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W・B・Arriance  作者: 栗ムコロッケ
悪魔の薬編―ファリアス港編―
57/72

 28.3.A. ― Misattribution of arousal 3 ―

ロロの心の世界に閉じ込められたウランドとフー。はたして二人は脱出の糸口を見つけることはできるのか!?

 燃えるような赤い空。


 鳴り続ける讃美歌。


 何処までも広がる草原。


 延々と続く白い砂利道。



 精神体(魂の一部)をロロの精神世界(無意識の心の世界)に閉じ込められたウランドとフーは脱出法を求め、敷き詰められた白い丸石を踏み締めながら、ひたすら道なりに進んでいた。


 精神体の機能は直面する事実への"順応"。精神世界からの脱出法を考えることは、かえってここを現実世界だと思い込む"順応"を早めることになる。

 この精神世界に"順応"してしまうと、フーは断頭台へ、ウランドは紅茶の池へ、それぞれ向かうことを義務だと思い込んでしまうことになる。それは、精神体の崩壊を意味する。

 ゆえに完全に"順応"する直前までは脱出法を探り、"順応"が解けるまでは別のことを考える、の繰り返しだった。


 暫くして、フーはあることに気が付いた。






 フー「さっきっから! "順応"しかけてんのあたしばっかじゃん! なんであんた"順応"しないんだよ!」


 そういえばそうだ、とウランドは考え込むように腕を組んだ。

 ウランド「私がコーヒー派だからじゃないですか」

 フー「あたしだって断頭台なんかキライだよ。つーか、あんたホント適当だなあ、発言が」

 ウランド「……一応、真面目に考えた結果なのですが……」


 呆れた、とフーは溜め息をついた。

 フー「螺羅の言う通り、頭悪そうだな」

 ウランド「ええ、頭でアレコレ考えるのは苦手ですね。基本的に何でも直感です」

 フー「じゃあ今何考えてんの? 直感でもなんでも、脱出法探すってのが頭の片隅にありゃあ、少しは順応も進むんじゃ」

 ウランドは辺りを見回し、フーに視線を戻した。

 ウランド「……脱出法を考えたり、この世界に閉じ込められたことに絶望することは、寧ろロロ・ウーの思う壺ではと考えています。糸口になるようなものを見つけない限りはフーさん、貴女を"順応"から助けることしか考えていません。むしろ、貴女のほうが肩に力が入りすぎて自ら"順応"を早めているように思います」


 口を尖らせ、フーはそっぽを向いた。

 フー「うっせーな、あたしはあんたをここから救うんだよ」

 ウランド「はいはい」






 そうしてさらに暫く砂利道を進むと、道の真ん中にはぽつんと見覚えのあるカーディガン。この世界でフーが気がついたとき、頭の下に敷かれていたものだった。

 フー「……あれ、あんたの」


 カーディガンを静かに持ち上げ、砂を払いながらウランドはなるほどなと小さく溜め息をついた。

 ウランド「スタート地点を見失わないための目印にしていました」

 フー「スタート地点か……」

 辺りは砂利道が一本走るだけで他は見渡す限り草原。


 フーはしまったと舌打ちし、腕を組んだ。


 フー「……目が覚めた瞬間から、あたしもあんたも"順応"がすでに始まってたんだ」

 ウランドは辺りを見回し、最後にカーディガンの置いてあった位置に視線を落とした。

 フー「その通り、おそらく現実世界から引っこ抜いた精神体を、この精神世界にぶちこむ入口はここだろう。だが目が覚めた瞬間、うちらは同じことを思ったはずさ」


 ウランド「"ここはどこだ"?」


 フーは頷いた。

 フー「ここが何処かはわからなかったうちにここを現実だと思い込む時間が十二分にあった。実はここに入口があるけど、ここが完結された矛盾のない本物の現実だとすでに"順応"しちまったうちらにはもう見ることができない」


 少し考え込み、ウランドは腰を下ろした。

 ウランド「新しい方がいらっしゃった瞬間はこの場のどこかにあるはずの入口が特定できますね、待ちますか」

 フー「何を呑気な……っつっても、もうそれしかねえか、うちらでできることは」


 ウランドの隣に腰掛け、フーはどこともなく遠くを眺めた。

 フー「独創的で凝った術だが、精神体の性質を利用した見事な術だ。天才ってのはやっぱ発想が違うもんだね。……あんた、魔導師の賞金稼ぎだったんだよね、残念だったな、金が手に入んなくて」

