無のエリスVR
「エリは…やっぱり小柄な娘にするの?」
「だって…葵みたいに小っちゃくてかわいい子大好きだから…。
そういう葵は普通サイズなのね…」
「わたし自身が小柄だから、せめてゲーム上では人並みになりたいもん…。
それに…この娘なら小さいエリを守れるから…」
「えへへ…現実では小っちゃくてかわいい葵が…ゲームでは私より大きくなって…私を守ってくれるのね…うれしい…」
宇都宮英理と上野葵は、買ったばかりのVRMMORPG「ユニヴァーサル・サルヴェーダ・オンライン」の初期設定を、同棲している2人の家で一緒にやっていた。
「ユニヴァーサル・サルヴェーダ・オンライン」は初期設定時やステータス確認、運営からのお知らせの確認など、ゲームの中で動き回る必要がない場合はVRゲーム機のタブレットのみで操作できるため、2人はお互いの画面を見せあいながら初期設定を進めている。
2人とも頭はよくて、"受験業界では国内最高峰に次ぐ格付けをされている大学"に通う女子大生だが、見た目は中学生と間違えられるほど小柄で、運動も"可もなく不可もなし"といった程度。
高校まで"クラスのマスコット"のような存在として男女を問わずかわいがられたが、恋愛対象にはならなかった。
だが、幼馴染でもある2人は、いつの間にかお互いを恋愛対象と認識していた。
大学の入学試験の結果を確認し、自宅から離れた大学に通うために住むところをどうしようかという話題になった時、英理からルームシェア…ではなく同棲の提案と、
「外では今まで通りの"仲の良い幼馴染"でいいけど…家の中では"恋人同士"になりたい」
という言葉をかけ、曖昧だった2人の関係はこの時から"恋人同士"になった。
英理のアバター・エリスは黒いふわふわのロングヘアと漆黒の瞳以外英理そっくりの美少女、葵のアバター・アズは青みがかった黒いセミロングヘアと赤い瞳の美女として創られた。
外見を決めると、次は初期パラメータの設定。
自分で信仰する神(=自分に付与される属性)と各能力へのポイント割り振りを決めるか、完全にランダムで設定されたものにするかを選べるが、前作「ファンタジック・ジェネラリス・オンライン」ではランダムにした際に低確率でレアな能力を持ったキャラを作れたため、その情報を得ていた2人はもちろんランダムにした。
英理は13回目、葵は17回目の"引き直し"でレアな能力持ちを引き当てたが、持っていた能力が気に入らなかったため、さらに引き直しを続け、英理は33回目、葵は49回目でようやくよさそうなレア能力持ちを引き当てた。
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「エリ…行ってきます…」
「行ってらっしゃい…葵」
エリスと"行ってらっしゃいのキス"を交わしてから、エリスに見送られてアズは"仕事"に出かけていった。
「ユニヴァーサル・サルヴェーダ・オンライン」は15歳以上のみプレイ可能なゲームだが、ゲーム内で性的な表現はかなり規制されている。
キスも愛情表現や"回復の手段"として前作から実装されてはいるものの、対象は唇を含む頭部、首筋、手のみ。
恋人同士が唇を重ねることはできても、その先はゲーム内ではできない。
それでも、アイテムや魔法で恋人のステータス異常を解除する際に、いくつかの条件を満たしていれば、使用時の動作を相手の唇へのキスにできる仕様も前作から引き継がれていて、多くのプレイヤーからの好評を得ている。
アズを見送ったエリスの左手には黒い鎖のような紋様が浮かび上がっている。
エリスは6属性(炎熱・水冷・疾風・大地・聖光・暗闇)に含まれない特殊な"無属性"の魔法を使える能力を持つが、その能力は紋様によって封印されており、封印が解除されて実際に使えるようになるまでは相当長い日数を要するとのこと。
さらに、封印によってエリスのすべてのパラメータが大幅に下がっており、戦闘能力は皆無といってもよかった。
それでも、アズのために、いつか来る封印解除の日を待ちながら、エリスは情報収集をはじめとした、戦闘能力がない自分でもできることをして"日数"を稼いでいた。
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「みんなわたしより強くなったから、そろそろ潮時かな…」
ある日のダンジョン探索終了後、アズはそう言ってグループからの離脱を告げた。
「アズさん、今までありがとう」
「アズさんがいなくなると寂しい…」
アズがこうして感謝と惜別の言葉をかけられるのは、「ユニヴァーサル・サルヴェーダ・オンライン」を始めて3回目。
6属性の魔法を最初から使えるだけでなく、初期能力値も高いアズだったが、その代わり戦闘によって経験値を得てもレベルは一切上がらず、パラメータアップアイテムの使用または武器・防具・アクセサリの装備でしか能力値を上げられない。
そのため、アズはレベルの低いプレイヤーを初期限定でサポートしてゲーム内での"資金"を稼ぐ"仕事"を始めた。
すべては、エリスが"解き放たれる"時のために。
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"サポートメンバーのご用命はこちら!"というメッセージを"SUPPLY"と書かれたボードに張り付けると、アズは"帰宅"の途に就く。
"自宅"に到着し、玄関の扉を開けると、
「葵…おかえり!」
待っていたエリスがぎゅっと抱きついてきた。
「ただいま、エリ」
エリスをやさしく抱き返し、それからふわふわの黒髪を撫でるアズは、グループからの離脱による寂しさが、エリスの愛らしい笑顔を見たことでだいぶ和らいだ気がした。
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エリスとアズが「ユニヴァーサル・サルヴェーダ・オンライン」を始めてから、ゲーム内で"77日目"になった。
いつものように2人がログインすると、エリスの左手が"昨日"までと違う。
黒い鎖の封印は、最初からなかったかのように消えていた。
「エリ…よかったね…」
「葵…ふぇ…ふぇぇ…」
エリスはアズの胸に顔を埋めてしばらくの間、うれし泣き。
その後は、いつも通りの愛らしい笑顔に戻っていた。
「封印が解除された途端、たくさんの"無属性魔法"が使えるようになったみたいで、全部把握するまでにかなりかかりそう。
だけど、最初に使う魔法はもう決めたの。
今まで1人で頑張ってくれた葵へ…私からのご褒美」
その言葉とともに、エリスは少し宙に浮いて、アズと唇を重ねる。
2人の唇が離れると、
「エリ…今のちゅー…すごい…」
アズの言う"すごい"は"キスがすごく気持ちよかった"の意味ではなく、エリスのキスでアズにかけられた"無属性魔法"により、アズの各種パラメータが数百倍に増加したため。
封印が解けたエリスのパラメータも、アズと同じくらいの値になっていた。
ここに、間違いなく"ゲームブレイカー"になり得るプレイヤー2人が誕生した。
「これで、やっと葵と一緒に出掛けられる…うれしい…」
「わたしも、これからゲームの中でもエリスとずっと一緒にいられるから…うれしいよ…」
まだアズとエリスに、その圧倒的な能力で何かしようという考えはないようだが、2人はその能力ゆえに、今後良くも悪くも注目されていくこととなる。
続くような文章で終わっていますが、本作は2021年4月1日公開の"エイプリルフール企画"の短編です。
続編の予定はありません。(ただし、2021年4月2日以降も運営からの何らかの働きかけがない限り、意図的に消すことはしません。)
一応、宇都宮英理/エリスと上野葵/アズ以外の、『無のエリス』本編の登場人物に似たキャラクタも用意していたのですが、それらを入れた文章を書いている時間がありませんでした。




