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W・B・Arriance  作者: 栗ムコロッケ
悪魔の薬編―パンゲア大陸到着編―
44/72

25.1.trick beat―びょうきになったかげ1―

"最強の七人の魔導師グランドセブン"召集の命に就いたシェン。

そのうちの一人、"共食い"グレンに接近するために、吸血鬼排他主義団体"ヴァンピール"の本部に向かう、シェンたちは……?


リンリン「モリンジ、お手!」

リンリンの差し出した妖精サイズの小さな手のひらに、大きな狸の鼻先が触れた。

リンリン「違うってばあ!」


一人騒いでいるリンリンを横目で見ながら、白髪に蒼白い顔の草臥れた男、ジェフは欠伸をした。

ジェフ「あー、名前つけたのか? もうお前のペットにしちまえよ、妖精」

リンリンは目の前の狸の化け物に目を向けた。疎らに生えた黒い体毛の、大人の男ほどの体長にぼてっと出っ張った白い腹、飛び出したまんまるの目に、突き出した鼻と大きく裂けた口。

リンリン「……よく見たらかわいいかも? ねぇー、シェン」


前を歩く真っ赤な中華服に赤茶色のツンツン頭は振り返えろうとしなかった。

シェン「ダーメッ! そんなデカイペットは飼えないよ」

リンリン「見てみてよ~! かわいいよ~」

シェン「……みない」

ジェフは眉根をよせ、小声でシェンに尋ねた。

ジェフ「どうしたんだー? 急に愛想悪くして」

シェン「だって……、"もりんじ"なんて名前、ちょー可愛いじゃん」

ジェフ「は?」

シェンは顔を覆った。

シェン「ダメだ、誘惑に負ける、俺だってホントはモリンジのやつを飼いたいさ! 助けて、ジェフ」

ジェフはため息をついた。

ジェフ「知らねえよ……」

二人の会話など聞こえないリンリンは頬を膨らませた。

リンリン「シェンのけちんぼ」






山深い山中。鬱蒼と生い茂る木々。太陽は大分高く上っていたが、薄曇りで、木々の下は少し暗かった。ひんやりとした緑と土の匂いが心地よい。

黙々と歩みを進め、暫くすると、樹齢何百年だろうか、一際大きな木が見えた。


リンリン「わあ! おじいちゃん木だ! こんにちわ!」

ジェフは笑った。

ジェフ「不思議ちゃんってやつ? 初めて見た」

リンリンはジェフの頭をぽかぽかと殴った。

リンリン「ちーがーうーわっ! 妖精はあんたみたいなデカイだけのボンクラと違って木霊と話が出来んのよっ!」

ジョリジョリと顎を擦り、ジェフはニヤニヤと笑った。

ジェフ「へぇ、木霊って、樹木の魂みたいなやつだろ? お前、生意気だけど結構不思議な存在だな……ようはやっぱり不思議ちゃん」

リンリン「ばーかばかーーー!」


シェンは突然二人の話題にしていた大木に向けて走り出した。

リンリン「もーっ! あんたがしつこく話しかけるからシェンがヤキモチ焼いちゃったでしょっ」

ジェフ「……ちげぇ」

ジェフも走り出した。

リンリン「えっ!? 何々っ!」

ジェフ「誰か倒れてやがる」


――遠目では見えづらいが、あのクリーム色のローブは、ヴァンピールの団服!


一番に駆け寄ったシェンは目を細めた。クリーム色のローブから覗く血色の悪い白い肌、殆ど白に近いブロンド、その少女はまるで刑務所で出会った女吸血鬼"女王蜂"を彷彿とさせた。


少し遅れて駆け寄ったジェフの声は少し上ずっていた。

ジェフ「エミリー!?」

シェンは空を見上げた。

シェン「知り合い?」

ジェフ「ああ、最近入団した娘だよ、"半吸血"に"なったばかり"で、まだ本部で療養中のはずだ」

エミリーを抱き上げようとしたジェフの手はピタリと止まった。エミリーの体はまるで蜃気楼のように、"そこに確かにあるのに触れられなかった"。

ジェフは自分の手とエミリーを交互に見た。

ジェフ「あ?」


シェンは空を見上げたまま、口を開いた。

シェン「……"魂体"だよ、生身じゃ触れられない」

ジェフ「なんだそりゃあ」






シェンはリンリンに大き目の葉を取ってくるように指示し、自身の赤い中華服を脱ぐとエミリーに被せた。

シェン「魂だけの状態、このままだと天使に喰われちまう」

ジェフは空を見上げた。なるほど、"白い羽の化け物"が上空を旋回している。

シェンはエミリーに被せた中華服を少し捲るとエミリーの顔を見つめた。まだあどけなさの残る少女だった。

シェン「オマケに"魄"がない、それも探して肉体に戻さないと」

ジェフ「ハク? なんだそりゃ」

シェン「生き物って、精神体である"魂"と、魂と肉体を仲介する"魄"、そしてそれを入れる器である"肉体"で構成されてるんだ、どれも不可欠。"魂"って、さっきリンリンと木霊の話してたろ? あれと同じ」