 ウランド「いいえ、私は魔導師協会のトランプという組織の者です」


 フーは口を開けたまま絶句した。


 フー「トランプ!? エリート魔導師じゃん! ……えっと、じゃあ仕事だったんだ?」

 ウランド「……次の仕事も詰まっています。正直なところ、あまりここで悠長にしているヒマはありません。けれど、立場や仕事のことを考えると焦ってしまい、これもまたロロ・ウーの思う壺です。先ほど何を考えているかと聞かれた際に、貴女に配慮して言えませんでしたが、頭の中は肉体に戻った後どのようにロロ・ウーを攻略するかばかりです」


 フーは笑った。

 フー「そんなずっと先の先しか考えてねぇのか、そりゃ"順応"しねぇはずだわ」


 そうしてオリーブ色の瞳がクロブチメガネの奥に向けられた。クロブチメガネの奥の焦げ茶色の瞳はわざと視線を合わせなかった。

 フー「……ねえ、もしかして怒った?」

 ウランド「怒った? どうしてそう思うのです?」






 少しの沈黙の後、フーは草むらに足を投げ出し、落ち着かなそうに足を揺らした。

 フー「彼女いるって知ってて、さっきちゅーしたの」


 ウランドは頬を掻いた。

 ウランド「…………最近の若い娘は」


 フー「さっきのは、ジョークじゃないよ」


 ウランド「大人をからかうんじゃありません」

 フー「あっはっは! 大人?」


 そうして握られた小さな拳の一番尖った部分が、そっとウランドの左右のこめかみに添えられた。そして次の瞬間

 ウランド「いたたたた!」

 フー「てめぇはさっきっからガキ扱いしやがってーーーーっ! バカにしてんのかこの野郎!」

 ウランド「し、してないしてない!」

 フーはウランドの顎をひっ掴んで見下ろした。

 フー「どの口がほざいてやがんだ、ああ?」


 降参だとウランドは両手を上げた。

 ウランド「……もうちょっと女の子らしくなんない?」


 フーは苦々しく顔をしかめ、ウランドの顎から乱暴に手を離しそっぽを向いた。

 フー「うるせーんだよ」

 バツが悪そうに頭をくしゃくしゃとかきむしるその表情はどこか傷ついたようだった。


 ウランド(あ、もう無理)






 徐にフーの細腕を引き寄せると、そのままガシリと力強く抱き締めた。


 ウランド「うそ、そういう気が強いとこ、たまんない。……君だけを悪者なんかにしないよ」


 フーの小さく暖かな手がウランドの背中に回った。

 フー「アハハ……うちら、バカだね……」

 ウランド「……言われ慣れてる」

 フー「……だろうな」


 その時だった。


 突然、空の色が鈍色に変わり、鳴り響いていた讃美歌は断末魔に一変し、穏やかだった草原に地響きが鳴り始めた。

 ウランド「今度は何……?」

 フーは立ち上がり空を仰いだ。


 フー「……これまで仙人みたいに一定だった欲求が変化した! 螺羅ロロに限って考えにくいけど、たぶん現実世界で"精神世界を揺るがすほどの何か"があったんだ!」


 内心、ウランドは舌打ちした。

 ウランド(リケさんかトウジロウのやつが俺のフォロー(ロロ討伐)に入ったのか……? リケさんはいいとして、トウジロウだったら貸し作るの面倒くさい……)


 フーはウランドを振り返った。

 フー「ウランド! 今のタイミングなら、術のために開けてる入り口が見つかるかも!」







あー……ついにやっちまいましたね、ウランド。

女性の敵ってきっとこういうやつですよね。男性からしたらうらやましい……のか!?

はたしてあのヨトルヤとの関係は崩れてしまうのかー!?


……とまあ、この小説で恋愛はまったく重要な要素ではありませんが、絡むとそれはそれで人間味が出ていいなと考えています。


そんなこんなで次回は本編29話! 2/10更新予定です!

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