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W・B・Arriance  作者: 栗ムコロッケ
悪魔の薬編―パンゲア大陸到着編―
42/72

24.3.trick beat―しんせつなやまごや3―

いなくなったリンリン、姿の見えない魔物。さて、どうするシェン?



シェン「おーい、リンリン、返事しろー」

山深い山中の浅い谷底。雨上がりの深夜、雲の流れは早く、月が見え隠れし、辺りは虫たちの大合唱。


ジェフはばつが悪そうに頭をポリポリと掻いた。

ジェフ「……やべぇ~……"螺鈿"の巻き添え食らったか……?」

シェン「それは大丈夫だって、つーか、幻術かかって怯えてるかも、早く見つけてやんなきゃ」

ジェフはため息をついてサーベルを肩に乗せた。

ジェフ「多分、幻術解いたほうが早い、なんせ声まで別人に感じるからな」

シェン「わかった! 俺ちょっと探してくる! 幻術解いといて!」

ジェフが返事をする間もなく、シェンは繁みの中に消えていった。

ジェフ「おいおい……、わかってねえよ……」


既に塞がりかけている手首の傷に再びサーベルの刃があてられた。ポタポタと赤い斑点がジェフの足元に落ちて行った。ジェフはニヤリと笑って辺りを見回した。

ジェフ「"半吸血ヴァンピール"の穢れた血だぞ、呪われたくなけりゃあ消えやがれ」

普通であれば血の臭いを嗅ぎ付け魔物たちが集まってくるものだが、その気配はみるみるうちに遠ざかって行った。ジェフは自嘲ぎみに鼻で笑った。

ジェフ「お利口だ」

その時だった。背後でカサカサと繁みの擦れる音。

ジェフ「そこか」

ジェフはサーベルを握り直し、飛びかかった。振り下ろしたサーベルが捉えたのは、

ジェフ「げっ」

ジェフはギリギリのところでサーベルの刃を止めた。刃の直ぐ下には――ミニマムサイズの、自分の憎むべき吸血鬼。そんなはずはない、とジェフは一度深呼吸をした。恐らく、これはリンリンだろう。

ジェフ「なんだよ、まぎらわしいやつだな」

リンリンは涙をポロポロと溢しながらジェフを睨み付けた。ジェフは慌ててサーベルを退いた。

ジェフ「わ、わわ悪かったって……」

リンリンはジェフに向かい両手をかざした。

ジェフ「ん?」

リンリン「"キラキラキャンディー"!」

リンリンの小さな両手からビー玉ほどの大きさの光の玉が飛び出した。ジェフは思わずキャッチした。そしてキャッチした手のひらを開くと光の玉は割れ、ネバネバとした光の糸の固まりとしてこびりついていた。その光の糸の一部は束となってリンリンの手まで繋がっていた。


リンリン「えーいっ!」

光の束を手に、リンリンはジェフの回りを何度も飛び回った。

ジェフ「おいおい」

光の束にぐるぐる巻きにされ、ジェフは尻餅をついた。光の束を引きちぎろうと力を込めるが、ゴムのように弾力があり、びくともしない。

ジェフ「妖精、何すんだ……」

涙に濡れた青い瞳は怯えていた。

リンリン「よくも私たちの森を!」

ジェフ「あ?」

ざわざわと、草木が揺れる。リンリンは両手を上げた。









シェン「やめろ、リンリン」


茂みを割って飛び出した真っ赤な中華服――ジェフには憎き吸血鬼にしか見えないが。リンリンはシェンに怒りに震える瞳を向けた。

リンリン「おまえは、こいつの仲間だったやつ……!」



ジェフ「あー、まだ幻術にかかってんのか、つーかこの"キラキラした縄"なんとかしてくれ」

シェンはリンリンから視線を外さず答えた。

シェン「妖精の"いたづら魔法"だ、ナイフでも切れないよ、本人に解いてもらわないと」

ジェフ「あー、幻術が効いてるってことは、まだ本体は近くに居やがるな」


リンリンは再び両手を上げた。シェンはジェフのそばに落ちていたサーベルを拾い上げた。

シェン「落ち着け、リンリン、お前の森を壊したやつらはみんな"妖精の呪い"で死んだ、"お前の見ている俺たち"はこの世に存在しないはずだ」

リンリン「うわああ!」

リンリンの慟哭に呼応するかのように、木々がざわめき、緑が重なり、それは巨大なドラゴンに姿を変えた。

ジェフ「げっ」

緑のドラゴンはその巨大な口を開けた。

シェン「しかたない」

ジェフ「お、おいおい」

シェンはサーベルを構えた。

シェン「妖精が翅を震わせているときは怒り狂ってるときだ、話じゃもう止めらんねぇ、こっちが殺られる」

ジェフはシェンの頭のてっぺんから爪先まで見回した。

ジェフ「……翅? お前、なんで幻術に掛かっていない?」

そういえば、小屋のあった地点からは大分距離がある、先のシェンの推測であれば、テリトリーの外なのだから幻術などとうに解けているはず。だが、ジェフもリンリンも解けていない。

ジェフ(本体が移動した……それも"近く"に……?)

