第一話 出会いは突然に
青年はソロで活動する冒険者だ。彼の名はユーリー・アドバンスという。身長は平均程で、その茶色の髪は少し堅いのか癖っ毛がある。
「村に向かう整備された道は既に捜索済み。となると、この旧道しかないのだが………」
彼は現在、鬱蒼とした森を通過していた。紫色の瞳が森の中を見渡す。
普段、人がこのような場所を通る事はない。過去、この道は使用されていたが、怪物や魔物の生息版図が広がり侵食され、現在は使う者がいないからだ。
では、なぜユーリーはそのような場所に存在するのかというと、それは彼が冒険者協会からの依頼を受けており、その内容が救助・捜索活動だからだ。
協会によると、帝都エトレアから出発しベーカーバンズ町に到着するはづの三台の幌馬車が現在も到達してないという。
因みに、エトレアからベーカーバンズまでの距離は夜営しても二日間で着く距離だ。しかしながら、その一行は四日経ってもベーカーバンズ町には到達しなかった。
そこで、国が主導で二部隊の衛兵部隊による捜索が行われた様だが発見に至らず。三日間行われた捜索だが、これ以上の衛兵部隊の人員を裂く事が出来ないという事から協会に委託され今日に至る。
人命が掛かっている依頼だが、この依頼はあまり人気がない。何故なら依頼報酬が低額だからだ。これは約三日捜索した後であり、発見されない場合や発見したが死亡している確率が高く無駄だと判断されやすいからだ。
それに、この世界には魔物や怪物がいる。また、軍人や傭兵が身を持ち崩して山賊や窃盗団などの成り下がり者がいるためでもある。それらの事から襲われ、奪われ、殺される事など、この世の中では珍しくないのだ。
そのため、このような依頼は貧弱冒険者や貧乏冒険者などが受ける事が多い。
また、このような者達しか依頼を受けない理由は他にもある。実は参加しただけで報酬が貰えるからだ。その額は成功報酬(低額の成功報酬)から三分の一程度が支給される。
だからこそ捜索の条件を満たせば一日の超低価格宿の宿代にはなる。初期の貧弱冒険者や落ちぶれた貧乏冒険者は食い扶持ほしさによくやるものだ。
であるからにして、そんな者達が真面目にやるわけもなくお粗末な仕事しかしないため、更に救助者の生存確率を下げている原因でもある。
しかし、少ないが救助専門の冒険者も存在する。ユーリーはその救助専門の冒険者にあたる。だが、そんな尊い仕事をしているにも関わらず多くの一般冒険者からは【人からよく見られたいだけの偽善者】と揶揄されがちで、常に冷たい目で見られる。まあ、多少自己満足もあるだろうが………。
今日は朝から捜索に入ったが、今は既に少しずつ日が傾き始めていた。そもそも、そこまで日の差し込まない森の中が段々と深淵に飲まれていく。
このまま、森に留まるのは危険だ。魔物や怪物は昼間より夜に活動する個体が多いからだ。そして、ここはその者たちの生息範囲。十分過ぎる程の準備をしていないと、夜になった途端、跡形もなく貪りつかされかねない。
「このまま進むのは自殺行為。さて、どうしたものかな…………」
しかし、それは幌馬車の人々も同じ。既に一週間以上もその状態を体験している訳だが、もし今も生存していても今日を乗り越えられるかはわかったもんじゃない。
そう思うと、なぜか一度戻ろうとは思わない。自分の発見で救える命があるのならば。
それに、別に一夜ぐらいなら乗り切れる程度の装備はある。
装備内容は、武装にメインウェポンがロングソードで左腰に添えられている。それとサブウェポンとして左上腕部に短剣を装備している。また、今はまだ珍しいカートリッジベルト式の六連装の回転式拳銃が右腰にホルスターに仕舞われている。また、ベルトに十二発装備出来るカートリッジベルトを装着していた。
防具は左腕に小型のヒーターシールドとレザーアーマーを着用し機動性を重視した内容になっている。それとバックパックを担いでいる。
バックパックには救護セット一式と非常食が二日分、二リットルの携帯型水筒が一本入っている。そして、極めつけにHPポーションとMPポーションが二本ずつ入ってる。それと、少ないが路銀を持ち合わせており、それらが綺麗に整頓されて収納されていた。
