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W・B・Arriance  作者: 栗ムコロッケ
悪魔の薬編―ファリアス港編―
64/72

33.under ceiling

 パンゲア大陸東海岸 ファンディアス国 ファリアス港


 雲一つ無い朝焼けが、美しい石畳の町並みに影を伸ばし、夜露に冷えた空気に温もりを与える。


 港町の朝は早い。

 カモメの鳴き声と共に漁から帰港した漁船。水揚げされた魚たち。響く競りの野太い声。市場を彩る女たちの笑い声。


 その活気を横切る、早朝の港町には不釣り合いなワイシャツにネクタイ姿の男が一人。男はライトブラウンのクセッ毛をくしゃくしゃと、落ち着き無く石畳を進んでいた。


 「ウランド」

 名を呼ばれ、男はすぐ傍の建物の屋根を見上げた。屋根の上から手招きする小豆色の美しいストレートヘアにオリーブ色の切れ長の瞳の美女。

 ウランド「……フー」





―――― under ceiling(目の前の天井) ――――




 屋根の上は朝陽が眩しかった。


 腰かけたフーはすぐ隣を叩きウランドに座るよう促した。少し離れたところに、ウランドは腰かけた。

 ウランド「……お早いですね」

 フー「急な任務が入ってな、すぐにでも行かなきゃなんない」


 そうして横目でウランドの様子を伺った。

 相変わらず落ち着きの無い手元をぼんやりと見つめるその横顔を、いつまでも眺めていたい、そう思った。


 その落ち着きのなかった手元はピタリと止まり、徐に差し出された、高級な宝石でも入っているのではないかというほど、きれいなラッピングを施された小箱。


 フーはそれを受け取ると、まるで小石で遊ぶように放り上げてはキャッチするを繰り返していた。

 暫くの沈黙のあと、フーは自嘲的な笑みを浮かべた。


 フー「手切れ金のつもりかい」

 ウランド「……すべては私の責任です。責めるなり殴るなり、フーさんの気の済むまで、」

 フー「うそつき」

 ウランド「……はい」

 柳眉の逆立った美しい顔がズイとウランドの目の前に近付けられた。

 フー「違えばか。あんた言ったじゃん、あたしだけ悪者にしないって! それであんただけ悪者ヅラだあ? バカにすんじゃねぇよ!」

 ウランド「……はい」

 フー「ずるいっ!」

 ウランド「……はい」

 ついにイライラの頂点に達したフーの細い指が、ウランドの耳をつねり上げた。

 ウランド「いたたた」

 フー「こいつはただのお飾りかっ! バカの一つ覚えみたいにハイハイハイハイ!」

 ウランド「……いいえ、ちゃんと聞いています」


 今日初めて、クロブチメガネの奥と視線があった。

 ウランド「私の軽率な行動でフーさんを傷つけてしまいました。貴女の言葉は一言でも一句でも、……胸に刻み付けるつもりです」


 ワイシャツの胸ぐらを乱暴に掴み、今にも怒鳴らんと近付けられたその美しい顔は、一呼吸置くと切なげに微笑んだ。

 フー「……もし…………神使教じゃなかったら、あたしを選んでくれた?」


 少しの沈黙のあと、ウランドは答えた。

 ウランド「貴女が神使教でなければ、こうして出会うことも無かったかもしれません。貴女に出会わせてくれた神使教に、私は感謝します」


 フー「……変な魔導師」

 ウランド「……魔法圏にも、いろいろな人がいます」

 フー「……ねぇ」


 細く美しい腕がウランドの首元に絡み付いた。

 フー「もう、逃げちゃおうよ、魔法圏とか神使教とかさ、どうでもいい」

 いつも強気な彼女からの弱腰で突拍子のない提案に、ウランドは直ぐ様違和感を感じた。

 ウランド「……フー、もしかして何かあった?」


 表情がほんの一瞬凍りついたのを、ウランドは見逃さなかった。悟られまいとフーは顔を逸らし、立ち上がって距離を取った。

 フー「あーあ、嘘だよウソ! こんな安っぽい演技に鼻の下伸ばしやがって」

 ウランド「フー、待って」


 呼び止めたつもりのそのオリーブ色の瞳は朝日を眺め、清々しく微笑んでいた。

 フー「言ったろ、時間が無えって」

 そうポツリと言葉を残し、背中越しにヒラヒラと振られた細い手のひら。


 フー「じゃあな、おっさん、いい暇つぶしだったわ」

 ウランドが振り返った時には、すでにフーの姿は無かった。


 「ウランド」


 頭上が陰り、見上げるとそこには褐色の肌に黒く艶やかなロングヘアの美女。何故彼女がここにいるのか、ウランドはすぐに見当がついた。






