第四話 ”研究者”メルダ・ウッドエール
{ゴブリンソルジャー}との戦闘後、僕はバックパックの中にあった残り一本のHPポーションと治療系魔法科初級回復類【ヒーリング】を使用し回復した。すると、切り傷などの軽傷部は回復し全身の痛みが引いていった。その後、一刻の休憩を持って行動する。まず回転式拳銃と折れたロングソードを回収した。
その後、火属性精霊サラマンダーを召喚した事により魔力の枯渇が起き為に意識を失っているルーシーを背負う為にバックパックを前で担ぎ彼女を背負いそのまま森の脱出を敢行した。
見える傷は回復しても昨日からの疲労は体の芯に残っている為、森を脱出出来る間敵が現れない事を祈りつつ行動した。
幸いにも道中特に障害もなく森を脱する事は出来た。が、その時には意識は朦朧で気力も尽きていた為、協会にルーシーの報告は出来ない為、後にし急ぎで自分が住む自宅に向かう。この頃には根性で足を進めていた。
夕方頃に自宅に到着すると家に入り、まず客間にルーシーを寝かせた。そこで連日の疲労がドッとやってきた為、二階にある自室に向かい服を着替えること無くベッドに倒れ込むと一瞬にして眠りに落ちた。
個々までが戦闘後の流れだ。
* * *
僕は目を覚ました。どれくらいが経ったのだろうか。
太陽は昇っている為、恐らくあれから半日は寝ていたのだろう。案外、あれだけの大怪我を負っておきながら半日で回復してしまうとは、まだ僕も若いんだなと思う。まあ、HPポーションと【ヒーリング】が回復の手助けしてくれたのだろうが。
僕はベッドから身を起こし軽く背伸びをする。若干の痛みがある為、まだ完全な回復が出来ている訳では内容で腹部辺りにその感覚があった。その後、しわくちゃの衣服を脱ぎ綺麗な服と下着をクローゼットから出すと風呂場に向かった。
連日の汚れを風呂場で髪と体を綺麗にすると新しい服に着替える。そして、身嗜みを整える。そのまま、一階にあるリビングに向かった。
リビングに通ずるドアを開くとコーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。そして、そこには先客がいた。
その人物は女性だった。名をメルダ・ウッドエールという。この家で居候の者だ。容姿は端麗で体躯はスレンダーだ。普段から彼女はカッターシャツに黒のタイトスカートを着用している。そして、その服装で特徴的なのは白衣を着ているところだろう。
メルダいわく、‘研究者は白衣がないと閉まらないだろう’という考えからその服装を好んでいるらしい。彼女は対異形研究者といっているが武器などの制作もしており、僕が使用している回転式拳銃を制作したのも彼女だ。
対異形研究者とは、魔物や怪物、精霊や妖精などの人外の存在の生体や弱点を探り、人間に害をなす存在の対抗策を見出す者たちの事をさす。これらの人々は地味で陰湿な人間達と揶揄されるが、実際、この人達の研究もあってか今の人間が広くこの大陸で繁栄しているといっても良いかもしれない。
リビングには太陽の光が差し込みメルダのクリーム色の髪がきらめく。新聞を右手に携え、左手でコーヒーを入れたマグカップを口にしている彼女はユーリーに気付くと、ややニヤリながら彼に口を開いた。
「やあ、ユーリー。 三日ぶりだが元気してたかね?」
「なに・・・? 僕は三日もぶっ倒れていたのか!?」
「ああ、帰宅したかと思ったら。お連れさんを客間に通してこそこそと自分の部屋に引き籠もったじゃないか」
僕はキッチンに向かうと、メルダが飲んでいるコーヒーが入っているポットからマグカップにそれを注ぎ込むと、彼女がいるテーブルの対面に当たる場所に座った。すると、彼女は右手に携えていた新聞をテーブルに置き青い瞳が自分に注がれる。
「それで、お連れさんは何者だい? 新しい彼女? 一晩過ごしてお持ち帰りってか・・・・・・。だったら些か幼女趣味が過ぎないかい?」
メルダは悪戯ぽい口調で詰る所に若干イラっとくる所があったので睨み返す。すると、彼女は両手をヒラヒラさせると、冗談めいた仕草をする。
「おっと。そんな怖い顔するなよ。イケメンが台無しだぞ?」
「はぁ・・・・・・。・・・・・・違うよ。 彼女は今回の捜索任務で救出した生存者だ」
「ほぉ~。 あんな少女一人で一週間近くも生存できたとはね。これは驚きだ」
僕はルーシーが捜索で発見した生存者である事を伝えると今回も又、ふざけたような口調で応答した。何故こうメルダという女性は人を小馬鹿にするような言動ばかりするのかね。全く。
「まあ、彼女・・・・・・?」
「ああ。ルーシー・エルデバランだ」
「そう、ルーシーちゃんを軽く調べたが、彼女凄いね。召喚術士何だろ?」
メルダは僕が睡眠中にルーシーを診察したようだが、まさかそれだけで彼女の持つ能力を言い当てるとは。自分も彼女が能力を発現するまで、召喚術士だなんて分からなかったのにな。自分は軽く驚いていると彼女はまた不適な笑みを浮かべる。