旧道を捜索しているとまだ目新しい馬車の車輪の跡を発見した。先程までは、そのような痕跡はなかった。おそらくだが、今までは怪物や魔物がその痕跡を消していたのだろう。
それは知能がある相手がこの森にはいるという証拠だろう。魔物や怪物の中には知能がある個体がいる。おそらく、今回の可能性としてはゴブリンだろう。
ゴブリンは最もポピュラーな魔物だ。一般的にこれらの者は醜悪で醜い容姿をしている妖精だ。いたずら好きで、非人道的。また、主に集団で行動し、その統率力は軍隊よりは低いが束になると厄介な相手だ。そして、その群れの中には一匹のリーダーとなる個体が存在しそれが群れの統率を図っている。
ゴブリンは狙った獲物を諦める事はない。その執念深差は折り紙付きだ。そして先にもいった、痕跡を消したのは人間の捜索を妨害し確実に獲物を捕獲する為だ。
しかし、これは裏を返せばその先に捜索している者が存在しているという意味にもなる。
ユーリーは歩行のスピードを上げた。すると、木々の隙間から白いテントのような物を発見した。恐らくそれは幌馬車の幌だろう。しかし、その幌は血まみれだった。更に近づいて分かった事だが、所々鋭利な物で引き裂かれた様な跡も見受けられた。それは、最も左側に多かった。
接近して分った事だが、確認できる幌馬車の周辺には小さな足跡が無数にあった。形状から判断するにゴブリンのもので間違いなさそうだ。
後方一車目の幌馬車に接近しその内部を確認する。木材で出来た床板に残る、血溜まりや血飛沫の跡からその出来事の凄惨性が判断できた。
だが、この凄惨な現場を確認してその幌馬車に違和感を覚える。それは、血溜まりや血飛沫の跡が有るのは分ったが、その血を流した人物の存在が居ないからだ。
それから推察するに、これはゴブリンがその人物達を連れ去ったに他ならない。
実はゴブリン、人間と同じで雑食である。肉や魚も食えば野菜類なども食する。つまりこの場合は、ここに居ない人間達は殺害されたか身動きが出来なくさせられて食用の為に連れ去られた可能性が高い。
一台目の幌馬車と二台目の幌馬車の間隔は近かった。それから判断するにこの幌馬車群は前方から襲撃されたのだろう。三台目は二台目から若干離れていたが似た感じだ。更にいうと、幌馬車を引く馬たちの姿もない。しかし、地面を確認するとそこには森中に向かって何かが引きずられた痕跡があり、ゴブリンは馬を殺し数匹で持ち帰ったのだろう。道理で幌馬車群に接近していて馬の鳴き声一つ聞こえなかった訳だ。
二台目の内部の確認をするが、一台目と大差なく人間や物資は跡形もなく持ち出されていた。
最後に、犠牲になった三台目の幌馬車に目線を向けた。しかし、その幌馬車を目視確認したところそれに違和感を覚える。それは、他の二台と比べると明らかに傷の出来具合が違ったからだ。
その幌馬車の幌には他の二台と違い、左側に偏っていた破れが全体的に見られたからだ。つまり、これは一台目の幌馬車を念入りに攻撃した証だ。しかし、なぜそこまで偏りが出たのかは判断がつかない。
憶測だが、前方からの襲撃を敢行したゴブリンは後方の幌馬車を逃走させない為に容赦なく攻撃したのだろう。
だが、それでも不明な所はあった。それは、その幌の傷の割にぱっと見だが他の幌馬車より血飛沫の跡が少ない様に思えることだ。それに、その傷の形状から見て鎌鼬が過ぎ去った跡の様な剣や槍などより、もっと鋭利なモノで切りつけられた痕跡にも類似している事も気になる。
そして、何よりも他の幌馬車の周りには無かったゴブリンの死体もあった。その死体は五体がバラバラに切り裂かれていた。その数、十数匹。
僕はその最後の幌馬車に足を進めた。すると―――。
左側の茂みから自分の前方を二本の矢が過ぎ去っていく。僕は空かさず後方に飛び退くと、また次に二本の矢が元いた地点を通過する。もしも、それを避けていなければ今頃自分の左腹に直撃していたと思う。そう考えるとゾッとする。
