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W・B・Arriance  作者: 栗ムコロッケ
プロローグ
7/72

 5.X.閑話

6月に本家サイトでupした第5話と第6話の中間部分の補足小話4話分。

5.1話 the way back … 5話で、ユディウス先生とマリア先生がトランプから帰ってくる途中の話

5.2話 a girl's talk … 5話で、ユディウス先生たちとトウジロウの一悶着があった後の受付の話

5.3話 the "left a thing" … 6話から登場する新キャラ、クラブのエースの人物補足的な話

5.4話 the man, his name is …  … 6話から登場する新キャラ、スペードのキングの人物補足的な話


W・B・アライランスのライバルたちが続々登場。

どいつもこいつも曲者揃い。はたしてフィードとエオルは無事に追手を切り抜けることができるのか…。


――― 5.1 the way back (閑話) ――――――――――――――――――――





 トランプ本部からの帰路。突然、マリアはいいことを思いついたと手をたたいた。

 

 マリア「ねえ、ユディ。ちょっとおみやげでも買っていかない?」


 マリアの隣を歩くユディウスは名案だねと微笑んだ。


 ユディウス「そうだね。会長と、ガルフと、やっくん(ヤクトミ)とゼミ生たちでいいかな?」


 そうして、2人は城壁のように屈強な壁で囲われたグラブ・ダブ・ドリッブ魔導師協会管轄地区の入口にある部外者向けの売店へと足を伸ばした。





 売店は部外者向けということもあり、陳列棚には観光地を意識した様々な商品が並んでいる。


 マリア「あははははは! ちょっと、ユディ! 見てよコレ!」


 マリアは目の前の棚を指差した。


 ユディウス「あ! タペストリーとちょうちん、最新バージョンになってるね」


 マリア「会長にはこれでいっかー」


 ユディウス「マリアのおかけで会長、今のところすべてのバージョンをコンプリートしているね……たまには違うのにしてあげたら?」


 ※2人はことあるごとに周囲に土産を買っていく。


 マリア「もはや恒例行事よね」


 ユディウス「……わざとなんだ……」






 マリア「あ! ちょっと! ユディ! 見て見て!」


 ユディウス「あ、協会認定饅頭。残り2箱だ。売れているんだね」


 マリア「あいつら(ゼミ生)にはこれでいっかー。あなたのとこも一緒でいいでしょ?」


 ユディウス「うん。ところで、この店の菓子、これで4周目だよ?」


 マリア「種類が多いから、忘れた頃にまたやってくるのよ。ちょうどいいわ」


 ユディウス「……いい加減飽きてくると思うよ……」


 マリア「タペストリとかちょうちんにばっかかまけてないで、こっち(菓子)を充実させなさいよって感じ!」


 ユディウス「ハハ」


 マリア「さて、最後はガルフとやっくん(ヤクトミ)にね。何がいいかしら?」


 ユディウス「マリア! あっちに新製品コーナーができているよ」


 マリア「本当だ! 行ってみましょ!」





 協会認定新製品「ペットフードシリーズ」誕生!