 ウランド「グウェン中佐、よく私の居場所がわかりましたね」


 細長い腕を組み、艶やかな唇が釣り上げられた。

 グウェン「見つけたのは偶然よ。こんな朝早くにワイシャツの男が屋根の上にいたら目立つわ。ところで今のコは誰?」

 ウランドは苦々しい表情を浮かべた。

 ウランド「どこから見てたの」

 グウェン「あら、私に気づかないくらい夢中だったみたいね」


 懸命に返す言葉を探している様子に、グウェンは思わずクスリと笑った。

 グウェン「ばかね。黙っててあげるから、ちゃんと切りなさいよ?」

 ウランド「……もう切ったよ」

 グウェン「そう」


 クロブチメガネが朝日を反射した。

 ウランド「……それで、君がここにいるということは"W・B・アライアンス"がここにいるということだね?」

 グウェン「アナタがここにいるということは、"黒い三日月"のリーダーの案件ということよね?」


 何故そこでロロ・ウーの話が出てくるのか、ウランドの中ではまるで話が繋がらなかった。グウェンは続けた。

 グウェン「昨晩、彼らはロロ・ウーと接触していたわ」

 ウランド「接触? 何を言っているんだ? 彼は昨晩拘束したはず、」


 ふと、フーが普段の様子と異なっていたことが引っかかった。


 何か思いついた様子でウランドは慌てて駆け出した。すぐ隣をグウェンも追った。

 グウェン「何故"拘束"なんて"間を置いた"の?」

 ウランド「先ほどの女性が誰かと聞きましたね? 彼女は道士協会からロロ・ウー抹殺を命じられた道士です」

 グウェン「神使教徒!? 本当に見境の無い男ね。見なかったことにしてあげるから表沙汰にしないでよ?」

 ウランド「……話し合いの結果、ロロ・ウーの身柄は彼女に引き渡しました」

 グウェン「なるほど、じゃあ取り逃がした非はトランプにはないわね」

 ウランド「……解せません。こちらからは拘束衣をお貸ししていました。おまけに彼女自身、幾重にも厳重に結界を施していた。たとえ協力者がいたとしても逃げられる隙など無かったはず」


 グウェン「でも逃げた。事実よ、それが」






 ロロ・ウーを拘束していたホテル。勢い良く開いたドア。振り返ったのはフーだけでは無かった。


 長い髭を蓄えた独特の巻き衣装の老人。老人は袖に手を入れ恭しくお辞儀をした。

 ウランド「……魔導師協会に所属していますウランド・ヴァン・ウィンクルと申します。こちらは同じくグウェン・スレッジ。共にトランプの者です。貴方は?」

 儡爺「"儡乾道"と申す。この度はこの"瞼坤道"が世話になったようで」

 フーはウランドと視線を合わせなかった。敢えて、無関心を装っていたように見えた。


 ウランド「ミスター・ライケンドー。ミス・レンコンドーに"御協力いただき"捕獲したロロ・ウーについてですが」

 爺はお辞儀の姿勢のまま、更に深々と頭を下げた。それは恐縮しているというより、袖に表情を隠しているようにも見てとれた。

 儡爺「こちらこそ、"わざわざ賜った"ご協力を無下にし、大変に"遺憾"の思いでございます」

 ウランド「……無下、というのは?」


 長い眉に埋もれた爺の鋭い眼光がフーを捕らえた。

 儡爺「この愚かな瞼坤道めが、まんまと取り逃がしたのです。あの諸悪の権化めを」

 ウランド「……まんまと取り逃がした? どのようにです? それは本当にミス・レンコンドーの失敗によるものですか」


 突き詰めるような物言いは爺の気に障ったようだった。

 儡爺「どういう意味ですかな」

 ウランド「こちらから拘束衣をお貸ししています。それも"まんまと取り逃がした"一因とされているのであれば心外なお話です。そう考えるとロロ・ウーが居なくなった事実がミス・レンコンドーの失態にどのように繋がるのか、分からないと申し上げています」

 儡爺「ワシを愚弄する気か、魔導師め」

 わざとらしく肩を竦め、ウランドは切り返した。

 ウランド「何故です? 本当にそちらの失態なのでしょうかと道士協会殿を擁護しているつもりですが」


 更に悪態をつこうとする儡爺を遮るようにフーが口を挟んだ。

 フー「ウランド殿、すでに身柄は道士協会へと引き渡してもらった後だ。責任はこちらにある」

 ウランド「ミス・レンコンドー、お言葉ですが、このタイミングでそれは違います。取り逃がした事実を認めたいおつもりでしょうけれど、責任というご立派な言葉の影で、単に居なくなった事実をぼやかしているだけです。責任どうこうの前にすべきことがあるはずではありませんか?」