ジェフはエミリーに目を落とした。

ジェフ「木霊は見えねぇのに人間のは見えんのか? つーかお前の服はなんでエミリーに触れられる」

シェン「俺はもともと見える体質だけど、多分ジェフにも見えるのはこの老木の霊気のせいだろ。あと、この服は道士のモンだからさ」

ジェフは頭を掻いた。

ジェフ「……なんか急にオカルトだな」

シェン「魔法圏だとそう感じるかもなあ、神使教からすれば、オカルトでもなんでもない、実際に起こってる"現象"だけどね」

ジェフ「……お前、やっぱ道士なんだ?」

シェンは笑った。

シェン「違うよ、知り合いに道士はいるけど、にわか知識だよ」

遠くでリンリンの甲高い声と、リンリンの後を追いかけるモリンジの足音がした。

リンリン「シェン! 葉っぱ取ってきた! これなら十分じゃない?」

リンリンは自分の背丈より高い縦長の葉を抱え、よろよろとシェンの肩に着地した。

シェン「ナイス! リンリン」

シェンは指先を噛み血を出すと葉に模様を書き始めた。――その時だった。






リンリン「わーっ! こら、モリンジ!」

モリンジは以前シェンに変身して見せた変身能力でエミリーと瓜二つの姿となった。モリンジが読み取ったエミリーの姿はどこか内気そうな、それでいて神経質そうな印象の少女であった。

エミリーの姿であるモリンジはエミリーを見つめた。

ジェフ「そっか、こいつは記憶も読み取るんだったな……おい、化け狸、エミリーに何があった?」

リンリンはジェフの頬を引っ張った。

リンリン「モリンジだって言ってるだろーっ!」

ジェフ「いてて……わかったからちょっと待てって……」


突然、モリンジの肩が震えた。

ジェフ「おい?」

シェン「おい、エミリー、わかるか?」

振り返ると、魂体のエミリーがムクリと起き上がっていた。目を擦り、目の前の自分と瓜二つの姿をしたモリンジを見つめた。魂体のエミリーは見た目の印象からは想像もつかない邪悪な笑みを浮かべた。

エミリー「こんなところにいたの? "エミリー"」

シェン「ん?」






すると、エミリーはモリンジ目掛け走り出した。

シェン「待て、エミリー、それはお前の肉体じゃない!」

エミリーの魂体はエミリーの姿をしたモリンジを抱き締めるようにスゥと消えた。その途端、モリンジはエミリーと同じ金の髪を振り乱し天を仰いだ。


モリンジ「アハハハハ! アハハ! やっと肉体を手に入れた!」

響く少女の笑い声。


ジェフ「なん、」

シェンはまずい、と頭を掻きながら中華服を羽織った。

シェン「やべえ! エミリーの魂体がモリンジの肉体を乗っ取っちまった」

ジェフはもう訳がわからないと頭を押さえた。

ジェフ「乗っ取ったとか、悪魔じゃあるまいし」


モリンジは指を差して更に笑った。

モリンジ「エミリーって、誰だよバァーカ」

シェンは子どもをあやすようににこりと笑った。

シェン「ん? じゃあお前、モリンジか……?」

モリンジの目は青く光り、広げた白い細腕は、みるみる、病的な蒼白さを増していった。そして、背中から広げられた蝙蝠の羽。

ジェフはサーベルを取り出した。

リンリン「ちょっと!? モリンジ傷つけないでよ!」

ジェフの瞳も赤く光り出した。

ジェフ「……ありゃあダメだ、"吸血鬼化"してやがる」

モリンジは金の髪をかきあげた。




モリンジ「アタシは"アズ"、エミリーはもうこの世に存在しない」

ジェフ「アズだかなんだか知らねえが、吸血鬼は殺す」







なんだかごちゃごちゃですが、


モリンジ(24.X話の狸の魔物)がエミリーに変身。

魂体のエミリーがエミリーに変身したモリンジを乗っ取り、

「アズ」と名乗っている、

というややこしい状況です。


はたしてアズは何者で、本物のエミリーはどうなっているのか?

次回は10/14、25.2話更新予定です。

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