山盛りオープンサンド(1)
「――うん。やっぱり、作った方が、安い」
その日、月薫は思った。本当は、やっぱり、と言えるほど深く考えたわけじゃないけど。
彼女は大体、行き当たりばったりで物事を決める人だから。
でもその月薫が、やっぱり、と言えるくらいには深く考えた結果が。
「うん。やっぱり、ごはんを作ろう」
だった。
☆
月薫は、旅が好きだ。一年に一度、遠い星へ、一週間の旅に出る。
たった一週間なのだから、本当は旅ではなく、旅行という言葉の方が似合うのかもしれないけど。
旅に出る。そのフレーズが、月薫は好きだ。
行きたい星は一杯あって、もう一度行きたい星もある。
そして、旅をするにはお金がいる。また一年後の旅に向けて、月薫は節約しなきゃいけない。
でも、新色のコスメや、新しいバッグをあきらめるのは無理だ。
だから。
悩んでいたけれど。
マルチタブレット。必要な栄養素も水分も、これ一錠を飲めば完璧に取れる。
その最後を飲み干した時に、決めた。
もうタブレットは買わない。
だって、作った方が安いから。
「ごはん、作ろう。まずは、買い物――だな」
そりゃあね。タブレットは便利。
料理にかける手間が全部はぶけるって、とっても自由。
月薫は一人暮らしだけど、料理を作ろうと思ったら、一人でもそれなりに手間がかかる。
――買い物をして、献立決めて、作って、食べて、片付けて。
『料理をしないって、天国』と、タブレットを噛みながら呟いていた。
それでも。
「とりあえず・・・スーパーに行こうかな」
旅に行く以上の天国なんて、月薫には、ない。