 続いてグウェンは凝った細工の施された台座に乗った水晶を取り出し、床に置いた。


 グウェン「ここがロロ・ウーを拘束した部屋?」

 ウランド「そう」

 魔力を込めると、水晶にロロ・ウーを拘束していた当時の、この部屋の様子が映し出された。






 締め切られたカーテン、部屋の中央に置かれた椅子に縛り付けられた純白の拘束衣の男。

 また、部屋の中は白銀に輝く白いもやに被われ、映像は少し見えづらかった。


 フー「精霊まで見えるのか。白いもやのようなものはあたしの結界だ。法力の体積を見て監視する」

 すかさず爺の鋭い声が追求した。

 儡爺「なぜそのような結界を使った? やつは瞬間移動の術を使う。逃げられてからは手遅れだろうが」

 ウランド「白い拘束衣は精霊への働きかけの一切を遮断します」

 儡爺「……遮断?」


 水晶内ではフーが部屋に入り、白いゴキブリを殺そうとしているところだった。

 儡爺「お前と転乾道は会話をしているではないか」

 ウランド「外からの声は聞こえる仕組みです。ロロ・ウー自身からの五感は封じられています」

 フーは目を見開いた。


 フー「……おかしい、このときゴキブリが可哀想だから殺すなと言われた」

 グウェンは信じられないといった様子で水晶に目を凝らした。

 儡爺「穴空きでも寄越したか。謀ったな魔導師!」

 ウランド「まさか。あいにくそのような"細工"を施すほどヒマではありません。ミス・レンコンドー、彼は"ゴキブリが"と言っていましたか?」

 フー「ああ、たしかに、部屋にいるのがゴキブリだとわかっているようだった。……やつの視界に入っていたかはわからないが」

 グウェン「おかしいわ。拘束衣越しでは外からの声以外は聞こえないし視覚・嗅覚・触覚も効かない。何故彼はミス・レンコンドーが害虫を殺そうとしているなんてことまでわかったらのかしら」