 マリア「……」


 ユディウス「……」


 マリア「お菓子じゃなく、新分野に乗り出したか」


 ユディウス「まぁ、協会の外(世間)では空前のペットブームらしいですし」


 マリアは棚からドッグフードを取り上げた。


 マリア「ねえ……ガルフとやっくんのみやげ……」


 ユディウス「また怒られますよ」


 マリア「いいわね。じゃあネタってことで」


 嬉々としてドッグフードを買い物かごにつめるマリアの様子に、ユディウスはようやくあることに気が付いた。


 ユディウス「……(いつもガルフィンとのケンカで)反応楽しんでるのか……」







 マリア「あー! 買った買った!」


 ユディウス「ガルフとやっくん、早く帰ってくるといいね」


 マリアは苦笑した。


 マリア「素直にはそう思えないくせに」


 ガルフィンとヤクトミが帰ってくる、それはW・B・アライランスの件が決着することを意味する。ユディウスは困ったように笑った。


 ユディウス「そんなことはないよ。"スペリアル・マスターとして"ね」


 マリア「はいはい」


 涼やかな秋の風と、やわらかな陽光。まるで、何事もなかった日常のような。







――― 5.2 a girl's talk (閑話) ――――――――――――――――――――







 これはとある受付嬢たちの雑談である――


 パンゲア大陸 ヴァルハラ帝国東部 グラブ・ダブ・ドリッブ 魔導師協会管轄地区 対魔導師犯罪警察組織「トランプ」本部 受付――


 A子「あー、怖かった……だから嫌いなのよ、スペードのエースって」


 B美「だねー……リシュリューさんもよくあんな人と渡り合っていけるよね……あ! もしかしてああ見えて女は殴らない主義、とかだったり?」


 C恵「なわけないでしょー? 昨日もアヴァロン(ヴァルハラ帝国首都)の娼婦から"殴られた"ってクレーム入ったし」


 A子「今月だけで3件目だよ、風俗関係からのクレーム」


 B美「風俗って……つか、自分の立場わきまえてよって感じ」


 C恵「おまけにさ」






 C恵「今のスペードの将軍キングが来るまで、あの人が将軍キングだったじゃない?」


 A子「あー……あまりに厳しすぎて隊員激減したってんで、協会とか総統ジョーカーから将軍キング下ろされたんでしょ~? 今のスペードの将軍キングとも確執あるらしいし」


 B美「え!? "あの"スペードの将軍キングと!? それ……よっぽど性格悪いねー。スペードのキングかわいそー」


 C恵「つーか、そんな2人の間でやりくりしてるリシュリューさんが一番かわいそーだよ」


 A子「それから、ハートの将軍キングともめっちゃ仲悪いじゃん!?」






 B美「カグヤお姉様!」


 C恵「何その呼び方!」


 B美「あ……つい……」


 C恵「うらやましい!」


 A子「あの方見てたらホント、男なんていらないって思えちゃうよねー!」


 B美「もぅ……超カッコイイ……!」


 C恵「ほら、治癒魔法学科って、ほとんど女ばっかでしょー? そりゃもう王子様的な存在だったらしいよー?」


 B美「うらやましい! 私もその世代に居たかったわ……」


 A子「ホント、どっかのスペードの副将軍エースとは大違いよねー!」


 「失礼?」



 低めの女性の声――その主を見、3人の受付嬢だちは飛び上った。






 漆黒の聡明な瞳に、同じく漆黒の腰までで切りそろえられた絡まることを知らない美しいストレートヘア、通った鼻筋に卵のようにつるんとした玉の肌の美女――


 三人の受付嬢は声をそろえた。

 

 ABC「ハハハハハートの将軍キング! おはようございます!」


 ハートのキングはニコリと口の端をあげた。

 

 ハートのキング「おはよう」


 A子「ごようでいらっしゃいますか?」


 ハートのキングはあたりを見回し、再び受付嬢たちに視線を戻した。

 

 ハートのキング「ああ。マスター・ユディウスとマスター・マリアがいらっしゃったと聞いた。今対応できるのは私くらいかと思ったのだが……」


 C恵「あ……もちろんそのつもりでご連絡差し上げようとしていたのですが……」


 B美「あとからスペードの副将軍エースがいらして、そのまま応対を……」


 一瞬、誰にもわからない程度だが、ハートの将軍キングの眉がピクリと動いた。


 ハート「そうか、ならいい。ありがとう」


 そうしてカツカツと去りゆく凛とした背中――


 C恵「身が引き締まるわ……」

 A子「ご足労かけちゃったわね」

 B美「お目にかかれてラッキーだったけど」






 カツカツと、その足音はよどみなくハートのキングの執務室に向いていた。


 しかし、足取りとは裏腹に、ハートの将軍キングの頭は全く別のことに向いていた。


 ――「スペードの副将軍エース」――


 所属している軍は違えど、同じ本部内で働いているはずだが、実に久し振りに聞いたそのフレーズ。


 ここしばらく平凡で煩雑なデスクワークに追われていたその漆黒の眼は、激しい憎しみと、こみ上げる嫌悪感に満ちた、狩人の目へと変わっていた――











――― 5.3 the "left a thing" (閑話) ――――――――――――――――――――







 対魔導師犯罪警察組織「トランプ」 諜報軍「クラブ」の副将軍エース執務室


 将軍キング不在により、溜まりに溜まった雑務の山。


 5日前から不夜城と化し、"山"を消しては積まれ、消しては積まれ。仮眠を取ってはまたデスクに向かう日々。


 煉瓦色の肩までの髪に緑の瞳、そばかすやニキビだらけの肌、活発そうな明るい印象の女性――クラブの副将軍エース リケ・ピスドローは放浪癖のある自分の上司と、自分の分、2倍の仕事にただただひたすら追われていた。