二度の矢による攻撃後、間髪を入れずに茂みから二匹のゴブリンが飛び出してくる。ゴブリンたちの手には剣が握られていた。ゴブリンから振り下ろされる剣に、僕はロングソードを抜き剣身で受け止めた。
『ギャア―――』
不意を突いたと思っていたゴブリンたちの表情が余裕そうなものから驚いたものに変わる。ゴブリンからしたら意表を突いたのだろうが、経験上何となく察しがついた。
ゴブリンとユーリーとに間合いが出来た。その隙に彼は戦闘態勢を取る。ゴブリンの数は前方の剣使いの二匹と後方に居る弓使いの二匹だけを確認した。すると、更に二匹の剣をもったゴブリンが出現する。つまり、訂正して剣使いのゴブリンは四体だった。その他は今のところ確認できない。
『ダ、ゴ。ギ、ギギ』
リーダー格だろうか、目元に切り傷があるゴブリンが命令を出すと剣使いのゴブリン四体が左右に二匹ずつ散開し、態勢を取る。
刹那の余韻を経てゴブリンが仕掛けてきた。まず、右側にいた一匹のゴブリンが突撃してくる。因みにこのゴブリンが先ほどの命令していたゴブリンだ。
僕のロングソードとゴブリンの剣が交わる。しかし、ゴブリンはそれで追撃するでも無く後方に退避した。空かさず今度は左側の一匹が正面に飛び込んでくる。それを僕はロングソードで弾く。
今度は二匹同時に仕掛けてくる。先の攻撃で後方の確認が出来なかった為に、不意を突かれる事となった。何とか一匹の攻撃はロングソードで流すことが出来たが、もう一匹の攻撃が右足を切りつけた。
「ウッ・・・・・・!」
太股に激痛が走る。僕が痛みに表情を歪ませていると、一匹のゴブリンが更に後方から肉薄。無論、その攻撃を防ぐ事が出来ず左脇腹に剣が突き刺さる。
『ギギ―――!』
ゴブリンは喜びの声を上げる。勝利を確信したのか更なる追撃は無かった。僕は右手に握っていたロングソードを離してしまう。刺された脇腹に手を当てそして、膝から崩れ落ちた。
『ダ! ギィーギィー』
リーダー格のゴブリンが何か命令をしている。恐らく【トドメを差せ】とでも言っているのだろう。が、そう易々死んでやるつもりも無い。
命令により一匹のゴブリンが接近してくる足音がする。僕はホルスターに収めてある回転式拳銃に手を伸ばした。
丁度、ゴブリンが右の首元近くに立つのを横目で確認する。そして、ゴブリンが剣身を逆さにし首元に剣先を当ててくる。冷や汗が額から地面に流れた。これからする事はタイミングを逃せば死に繋がる。
剣先が首元から離れる。実際剣がどの位置にあるかは直感に任せるしか無い。そして、ゴブリンの剣が下ろされる。
感覚的だが‘ここ‘と思った時、体を左に回転させホルスターから回転式拳銃を引き抜きゴブリンの頭部に弾丸を撃ち込んだ。ゴブリンの剣は左首筋に触れる。若干切れたのか首筋に痛みが生じるが、痛がる暇も無く次の攻撃に移る。
腰を起こし三匹のゴブリンに回転式拳銃を構えた。まずは、咄嗟に捉えた一匹の頭部と喉に一発ずつお見舞いする。次に、リーダー格のゴブリンに照準する。そして、二回引き金を引く。が、そのゴブリンは仲間のゴブリンを盾にして回避する。
盾にされたゴブリンは絶命する。が、卑劣にも仲間を盾にしたゴブリンは仲間の亡骸を盾にしつつ森の方へ駆け出す。回転式拳銃のシリンダーには残り一発弾薬が入っていたのでそれで追撃して撃つが、そいつはすばっしこく、狙いが外れ付近の木に着弾する。
回転式拳銃のシリンダーをスライドアウトさせ空薬莢をエジェクターロードを押し排出すると、次弾を装填する。六連装の薬室に十秒程度で再装填を完了させると、シリンダーを元の位置に戻し撃鉄を起こさずに射撃する。
再三、二発射撃する。一発は逸れてしまう。が、もう一発は左足に命中する。ゴブリンは悲痛の声を漏らした。
『ヒギィ―――』
打損じた為、もう一度照準を調整して撃とうと試みるも弓使いのゴブリンの牽制攻撃が繰り出される。咄嗟に僕に命中する軸線に乗った矢だけを撃ち落とした。そして、弓使いの二匹の脳天に一発ずつ食らわして沈黙させた。
しかし、その攻撃を仕掛けている間にリーダー格のゴブリンは逃走に成功していたみたいで、既にその場を後にしていた。
「・・・・・・ふぅ―――」