 水晶の中の映像は、フーが丁度退室したところだった。



 ところが、



 フー「……んん?」

 再びフーが入室し、ロロの背後に立った。


 儡爺「何をしておる!?」


 フー「あたしじゃ無ぇ!」


 何を言っているんだと儡爺はフーに掴みかかった。

 儡爺「どこをどうみてもお前だろうが!」

 フー「知らねぇって! 第三者の干渉だ……!」

 儡爺「証拠は! ここまで鮮明に映っておきながら、この時間貴様が何処にいたというアリバイなどなかろうが!」

 フー「言ったなジジイ! あたしがいた部屋でこいつ(水晶)を使ってみろよ!」


 そうして移動した部屋で水晶に映し出されたのはただの白銀の"濃霧"。濃すぎて、全く何も見えなかった。

 フー「うぐっ」

 髭を擦り儡爺はにやりと笑った。

 儡爺「お前は法力が強すぎるのに制御の修行を怠るからだ、馬鹿者が」


 そして、かねてからの疑惑を、ぶつけた。

 儡爺「やつは女を虜にすることにも長けておる。貴様もそのうちの一人なのではないか?」

 今度はフーが儡爺の胸ぐらを締め上げた。

 フー「ッざけんな!」

 儡爺の笑みは余裕そのものであった。

 儡爺「なんだ図星か? お前も言葉遣いの割には……」


 胸ぐらを掴むフーの手を、そっと大きく暖かな手が包み込んだ。

 ウランド「ミスター・ライケンドー、仮に貴方の推測が正しければ、ロロ・ウーを逃してなおもここに留まる理由が、彼女にありますか?」

 儡爺「それは帰国してこ奴の身体に直接聞く」

 フー「ケッ! 上等だ! いくらでも聞いてみろ」

 ウランド「ミス・レンコンドー、落ち着いてください。それでは貴女にいいことはありません」


 そうしてグウェンと目を合わせた。


 グウェン「行くつもり? ダメよ? W・B・アライアンスに手を出しては」

 ウランド「ちょっと行ってロロ・ウーを取り返すだけだよ。居場所を教えて。この街にいるんでしょう?」

 グウェン「ダメ。相手はノッシュナイドよ。グランドセブンが集まるまではこちらから手を出して刺激を与えない。それに、あなたでは敵わない、わかっているでしょう?」

 ウランド「……わからないよ? それに"ネームバリュー"だけで敵う相手でもないと思うけどね」

 グウェン「私に怒っても仕方の無いことでしょ? 部下として、あなたをこれ以上単独行動でマイナス評価にさせるわけにはいかない。お願いだから冷静になって」

 そしてウランドのネクタイをふん掴み耳元で囁いた。

 グウェン「あなたとあのコはもう関係ない」


 フーの細い指がグウェンを指した。

 フー「ちょっと! 何イチャついてんだよ、オバサン!」

 グウェンはクスリと笑い、ウランドの顎を一撫でした。

 グウェン「ちょっと作戦会議よ、"仔猫ちゃん"」

 あからさまにムッとした様子のフーに儡爺は首を傾げた。

 儡爺「転乾道に袖にされた八つ当たりか? みっともない」

 フー「そんなんじゃねぇよっ! クソ! おい、冷静になったとこで、なんの手がかりもなきゃ、前に進めねぇぞ」


 グウェン「ロロ・ウーは逃げた後、ある犯罪組織と合流したわ」

 儡爺の目がギラリと光った。

 グウェン「"W・B・アライアンス"ご存知かしら? 最近結成された犯罪魔導師のチームよ」

 儡爺「……なぜ、そこまで分かっておきながら」

 グウェン「"ノッシュナイド"が関わっているの、トランプでも迂闊に手を出せない」


 二人の道士の顔色が急変したのが見てとれた。

 儡爺「"白山羊"……! 次期魔王候補ではないか!? 馬鹿げている、そんな話が……」

 グウェン「……そうね」

 フーはただ、震える手で口元を覆っていた。


 儡爺「そうなったのも! すべて貴様が逃がしたからだぞ瞼坤道!」

 グウェン「彼女は違うと言っているわ。精霊の記憶の解析をするから彼女を責めるのは待って」

 儡爺「解析ぃ!? どれだけかかる」

 グウェン「1日2日はかかるわ」

 儡爺「待てるか! こうしている間にもヤツは……ええい史上最悪の事態だ……! なんたる道士の恥! それというのも」

 フーの襟首を掴みあげ、儡爺の怒号が飛んだ。

 儡爺「貴様がさっさと殺さなかったからだ! どうせ妙な情で躊躇したのだろう!?」


 怒りに湧くその肩を、ウランドの大きな手が引き離した。

 ウランド「ミスター・ライケンドー、あなたの失望は伝わりました。ミス・レンコンドーにさぞ期待を寄せておられたのでしょう。しかし、あなたほどの方が若輩への暴力など、こちらから見るに耐えませんよ」

 儡爺「あれだけはっきりした映像に残っている。こやつの潔癖を証明など! そもそも我々を陥れようとしている魔導師どもの鑑定など信用できるか!」

 ウランド「彼女を責めるのは焦燥だと申し上げています。彼女がロロ・ウーを殺さなかったのは、ちょうどトランプの検挙対象でもあったため、私がトランプの仕事への協力を求めたからです」

 フーの真ん丸くした瞳がきょとんとウランドを見つめた。グウェンは見えない位置でウランドを小突いた。






 ウランド「……ロロ・ウーを生かしておいたことが責だとすれば、責められるべきは私です」


 何を言い出すのか、とフーは声をあげた。

 フー「ばっか! 何言ってん、」

 爺の皺だらけの手がフーを制止した。

 儡爺「ほう、では神使教の命を受けた我々の仕事を、魔導師の分際で邪魔をしたということだな」

 フー「違ぇよジジイ! あたしが道士だなんて名乗らなかったんだ! こいつはあたしの任務を知らなかったんだよ!」

 ウランド「彼女を強引に引き込みました。彼女に責は一切ありません」


 ついにフーはウランドの胸ぐらを掴んだ。

 フー「いい加減にしろよ! そんなんであたしが助かるとでも」

 クロブチメガネの奥は真っ直ぐと儡爺に向いていた。


 ウランド「こうして魔導師である私も庇ってくださる、神使教の隣人愛の教えに従順な、素晴らしい道士ではありませんか。それにまだ若い。貴方の裁量で彼女にチャンスを与えてはいただけませんか」

