊する。

 上層にいることで上から来る冒険者からの攻撃によって数を減らしているようだ。


「なあ、リリィ。こいつら上の方にしかいないみたいだぞ」


「そうなの?じゃあ大きいのいこうかしら。・・・なんでそんなこと分かるの?」


 リリィは杖を掲げようとした手を止めこっちを見てくる。


「教えてもらったサーチだよ。底の方にはいないな。」


「いつの間に使ったのかしら、それにサーチって・・・」


 リリィはそれを聞くとなにやら呟きながらも戦闘を再び始める。

 俺も海を底の方まで見ると何やらさっきの物と違和感を覚える。


 どこを見てもその状況には先ほどとの違いはない。

 しかしそもそもの違和感である底との差を気にすると段々と分かってくる物がある。


 ゆっくりではあるが底との差がなくなっている。

 それも生物の方から底に向かうにではなく底がせりあがっているのだ。


 その差が縮む速度は上がってゆき誰が見てもこの異常に気が付ける程だった。


「な、なんだこれ」


 それは誰が言った言葉なのか冒険者たちの手を止めこの現象に注意を即す。

 海上に近づいたそれはとうとう空気に触れる所まで姿を見せた。


 数本の足が単独で意識を持つようにうねる。

 白く丸みの帯びたフォルムに黒い線が目立つ。

 誰しもが目視できるところまで姿が見える。


「クラーケン!?」


 リリィがその姿に身構える。

 クラーケンってあれかRPG中盤で出てくる水系のボス、そうじゃないにしてもだいたい強い立ち位置のやつ。

 そんな奴がこんな沖に出てくるなんてこの世界の生態系は人類にとって身近な脅威なんじゃないだろうか。


 周りの冒険者たちは身を固くする。

 クラーケンの巨体に圧倒されたのか腰を抜かし立てなくなる者もいる。


「お前ら!ひくぞぉ!」


 最初に冒険者たちに号令をかけた声が船に響く。

 ただその声に反応したクラーケンはこの船を逃がさないかのように足を甲板に叩きつける。

 木は飛び散り足場が抉れる。

 そこに陣を張っていた冒険者は直撃こそ逃れたものの攻撃をいなすために使用した武器や盾はひどく曲がりその威力を証明していた。


 その足は暴れ被害を広げる。

 巻き込まれない様にそこから離れていく冒険者たち。

 逃げ遅れた者へ太く強靭な足が横から衝撃を加える。


「はやく逃げろ!」


 受付にいたおっさんが常人ではまず持つことすらかなわないような巨大な金槌を担ぎながら冒険者達へ叫ぶ。

 他の冒険者が距離を取りパーティーの維持に精一杯の中、両手で持ち上げた金槌を振り回し近寄る足に当てる事で安全な空間を作り続ける。


ブオオオオオオオオオ‼


 その攻撃が響いたのかクラーケンが吠える。

 空気を振動させることを可能とする器官が体内に備わっているのかとこの状況では不相応な思考を巡らせてしまうほど俺のキャパシティに入りきらない光景が広がっていた。

 なんでこんなにも明確に情報が入ってくるかというと、サーチなんかじゃなく直接見ているから。


 そんな状況で思い出すのは前世の記憶、最後の風景、ウナギの看板

 不思議なことにデジャブと言うものはそれが起こる前から何かを感じ取る。

 別の事に意識が行く中自分の危機には関心を向けていない。


 ふと上を見れば振り下ろされるイカの足

 周りで防戦を繰り広げる冒険者

 数人が俺に叫ぶ


 ゆっくりと動くそれらは俺に今を感じさせるのには十分であった。


 また似たような過程を得て俺は終止符を打たれるのだろうか。

 思い返せば以前は小鹿の様に震える足を抑える事が出来なかった。

 だが今は前と比べなんだか体の調子がいい。

 いけいけ俺俺、きっと武芸の才能もあるって。

 チートだチート。


 覚悟をするのはまだ早いかもしれない。

 外傷は負うだろうがよけるくらいは可能ではなかろうか。


 思えば動き出す体。

 生物としての防衛反応なのか無意識に近い行動。

 手に持つ刀をきちんとした武器と認識しているのか力を籠める。


 異世界初戦のカブトムシと同じく刀をなぞる。

 切る事に抵抗を感じるものの自炊で培う切り込みよりはたやすい。


 振り切った刀身は汚れもなく光沢を見せる。

 俺を狙った足は白い断面を見せ離れる。

 後ろでは大きな音と水しぶきが飛ぶのを感じた。


 振り向けば海に沈む白い足。


 辺りは静寂に包まれる。


 それを打ち破るのは大きなイカ


 冷静になってゆく意識の中で立体マップをみるとイカの形がくっきりと映る。

 他の船は狙わずここを得物としているようだ。


 足を一本切り落とされた状態でも諦める様子はなく、全身を船に寄せ始めむしろより固執になっている。


 船に体を付けると小刻みに震えだし魔方陣のようなものが浮かび上がる。


「まずいぞ!結界を張れる奴は全力で展開しろ!」


 それを聞いた冒険者たちは魔法を扱える者の近くに集まる。

 しかし、コイツがでるまで統率のとれていた冒険者たちの動きは散り散りで各々での防衛に必死であった。


「クッソ!」


 受付の大男はその状況を見るやクラーケンの懐に滑り込む。

 とうのクラーケンはそれを気にも留めず体を揺らしている。


 魔法陣の線が光りだすとクラーケンの震えが速くなる。

 その振動が最高潮にいたると閃光が轟きと共に船を焦がす。


 雷系統の魔法だろうか、それは摂理に反し高所に向かうことなく的確に狙いを定めている。

 俺たちもリリィの作った結界の中に入り雷撃から逃れる。


 嵐のごとく降り注ぐ電撃の後、気が付くとクラーケンの姿は消えていた。


「た、助かったのか?」


 受付のおっさんがそれを見届けると声を出す。


「全員!街まで退却しろ!」


 懐から取り出した石を口元にあてるとその声は全ての船に行き渡る。

 危機を逃れた俺たちは岸まで戻るのであった。

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