ジェフは光の縄で両腕が不自由なまま、よろよろと立ち上がった。

シェンがパチンと指を鳴らした瞬間、ジェフの目の前の二匹の憎き吸血鬼の姿はそれぞれシェンとリンリンの姿へと変わった。

リンリン「え……シェン!?」

シェン「リンリン! 止めろ!」

リンリンは慌てて緑のドラゴンの頭を撫でた。緑のドラゴンはたちまち無数の木の葉に姿を変えた。飛び散る木の葉のあまりの数に、視界は塞がれた。


リンリン「わーん! シェン! ごめんねぇ」

ジェフ(木の葉で前が見えねえ!)

木の葉の滝の奥で響く甲高い声。チャキ、とサーベルを構える僅かな金属音。ジェフは叫んだ。


ジェフ「妖精! そいつはちげぇ! 偽物だ!」






「あったり~」



同じ声が、二つ、重なって聞こえた。

やがてすべての木の葉が地面に積もり、現れたのはサーベルを構えたまま固まるシェンと、そのシェンの首もとに赤い棍をかざす、これまたシェンだった。

リンリン「シェンがふたり?」

サーベルを持つシェンは視線だけ、自分に棍を突きつける、自分と同じ姿の男を睨み付けた。

シェン「みんな、こいつが偽物だ」

棍を構えるシェンはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

シェン「俺がリンリンに武器なんて構えっかよ」

そうしてくるりと回転した棍の先はバシンと音をたててサーベルを叩き落とした。武器を失ったシェンは腫れた手を押さえながら後ずさった。

シェン「リンリン、お前だけでも逃げろ」

リンリン「……シェン!」

二人のシェンの間にリンリンは立ちはだかった。だが、そのまま言葉を探すように黙りこんでいた。棍を肩に担ぎ、シェンは腰に手を当てた。






シェン「頭のいい魔物だなあ、人の記憶引っ張り出して、オマケに解釈して演じる、賞金首魔物クリミナルモンスターでもおかしくねぇわ」

ジェフ「……この山に賞金首魔物なんていねぇはずだ」

シェンはニヤニヤと笑いながら「ふーん」と相づちをうった。そしてリンリンに視線を向けた。

シェン「リンリン、ちょっと危ないからジェフと避けてて、あとジェフの魔法解いてやってよ」

リンリンは目を見開いた。手を腫らしたシェンはすかさず口を開いた。

シェン「リンリン、そいつは偽物だ、アーティファクトを盗られた、危ないからにげ、」

リンリン「偽物はお前だっ! べーっだ!」

リンリンは舌を突き出すとジェフのもとへ飛んだ。


リンリン「そのまんまでもイイ気味だけど、シェンが解けって言うから解いてあげる」

ジェフはやれやれとため息をついた。

ジェフ「……なんで分かった?」

リンリンは胸を張った。

リンリン「本当のシェンなら、"ついでにあんたも"心配するもの」

さきほど偽物のシェンはリンリンに「お前だけでも逃げろ」と言った。近くにジェフがいるのに。本物のシェンであれば例え両腕を塞がれ不自由なジェフも見捨てたりはしない。リンリンは微笑んだ。

リンリン「だから、あっちがホントのシェン」



シェンは赤い棍をクルクルと回した。

シェン「もう二度とこんなことすんな、エサは別の方法で取れ、であれば見逃してやる」

ジェフ「オイオイ……魔物にそんなん通じるかよ」


偽物のシェンはみるみるその姿を崩し、疎らに黒く長い体毛が生え、鼻は前に突きだし、口は避け、目は飛び出し、細長い何節もの手足に巨大な腹。

その額に乗せていた深緑の木の葉はあっという間に茶色く風化した。


『人間、我、捨テタ、暖カイ、部屋、美味シイ、ゴハン、無クナッタ、腹減ッタ、寒イ、人間、憎イ』


ジェフ「……人語を話せるのか、確かに頭はよさそうだが、……これをペットにしていたのか?」

リンリン「……た、確かにペットにするほど可愛くはないよね」

シェンは魔物の体が傷だらけであることに気付いた。そしてそれらの傷は人為的に縫合された痕があった。

ジェフ「何かの実験材料か……?」

シェン「……お前を捨てた人間ってのは?」


『ヴァンピール』






ジェフはきょとんと目の前の魔物を見つめた。

ジェフ「は……?」

魔物を見つめながら、シェンはぽつりと呟いた。

シェン「本部はこの山の中って言ってたよな? お偉い方は何やってんだ?」

ジェフは頭をポリポリと掻いた。

ジェフ「まあー、聞いてみるしかないだろ、つっても、はぐらかされるだけだろうがな」

シェンは笑った。

シェン「大丈夫だろ、"証拠"を持って行くから」

一同は目の前で震える魔物を見つめた。







次回は久々の本編更新。25話です。またまたバトルはありません。裸のおじさんがでてきます。なんだこのファンタジー小説(笑)


次回は10/1更新予定です。

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