 フー「何でお前が勝手なことを言ってるんだよ! 関係ねえだろうが!」


 ウランドの胸ぐらを掴むフーの手を、褐色の手が制止した。

 グウェン「ごめんね? こういう人なの」

 ニヤリと笑い、ウランドはグウェンを見下ろした。

 ウランド「諦めた?」

 クスリと笑い、グウェンもまたウランドを見上げた。

 グウェン「思い出しただけよ」

 そう、と笑いながら相づちを打つと再び儡爺に視線を向けた。

 ウランド「ここは一つ、ロロ・ウーを取り戻すことを、トランプにお任せいただけませんか?」

 儡爺「やつは何人もの魔導師を殺している。それに、映像の件は! どのようにアリバイを証明するつもりだ。あれが偽物の瞼坤道だとして、本人がどこにいたか」


 ウランド「彼女は、昨晩私といました」


 グウェンは眉間を摘まんだ。どういうことだ、と儡爺の視線は直ぐ様フーへと向けられた。一番驚いていたのは、フーだった。

 フー「何言ってんだ! ウソだウソ! 頭おかしーんじゃねぇの!」

 ウランド「私が無理をお願いしました。部屋を出たのは朝3時頃です」

 メモリアリスタルに記憶されたロロ・ウー脱走の映像は直ぐ様グウェンの手の中で再生された。部屋の壁掛け時計は二時半ごろを示していた。

 呆れた、とグウェンはため息をついた。

 グウェン「"ちゃっかり者"」

 ウランド「まあね」


 長い顎髭を撫で、爺の口の端はつり上がった。

 フー「ウソだよ! 会ってはないし、無理矢理何かされたわけじゃない! 本当だ!」


 騒ぐなと今にも暴れださんフーを制止し、儡爺は耳打ちした。

 儡爺「相手は魔法圏でも憧憬の存在、トランプだぞ! それが敬虔な神使教徒を強姦。魔導師協会の信頼を失墜させる格好の機会だ」

 白く細い指先は爺の胸ぐらを締め上げた。

 フー「ッざけんなクソジジイ! あたしはそういう曲がったことが嫌いだ!」


 次にその拳はウランドへと向かった。バチンと激しい音をたて、拳はウランドの手の中に納まった。

 フー「ウソばっかり! トランプのクセに! そんなんで公正な検挙ができるかよ! 本当にあたしがやったかもしんねぇんだぞ」

 ボソリと、ほとんど聞こえないような声でウランドは答えた。

 ウランド「……確かに、無理矢理は"言い過ぎ"かもね」

 フー「言い過ぎじゃねぇ! 真っ赤なウソだ!」


 そうして爺にしがみついた。

 フー「儡乾道! 騙されるな! この魔導師はあたしを助けるために嘘を言っている!」

 ニヤリと笑う爺の顔には、慈悲の欠片も見当たらなかった。

 儡爺「可哀想に、瞼坤道。魔導師に洗脳マインドコントロールされたか。同胞たちは皆お前に同情するであろう」

 フー「……何言ってんだ……やめろ……止めろって!」


 満足げな表情を浮かべ、儡爺はむき栗のような指をウランドに向けた。

 儡爺「貴様を教徒強姦で糾弾する。明日にでも魔導師協会に抗議文を送りつける。覚悟しておけよ」

 そうしていそいそと部屋を出ていった。憔悴しきった様子のフーは伏し目がちに力無く口を開いた。

 フー「……儡爺は説得しておくから」

 ウランド「……協会はこの程度でぐらつきはいたしません。ミスター・ライケンドーには、どうかロロ・ウーの件は任せてくださいとお伝え願います」


 ドアノブに手をかけ、再びウランドは振り返った。

 ウランド「ありがとう、楽しかった。元気でね」

 ドアは静かに閉じられた。






 部屋に一人。


 周りに音はなく、憔悴しきり沈殿した心は粘度のある水底にあるまま、風が吹くこともなければ流れが生まれることもない。

 手が、足が震える感覚もなく。頭がざわざわと、考えが、まとまらない。


 ふと、あの男が渡してきた包みを思い出し、手に取った。


 かけられたリボンに書かれた店名は、真反対の大陸のある国で有名なジュエリーショップ。

 時差を利用して、昨晩のうちに買ってきたのか。


 いつもなら男からの"貢ぎ物"など気に入れば身につけ気に入らないものや飽きたものはすぐにでも質に入れていたが、今回はどういうわけか、到底、開ける気になどなれなかった。


 包みを抱えてうずくまった。


 その肩は震えていた。






 ◆



 噴水の音が絶え間なく流れる、穏やかな陽気の中央広場。


 近くのベンチに腰掛け、ボンヤリと噴水を眺めていたクロブチメガネの目の前に差し出されたコーヒー。

 ありがとう、と受け取り、背もたれに身を預けると、隣に座るグウェンに目を向けた。

 ウランド「戻りなよ、仕事」

 グウェン「そうね、もう少ししたら」


 小鳥の囀りが、行き交う人々の談笑が、どこか恨めしく思えた。

 グウェン「……昔からそう。どうしてそうやってすぐその場の感情で動いちゃうのよ。それに被疑者を擁護だなんて公平さに欠けるわ。いつもの貴方らしくなかった」

 どこかニヤニヤしながら、ウランドはコーヒーをすすった。

 ウランド「ホント、エース失格だ。協会に迷惑かけてごめんなさい」

 グウェン「……あなたがそういうバカだって、みんな知ってるわ。それと、婚約者さんにはどう言い逃れするつもり?」


 手元のコーヒーを眺めて、暫くの沈黙のあと、ウランドは静かに答えた。

 ウランド「彼女の解に任せるよ。昔も今も、俺にとって一番大切なのはヨトルヤだ」

 グウェン「よく言う。キングの雷が落ちるわね」

 ※カグヤとヨトルヤは親友(19.6話参照)