「フッ。まあ、君が驚くもの仕方ないだろ。その証とする紋章は彼女の胸元辺りにあるのだからね」
「そうだったのか」
「まあ、君がそれを知っていたら彼女の服を脱がせた事になるからね。全く、君が変態さんでなくてよかったよ」
さすがに、眉間に皺が寄っている事が分かった。つくづくメルダは僕を侮辱した様な発言しか出来ないのか。彼女の言動に慣れた僕じゃなきゃ今頃ぶっ殺してますよ。
「それで、これからどうするんだい?」
「何が?」
「彼女の事だよ。今回の依頼の救助者何だろ?」
同居人であるメルダには任務の内容を毎回伝えている。そこから、どの程度家を空けるのかと捜索場所も伝えている。
メルダはコーヒーを一口飲むと続けた。
「まあ、普通なら協会に身柄を引き取ってもらうのが無難何だろうが、恐らく今回は止めた方が良いかもな」
「何故に?」
「君が今回捜索した場所。旧道だろ」
メルダは一呼吸おく、僕は彼女の意見を黙って聞いた。
「魔物の生息版図に侵食された旧道を通ると言うことは、詰まるところ何かよからぬ事があってその場所を通行したと言うことだろ? まあ、そのせいで魔物に襲われたのだから自業自得なんだが」
「それで、何故ルーシーを協会に差し出したら駄目なんだ?」
「つまり、その一行がそんな危険な場所を通らなければならない位にヤバい物を積んでいたからだろ? そして、それが彼女だと思う」
恐らくだがメルダは希少価値の高い召喚術士を救出した事からそう考えたのだろう。
しかし、希少価値が高い召喚術士とはいえ、自分がルーシー以外に知っている人物がいないかと言うとそうでもない。隣れば、彼女にそれだけ重要な何かがあったと言うことだが、今の所は心当たりはない。
また、もしそれだけ重要ならその訳ありの連中が自ら捜索するだろうし、それすら無かった問うことはそこまで、ルーシーが重要だったとは思えない。
「いや、一応報告はする。が、念のため誰が救出出来たかは濁しておく事にする」
「・・・・・・ふーん。まあ、いい。それが君の見解ならそれでもいいさ」
「それと、暫くは彼女を家で預かる事にする。もしもの保険だよ。自分が確認できる範囲にいてほしいから」
自分の検討を耳にしたメルダは若干驚いた面持ちをする。僕はそんな彼女に聞いた。
「う? どうした。そんな顔して」
「いや。普段、救出活動後の対応が淡泊な君らしくないと思ってね」
「まあ、メルダの話を聞いて少々警戒する事にしただけさ。それと・・・・・・」
僕が次に続けようとすると、メルダはコーヒーを一口、口内に含んで再び僕に目線を移した。そして、次の様に自分が抱く感情を口にするのだった。
「・・・・・・いやね。・・・何というか。ルーシーを見ると身内のそれに似ているなと思って・・・・・・」
「つまり?」
「よく分からないし。これであっているか分からないけど。・・・・・・一言で言うと“親近感”てきな?」
メルダは僕の思考を伝えると彼女の視線がまるで危ない人を見るような目付きとなった。
「君・・・・・・。やっぱり幼女趣味でもあるんですか?」
「だ・か・ら。・・・・・・ねぇよ!」
「まあ、君の趣味が何であれ。私まで巻き込まないでくれると助かるよ」
最後の最後まで僕をロリコン扱いする彼女に一瞥恨めかしい視線を送った。すると、彼女は『オーコワイコワイ』見たいな面持ちで軽く悪戯っぽい仕草をして席をたった。
そんなメルダに僕はこれからの彼女の動向を聞いてみた。
「なあ、この後何かするのか?」
「この後? まあ、ルーシーちゃんの様子を確認して自分の研究に戻ろうと思うが・・・・・・。まさか、私にデートのお誘いでもするのかい?」
「いや別に。ただ、ルーシーの診察をして欲しいと思った所で。やってくれるなら僕も様子見がてらついて行こうかなと思ったぐらいだよ」
僕は自分の意思をメルダに伝える。すると、デート云々の事を割とどうでもよかったので淡泊に答えすぎた為か彼女の表情は若干曇る。すると、ボソボソ呟く。
「・・・・・・いやそこまで、キッパリ断られると自分の魅力に自信を無くすよ」
因みに今の一言割をよく聞こえていた。まあ、余計な事を言うとかえってややこしくなるので、これ以上何も言うまいが・・・・・・。
そして、僕とメルダはマグカップをキッチンで片付けると、ルーシーを診察しに寝かせている客間に向かうのだった。
夏月 コウです。
「召喚術士の銀髪少女と変り者冒険者による世界救済物語」第四話。楽しんでいただけましたか?
メルダ・ウッドエール。謎多き女性。まあ、まだ登場して間もないので、皆様はさっぱりだと思われます。が、彼女。すっっっごく重要人物です。それはもう世界の根か―――げふんげふん。失礼、ネタバレですね。止めておきましょう。というか、ユーリーの周りには普通の女性はいないのですかね・・・・・・? まあ、主人公とはそういった人々なのですがね。
さて、今回はこのへんで。バイバイ。