 リケ「ハァ……」


 深く、短いため息をつき、眠気覚ましのコーヒーをすする。


 明日、明後日は休日だったが、この分では今週も無理かなぁ、などと考えていたその時、書類の音とため息の声のみだった執務室にノックの音が響き渡った。






 リケ「どーぞー」


 開いたドアから申し訳なさそうに顔を出したブロンドヘアの青い瞳は「スペード」の第一秘書官、リシュリュー・ラプンツォッドであった。


 自分の軍ではない子がなぜ? とリケはきょとんとした。


 リケ「どしたー?」


 リシュリュー「お忙しいところ、大変申し訳ありません」


 リシュリューは深々と、本当に申し訳なさそうに頭を下げ、デスクの上に小箱を差し出した。リケはその小箱を不思議そうに覗き込んだ。






 リケ「なに? 私に?」


 リシュリュー「マスター・マリアからです。先日と先ほどおいでになって……」


 リケは慌てて頭を抱えた。


 リケ「あれ!? 2回も!? じゃ、私対応しなくてよかった!?」


 リケはハッと何かを思い出し、バカな自分を戒めるように眉間を押さえながら背もたれに寄りかかった。


 リケ「あー……今ハートの将軍キングはここ(本部)にいらっしゃるんだったよね。じゃ、大丈夫か……」


 リシュリュー「かなりお疲れのご様子です。少しお休みになられては……」


 リケは笑った。


 リケ「いいよ、"これ"もうちの将軍キングがいらっしゃらないのも、いつものこと。それより、ありがとね」


 コツンとデスクの上の小箱を人差し指でつつき、精一杯の笑顔をリシュリューに向けた。


 「それより」と区切られてしまっては、リシュリューはこれ以上ここにいるわけにはいかなかった。


 リシュリューは精一杯の気遣いを込めたお辞儀をし、部屋を出た。


 水を打ったような執務室で、リケは再びデスクに向かった。


 数時間が経ち、あまり席を立たずに済むようチビチビとすすっていたコーヒーも飲み干し、ふと集中が切れたとき、書類の山の隙間から覗く先ほどの小箱が目に入った。


 リケ「……マリアから?」


 リケは小箱を開けた。






 中には見慣れた個包装のまんじゅうと、カードが添えられていた。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

   今週そっちに寄った帰りに買ったゼミの土産のあまりを持って来たわ。


   週末だし、飲みの誘おうと思ったけど、無理そうね。

   

   また今度

   

   

   maria

   

   

   p.s.

   次、おたくの上司が帰ったら、2人でとっちめてやりましょ!

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







 リケはクスリとほほが緩み、次にハッとあることに気がついた。


 ――そういや私、ここ最近腹の底から笑ってなかったや……――


 学生時代から苦楽を共にした親友への感謝の気持ちが、自然とリケの顔を、窓からのぞく白んだ夜空へ向けた。


 リケ「サンキュー、マリー」




 ……まんじゅう、賞味期限切れてるけど。







――― 5.4 the man, his name is … (閑話)――――――――――――――――――――









 その男の通る道は風が通る道








 パンゲア大陸 桃花源国 北西部 崑崙山 山中


 男が一人、火をおこしていた。


 火が付くと、男は持っていた大きな麻袋をひょいと火の中に放り込んだ。


 ゆっくりと、麻袋は炭となり、灰となった。


 やがて、火も消え、灰は風と共に舞い散った。


 男は口を開いた。


 「鈴々(リンリン)、今日、何日だっけ?」






 男の肩に、ふわりと手のひらほどの丸い光が舞い降りた。


 光の中には、翅が生えた、人差し指程の大きさの妖精の少女。


 少女は男の肩に座り、ヤレヤレと呆れたようにため息をつき、足と腕を組んだ。


 「"休暇明け初"日だよ!」


 男は「アレ?」と苦笑いした。


 「……そうだっけ?」


 少女は冷ややかな目で男を見た。






 少女は組んだ膝に頬杖をついた。


 「"マジックワープ"使っても、完全に遅刻だね~こりゃ」


 「やっべぇ!」


 男は慌ててかけ出した。



 彼を追うように、風も駆け出す。



 少女は"風を見ながら"、嫌そうな表情を浮かべ、男に問うた。 「魔法、使っちゃえば?」


 「ダーメッ! 魔法って自分一人のためには使っちゃいけないの!」


 少女は口を尖らせた。

 「……いいじゃん、ちょっとくらい」


 「俺がそんなだと、"示し"がつかないだろー? なんだよ、どした?」


 男は自分の顔の横をふわふわと飛ぶ、むすっとした少女を横目で見た。


 少女はうつむいた。

 「……この山の精霊、みんなあなたのこと好きだから」


 少女は恨めしそうに"風を睨んだ"。


 男は笑った。

 「別に精霊たちこいつらは悪さしないよ」


 「そうじゃないって! もうっ!」


 少女は男の顔の前でピタリと止まった。


 合わせて男も走るのを止めた。




 少女は切なそうに、男の顔の右上から左下にわたる大きな傷跡を撫でた。



 男のこげ茶色の髪を、風も撫ぜる。



 灰色の瞳はキョトンと少女を見つめた。


 男の純朴な瞳に、少女は頬をふくらませ、男にでこピンした。男は額をさすり、声をあげていつものように屈託なく笑った。


 「小っさすぎて痛くねー」


 男はニコリと少女に微笑んだ。


 「ほら、早く戻るぞ! トランプ本部に」



 その男の通る道は風が通る道。

 彼は風。

 行く先で、新たな風を吹き込む。


 その名は ――リー・シェン



 対魔導師犯罪警察組織「トランプ」 対魔導師犯罪第1軍「スペード」 将軍キング――




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