 ウランド「……本部に戻って、キングに踏みつけられてくる」

 グウェン「その前にわたしが踏みつけていいかしら?」

 思いがけぬ言葉に苦笑いしながら、コーヒーをすすった。次の一言が精一杯だった。

 ウランド「痛くしないでね」

 グウェン「するわよ、思いきり。あなたのバカがどうか良くなりますようにってね!」






 ◆


 「はあい、エリスちゃん。お~はよ?」


 目が覚めるとその目の前には空色の瞳の端正な顔立ちの男。

 エリスは勢い良く起きすぎて背中を痛めた。どうやら、あれから泣きつかれて眠ってしまったらしい。どこだここは。いや、まずは葉巻が欲しい。


 「はい、これでしょ?」


 男から差し出されたいつもの葉巻とマッチ、だがこの男から受けとるなど、体の奥底が許さなかった。

 シワシワの手で紫色に染め上げた髪をかきあげ、エリスは男を睨み付けた。

 エリス「ロロ・ウー、どこだい、ここは。あたしのツレはどうした」


 ベッドに腰掛け足を組み、ロロは葉巻を咥え火を点けた。

 ロロ「そーんな警戒しなくても~ちゃぁんと頼もしい護衛をつけてくれてるよ~」

 枕元に目を向けると、よしのにいつもくっついている真ん丸とした黒猫。くるりと丸まり、気持ち良さそうに寝息を立てている。

 そうして戻した視線の先でいつのまにか向けられていた微笑みは、カーテン越しの柔らかな光を背負い、まるで天使のようだった。


 ロロ「何か飲む?」

 優しい、囁くような声。何も知らなければ、コロッと騙されていただろう。エリスはガラガラに焼けた声で鋭く切り返した。

 エリス「ふざけんじゃないよ。アタシの質問に答えな」

 ロロ「やっぱ飲み物いるじゃん! 起き抜けに血圧あげると体に悪いよ?」

 エリス「あんたが血圧上げさせてんだよ」


 立ち上がったロロはベッドに膝をかけ、顔を近付けるとそっとエリスの頭に手をかざした。

 エリス「ひぃっ!」

 エリスは恐怖のあまり身を縮めた。黒猫の瞳がチラリと開いた。


 ロロ「喉渇いてるんでしょ? でも飲みたいのはコーヒーとか牛乳とかじゃないよね。あんたの体内の精霊たちが水くれ水くれってうるさいんだ。やるから黙らせてよ」

 そうして心底うんざりした様子でよたよたと寝室を出ていった。


 エリス「……飲みたいものまでわかるのかい? 気味の悪い子だよ、まったく」

 クリス「人間の器に対して力が"異常に"強すぎるんだよ、人間としての人格を保っているのが奇跡だな。振り回されて自滅しそうに、何度もなっていることだろう」


 黒猫はエリスの膝の上にちょこんと乗った。

 クリス「おはよう、エリスちゃん。ここは昨日の部屋の奥にあった寝室だよ。エリスちゃん、泣きつかれて寝ちゃったんだよ。よしのちゃんたちが帰って来たら、フィードのクソバカから説明があると思うから、もうちょっと待ってて」



 どういうことか、早く説明がほしい。ドアが開き、フィードたちかと顔を向けたが、違った。

 再び現れた憎き男は、水のたっぷり入ったコップをサイドテーブルに乗せ、再びベッドの端に腰かけると、毒なんて入っていないよ、と飲むように促された。


 喉と喉が貼り付くほどカラカラだった。コップの水は一気に飲み干された。その様子はロロに笑われるほどのようだった。

 ロロ「アハハ! そんな一気に流し込んだら体に障るよ。……あぁ、でも、精霊は大人しくなったあ~よかったあ~」

 笑われた恥ずかしさを隠したかった。

 エリス「……悪かったね、寝床を占領しちまって」

 ロロ「んーんっ! ぜんぜ~ん? もうここおれは来るつもりないし~」

 エリス「……ん?」


 玄関が開き、ガヤガヤといつもの騒々しい口喧嘩が聞こえてきた。

 次いで乱暴に開く寝室のドア。勢い良く飛び出した銀髪赤目の黒づくめ。

 フィード「おー、ババア、目ぇ覚ましたかぁー!」

 ロロ「あんた精霊より喧しいな……」

 エリス「フィード! 一体どういうことだい!」

 腕を組みふんぞり返ってベッドの脇に立つと、いつもの騒々しいダミ声が部屋の空気を占領した。






 フィード「以前から説明していたが、俺様らは巡礼船に乗ってジパングへ行ってくる。その間、お前とクリスはこの街で留守番だ」

 エリスは直ぐ側でベッドに腰掛けボンヤリしているロロをチラリと横目で覗いた。この男の件を、無かったことにされているのだろうか、そう言った疑念の目配せだった。


 フィード「その間、そこのクソッタレ目ヤローには、よしののアーティファクトのパーツ探しをさせる」

 ロロ「してもらう、でしょ? 言葉に気を付けな~ペットの七光りのモヤシ女~?」

 フィード「んだとこら」


 小さい子どもをたしなめるように、エオルの大きな手がフィードの襟首を引っ張った。

 エオル「俺たちが戻るまでに、後悔の無い答えを探してください」


 エリスはあからさまに苛ついた様子だった。

 エリス「そんなの! コイツをぶち殺したいに決まってるじゃないか!」

 ロロ「おばあちゃ~ん、返り討ちって言葉知ってる~? おれ、あんたのボランティアで殺されるつもり、欠片もないんだけど~」

 エリス「何もあたしが直接手を下すとは言ってない。こういう生業やってりゃ、知り合いにわんさかといるからねぇ、殺し屋とか、呪い屋とか」


 ロロ「なら、今ここであんたを殺れば終了だな」

 急に低くなった声のトーン。エリスは血の気が引いた。


 フィード「ふざけんなテメエ、エリスに指一本触れたら同盟解消だ」

 ロロ「ババアがおれを殺しにかかったら同盟解消だっつったろうが」

 睨み合う両者。


 このときエリスは理解した。自分の行動一つで、この薄氷のような協力関係のようなものが崩れ去ることを。そしてエオルの提案の意味を。

 フィードたちが探し物のためにロロの権力を必要としていることもわかっている。年の功か、長い間裏社会に片足を突っ込んで培った経験則からか、ここで感情的になっても誰も得をしないだろう、復讐は時期を見計らうべきだ、直感が、そう言っている。