状況が終了し、ほっと一息つく。その後、担いでいたバックパックを下ろし中から救急セットを出した。そこから包帯とガーゼ、消毒液を掴むと応急処置を開始した。消毒液を切り口に塗る。傷が傷だけに消毒液がください染みる。
「クッ・・・・・・!」
一瞬、低音で呻くが、すぐさま傷口をガーゼで塞ぐ。その上から包帯を巻き固定する。更に治癒促進剤のHPポーションを呷る。数々の捜索活動で培った経験と知識で慣れたものだ。そして、救急セットをバックパックに片付け担いだ。また、ロングソードも回収し鞘に収めた。回転式拳銃には未使用の弾丸一発を残し再装填する。
まだ痛む左脇腹を左手で押さえながら、再度最後の幌馬車に接近した。念のため回転式拳銃はホルスターに戻さず右手に保持したままだ。
ゴブリンとの戦闘で大分夜闇が舞い降り、幌馬車を覗くも暗くてよく確認できない。そこで、探索系魔法の一つで光属性の《ライト》という魔法を唱える。これは、文字通り範囲型投光魔法である。
【我の周囲を照らせ。《ライト》】
光の球体が僕の右頬位の位置で光り出すと幌馬車内部が照らし出される。
その内部は生活感があった。というと、床には開いた缶詰が周囲に転がっており、尚且つ物資が持ち出された様な後は無かった。木箱の中には未使用の缶詰や干し肉等が少しだけ見受けられた。その他には何かを覆っている様な布きれがあるだけだ。
だが、しかしながら生活をしていたで有ろう人物は存在しない。やはり、ゴブリンに連れ去られのか。と、感じた時だった。
布きれが若干動く。最初は自分が動いた事によって布きれの下にある物が崩れたのかもしれないと思った。
だが、僕はその方に回転式拳銃を向け警戒しながらその方向に近接する。もしかしたら、先程のゴブリンの罠の可能性もあるからだ。布をどけた瞬間に喉を狙って斬り掛かってくるかもしれない。
生唾を飲む。僕は回転式拳銃を構え直し、一刻置き左脇腹を押さえていた手が布きれを掴む。その布きれはほのかな温もりがあった。やはりゴブリンが潜んでいるのか? それとも、生存者か。どちらにせよ確認しなければ始まらない。
僕はその布きれを剥がし少し後方に退却した。
そして、そこには膝を折り蹲る少女がいた。
少女の体躯は華奢でこの体を深紫と白を基調とした所謂ゴスロリ服をまとっていた。髪はとても長く、髪色は綺麗な銀髪でツインテールにしている。可憐な容姿をしている為、ぱっと見精巧に出来た等身大の人形だと思ったが、胸部の呼吸した際の運動が見受けられた為人間である事は明確だ。
少女はスゥスゥーと吐息をしながら寝ている。その光景を見て僕は一先ず胸をなで下ろしたのだった。
夏月 コウ。最新作、「召喚術士の銀髪少女と変り者冒険者による世界救済物語」。
皆様方、お久しぶり又は初めまして。夏月 コウです。他に未完の小説があるなかスランプ脱却をかねて書いた作品です。
他の作品が全く手に付かない中、また新しい物語を書いてる自分であります。が、別に他の作品をほったらかしにしているわけではありません。まあ、現状中々上手くいっていないのも事実ではあるのですが、このままなあなあなのも嫌なのでこちらの作品を書いて他の作品の制作意欲を沸かせる為に本作を著作させていただきました。
まあ、自分の今の現状はこのくらいで。
「召喚術士の銀髪少女と変り者冒険者による世界救済物語」。皆様方は楽しめていただけましたか? 今作は他の作品ではない‘異世界モノ’として著作させていただきました。まあ、自分としてはこの物語が‘異世界モノ’なのかよく分かってないですが。内容的には‘それ’なのでそうさせていただきます。
個人的には刷新された物だと思っております。キャラクターや時代背景など今までの物が‘近未来系’なのに対して、本作は‘異世界モノ’。自分的には余り書き慣れていなく試行錯誤が必要だと思っております。ですので、不慣れな事もあり尚且つ久々の制作なので至らない点もあるかとお思いですが、頑張っていきたいと思っています。
長くなりましたが、今回はこのへんでさよならさせてもらいます。
では、近いうちにまたどこかで。夏月 コウでした。バイバイ。