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W・B・Arriance  作者: 栗ムコロッケ
悪魔の薬編―パンゲア大陸到着編―
38/72

23.3.trick beat―くびとりリーシェル2―

シェンの考えた秘策とは…?



「あの人、首持ってくるかな?」

「桃花源の服は来ていたが神使教徒には見えなかったな、半吸血ヴァンピールでもなさそうだし、……無理だろう」

「賭けるか」

「ハハハ、誰が"持ってくる"ほうに賭けるっていうんだ」


玄関のノッカーの音が響き、応対に出た男は苦笑いしながらリビングに戻ってきた。

「全員負けだ」

そう発言する男の背後から顔をだしたのは賭けの対象となっていたあの桃花源人。


その桃花源人――シェンはいつものように屈託なく笑った。

シェン「負けってなに? 賭けでもしてた? ちょっとちょっと~! 誰か一人ぐらい俺が戻ってくるほうに賭けてよ~!」

陰気なリビングは、暗闇に蝋燭が灯された幻想的な雰囲気を一蹴する、不釣り合いな明るさに無理矢理独占されたようだった。

黒いダイニングテーブルの奧に腰掛け、これまでのやり取りを静観していた白髪ひげ面のリーダーの男はシェンの手元に目をやった。

白い、少し大きめのケーキボックスのような箱。シェンはニヤリと笑い、白い箱をテーブルに置いた。

シェン「持ってきたよ」






◆◆◆


――とある地方の刑務所。数十メートルはある超巨大巻き貝を改装して作られた収容所の最上階。

いつものように巡回にやって来た警備員は、この刑務所一番の大物が収容された牢獄の様子を見、目を剥いた。


牢獄の真ん中で、床にあぐらをかき、珍しくこちらを向いているかと思ったところだったが、どういうわけか牢獄の主の、首から上がすっぽりと"ない"。


「ぎゃーーーっ」


警備員は慌てて螺旋階段を逃げ降りた。


女王蜂(ウルサイのう……まだか、シェン殿)


女王蜂は心の中でため息をついた。そうして"暇つぶし"に、シェンが牢獄に来たときのことを思い返した。


。・゜・。・゜。・゜・。・゜。・゜・。・゜。・゜・。・゜。・゜・。・゜。・゜・。・゜






シェン『首を取ってこいとは言われてない、持ってこいと言われたんだ』


女王蜂は首を傾げた。


女王蜂『どういうことだ?』


シェンはニヤリと笑った。


シェン『俺、"補助魔法"使いなんだ、補助魔法ってどんなかってあんまり知られてないんだけど、』


女王蜂『瞬間移動したり、眠らせたりさせるやつだろう、私を狩りに来た魔導師がそのようなことをぬかしていた』


平然と言ってのける目の前の囚人に、シェンは「やられた!」と苦笑いのような、それでいてやはり屈託のない笑顔を向けた。


リンリン(その魔導師は返り討ちにしたってことだよね……怖っ!)


シェン『ハハ! じゃあ話が早い、ようはその"瞬間移動"だよ』


シェンは呪文を唱え始めた。


シェン『時空扉マジックワープ


すると、シェンの目の前と牢獄の中の女王蜂の背後に、帽子の穴程の大きさの、渦を巻いた黒い煙のようなものが現れた。


そして、シェンの目の前の渦に、これまた帽子をかぶるように、シェンは頭を突っ込んだ。


シェン『こっちこっち』


女王蜂が振り返ると、自分のすぐ後ろの黒い渦から目の前にいるはずのシェンの首だけひょっこりと飛び出していた。


女王蜂『首が斬れたりしないのか?』


シェンは屈託なく笑った。


シェン『やろうと思えばできるけど、そんなことしないよ、そしたら俺がウランドのやつに首ちょん切られるからさっ』


女王蜂はクスクスと笑った。


シェン『これと同じことを、』


牢獄越しのシェンの体が、持っていた白い箱を指差した。





シェン『この牢屋とこの箱でやる、お前はただこの"穴"に顔突っ込んで、目ェ瞑ってたらいいわけ、あ、血糊はまぶすからよろしく』


女王蜂『なるほどな』


。・゜・。・゜。・゜・。・゜。・゜・。・゜。・゜・。・゜。・゜・。・゜。・゜・。・゜






リーダーの男はその美しい首に絶句した。

「こいつは……女王蜂!」


他の団員がざわめき始めた。

「賞金ランクBの大物じゃないか」

「自首したって聞いたぞ」

「刑務所に収容されているんじゃないのか?」


リーダーの男の鋭い瞳がシェンを映した。シェンはニッコリと笑った。

シェン「わざわざこんな"凝った"獲物差し出すくらい本気ってこと!」

白い箱の蓋を閉じ、団員が持ってきた神使教の護符を何枚も貼り、――蓋を閉じられた時点で既に"空"となっている箱は団員によって慎重に部屋の奧に持っていかれた。


その団員の背中をしばらく見送り、一つため息をつくと、リーダーの男はニヤリと笑い、シェンに向けてこう言った。

「入団を歓迎しよう」






◆◆◆


収容所一番の大物の異変とあって、刑務所の上層部全員が慌てて女王蜂の牢獄へ集まった。

確かに首が、ない。


その時だった。

女王蜂「ふぅ」

"黒い渦"から、スポリとフルヘッドのヘルメットを脱ぐように頭を出した牢獄の主は、目の前に集まる刑務所の上層部たちと目が合った。


「ぎゃーーーっ」


檻の前の上層部たちはいっせいに卒倒した。

目の前の光景に、訳が分からないと呆ける女王蜂のその顔は血糊まみれだった。


女王蜂は苦笑した。

女王蜂「関係者に話くらい通しておいてくれ、シェン殿……」







こうしてうま~く潜入したシェン。


ここからどのようにグレイに近づいていくのか?


次回はひさびさ本編。9/3更新予定です。

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