 エリス「わかったよ、もう少し冷静になった考えてみるよ、ただし、あんたの仕事ぶりは見させてもらうよ」

 一同はきょとんとエリスを注視した。一番顔を歪めていたのはロロだった。


 ロロ「最後なんて言ったの?」

 エリス「あんたの仕事ぶりを見せてもらうっつったんだよ」

 ロロ「あんたここで大人しくお仲間の帰りを待ってりゃいいじゃん! とりあえずブス連れて歩くのはおれのプライドが許さねえ」

 エリス「んだとこら」

 クリス「エリスちゃんに謝れ小僧!」


 この男について行き、弱点を探る、いてもたってもいられない気持ちを押し込める、苦肉の提案だった。


 クリス「エリスちゃぁ~ん、こんなクソッタレ目についてくのなんか止めときなよ~」

 エリス「いいや、あたしがこのボウヤをどうしたいか、考えるのに必要だ」

 何かを考えるように、クリスはしばらく尻尾をパタパタと振り、円らな瞳でエリスを見上げていた。


 クリス「おい、よしのちゃんたちが戻ってくる前までにこの街にエリスちゃんを送り届けろよ」

 顔をしかめ、頬杖をつき、空色の瞳は黒猫を見下ろした。

 ロロ「……まあ、おねえさんの探し物をとっとと渡してあんたらと縁切りたいしぃ? でも面倒は見ないからね、ババアの介護はクリスくんがやるのが条件だよ~?」

 エリス「テメエコラ」

 クリス「まあ、猫の姿でできる範囲ならな。風呂とか添い寝くらいなら、」

 黒猫の頭の上にエオルの大きな足が降りた。

 エオル「エリスさんを守るのはお前の役目って、フィードに言われたろ」


 葉巻に火が点った。

 エリス「交渉成立だな」

 フィードは大きな欠伸をした。


 フィード「んじゃあこの話は終わりだな!」

 そして次に小さな小瓶を取り出した。中に詰まっていたのは青白いラムネ菓子。


 フィード「こいつでいいのか? どうすんだ?」


 ロロ「それで適当な神使教徒をおびき寄せて乗船券を奪う」


 年に一度、ジパングへの巡礼専用の船便、"巡礼船"。

 乗船には神使教徒が巡礼時に持つ"旗"を提示する必要がある。

 その旗を、フィード、エオル、よしの3人分集める必要があり、そのためには魔薬"免罪符"の謳い文句に誘われやってきた教徒から旗を奪えばいい、というのがロロの提案だった。


 よしの「そんな……奪うだなんて!」

 ロロ「"飲めばすべての罪から逃れられる"。そんなお薬で楽しようなんて、どうせ敬虔さの欠片も無ェクズ教徒だよ、そもそも巡礼なんてする価値無ェ」

 よしの「この世にクズも価値のない人もおりません。そこまでするくらいなら、私はジパングになんて、」

 ロロ「お仲間の厚意を無下にする、とんだクズ女だな」


 すかさずフィードの白い手がロロの胸ぐらを掴んだ。

 フィード「暴言慎めっつったろが、第一てめぇがオナカマだあ?」

 ロロ「……なに勘違いしてんの?」


 背後から、よしのの今にも泣きそうな声が聞こえてきた。

 挿絵(By みてみん)

 よしの「……フィード様……エオル様……ごめんなさい……」


 二人の魔導師は同時にぎょっとし、同時によしのに視線を向けた。



 よしの「せっかく、ジパングに私を連れて行ってくださると……」


 フィード「ハア!?」

 エオル「ううん! よしのさんの気持ち、わかるから! ……フィード、この方法だと取り返しがつかないよ、別の方法考えよう?」

 しばらくの間、フィードはしげしげと小瓶を見つめていた。


 ロロ「裏社会って大抵後戻りできないことだらけだけど? この程度でビビッてるなんて、本当におままごとなんだね~」

 エオル「ロロ・ウー! 安い挑発は止めろ!」

 ロロはただニヤニヤと一行の様子を眺めていた。


 フィード「よしのの記憶が戻るかもしれねぇ、ジパングには行く。おい、神使教徒共はその乗船券みたいのはどこで貰うんだ」

 ロロ「洗礼を受けるときだよ。だから一人一枚、一生モノ。教会に盗みに入ろうとしてる? 罪ない所から価値あるものを無理矢理奪うってことだよね? それこそワルだね~すご~い」

 シャラシャラと音を立て、小瓶をクルクルと回し、フィードは暫く考え込んでいたようだった。


 ロロはベッドから徐に立ち上がった。それは痺れを切らした様子ではなかった。

 ロロ「おれちょっとお出かけしてくるから~好きにやっちゃって~」

 ベッドから降りかけたエリスはロロのスラッとした人差し指に制止された。

 ロロ「夕方までには戻るから」

 エリス「逃げたら承知しないよ」

 その一言に、笑い声が部屋に響いた。

 ロロ「お~! こわぁ~い!」

 玄関は閉じられ、暫く部屋に沈黙が流れた。


 エオル「絶対他に方法があるはずだよ! アイツ隠してるだけだって! さっきの変な挑発に、乗ってたりしないよね」

 フィード「さあな」


 エオル重苦しい溜め息をついた。

 エオル「……せめて知り合いに神使教徒がいればなあ、三人くらい。貸してとか言えるのに」






 目を覚ますとそこは見知らぬ天井。


 体を起こそうとするも背中に走る激痛に、その体は呆気なく元の体勢へと引き戻された。

 体が、少しでも動けば血が吹き出すのではないかというほどに、痛い。

 顔を歪め歯を食い縛っても、涙と呻き声が自然と出てくる。


 「目が覚めた!?」


 少年の明るい歓喜の入り交じった声。自分の元へ駆け寄る足音。目の前に飛び出した弾ける笑顔。

 「おはよう! 体大丈夫? お腹すいた!?」


 「こら、ハニア、きちんと一から説明してあげなさい」


 父親らしき男の声、親子だろうか。ハニアと呼ばれた少年はわかっているよとふて腐れたようだった。

 ハニア「お姉ちゃんが血だらけで倒れているのを発見して、診療所に連れてきたんだ。ここはそのベッドの上。丸一日寝ていたんだよ。お姉ちゃん、名前は?」

 答えた声は振り絞るようなか細いものだった。


 「……ラプリィ……」


 「獣人の言葉で"愛"という意味ですね、良い名前です」

 ラプリィは父親に視線を向けた。


 ラプリィ「……獣人を、差別しないの……?」

 微笑んだ父親の顔は、慈愛に満ちていた。

 父親「私どもは神使教徒です。差別などとは無縁です、安心してください」

 その笑顔に、声に、不思議と安堵を感じた。


 ラプリィ「ねぇ、ロロは?」

 父親とハニアは顔を見合せた。

 ハニア「俺たちが来たときにはお姉ちゃん一人だったよ、お姉ちゃん賞金稼ぎなの? ロロ・ウーってそんなヤバイやつなんだ」

 大きな猫目が見開かれた。


 ラプリィ「賞金稼ぎ……? ヤバイやつ? どういうこと? ロロが賞金首ってこと!? あなたたち、ロロを狙ってきたの?」

 ハニア「え?」

 ラプリィは鼻で笑った。

 ラプリィ「神使教徒のくせに! 人でお金稼ぐって、」


 突然、白い軍手に塞がれた口。顔の直ぐ横に突き立てられた刃物。どこからともなく視界に入った、仮面の男。

 ニタリと笑う、まるでそれは死神かと、ラプリィにそこはかとない恐怖を与えた。


 「……調子に乗るなよ"どら猫"。お前も狩られる側だろうが……」

 蚊の鳴くような、すきま風のようなか細い声。狐目の鋭い瞳に、押さえつけられた体は凍りついた。


 ハニア「わーっ! こらハイジ!」

 親子二人がかりでようやくラプリィは恐怖から引き剥がされた。

 ハニア「何だって言うんだよ!」

 ハイジはベッドの傍らに置いてあったハニアたちの荷物を指し示した。

 父親「ん? これかい?」


 ごそごそと荷物を漁り、幾つか物を取り出した。その度にハイジは首を振り、次に見せられた荷物、一行の旅の資金が入った財布を見せた際、初めて首が縦に振られた。

 通訳を求め、ハニアに目をやると、本人は唖然とした様子でベッドに横たわるラプリィを見つめていた。

 ハニア「お姉ちゃん、賞金首なの……!?」


 こんな若い娘まで。父親の髭の隙間からため息が漏れた。

 父親「……もう賞金首でお金を稼ぐのもこれで終わりにしましょう。巡礼船は目前です。……ここに来るまでに大分賞金首たちを犠牲にしてきました……巡礼船に乗る前に、この罪を拭うことができないものか……母さんもとても気に病んでいる」

 ハニア「罪を浄化してくれる薬とかあったらいいのにな~、都会だし」


 ついに、賞金稼ぎに捕まったのか。

 ラプリィは人目も憚らず泣き出した。


 全てが終わったと感じた。





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