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W・B・Arriance  作者: 栗ムコロッケ
悪魔の薬編―パンゲア大陸到着編―
37/72

23.2.trick beat―くびとりリーシェル―

吸血鬼の首を持ってこい、と言われたシェン。


首なんて持ってきたら殺人犯だし、

そもそも吸血鬼の知り合いなんていない。


どうするシェン!?



トランプ本部 ハートのエース執務室。


静かな部屋に、響くノックの音。


「エース」

顔を出したのはハート軍の秘書官。事務処理に追われデスクとにらめっこをしていたウランドは顔を上げた。

ウランド「はい」


「外線です、スペードのキングから」


ウランドはきょとんと秘書官を見つめた。

ウランド「はあ……?」






リンリン「もーっ! なんであんなやつに協力してもらわなきゃなんないのさっ!」

目の前でプリプリと怒る小さな相棒の様子に、シェンはさも面白いものを見るように笑った。

シェン「なに怒ってんの?」

リンリン「あたしアイツ嫌ーい! シェンのこと苛めるんだもんっ!」

シェンは少し沈黙し、考え込んだ。

シェン「え……俺苛められたっけ?」

リンリン「もう! 何でもかんでも良い方にしか捉えないんだからっ!」

シェンは腹を抱えて笑った。

シェン「アハハハ! お前の妄想は毎回面白れぇな!」

リンリン「妄想じゃなあーいっ!」

シェンは笑いすぎて出てきた涙を拭き、「さてと」と目の前の建物を見据えた。建物の入り口には次のような看板が掲げられていた。


―刑務所―



全く緊張感のない様子に、刺さる周囲の警備員の白い視線を背中に受け、だが全く気にする様子もなくシェンとリンリンは建物の中に歩を進めた。






出迎えたのは所長だった。

所長「これはこれはスペードのキング、このようなしがない地方の刑務所にようこそいらっしゃいました」

シェンは口を開きかけたが、目の前の有名な魔導師に興奮した様子の所長は遮るように言葉を続けた。

所長「ハートのエースよりお話は伺っております」

シェンは軽く口笛を吹いた。

シェン「さすが」


所長に案内されたどり着いたのは、数十メートルはある巨大な巻き貝を改装し、内側の壁に取り付けられた螺旋階段に沿って、家畜の小屋のような牢獄が並ぶ収容施設。巻き貝の天辺は太陽の光を透かし、仄かな舞台照明のように巻き貝の底にいるシェンたちを照らした。シェンはリンリンを服の中に入れた。

シェン「いい子だから静かにね」

リンリンはシェンの服越しに小声で返事をした。

リンリン「はあーい」

所長「最上階になります、少々長い階段ですが、ご足労願います」

シェン「オッケー」


螺旋階段を歩く、警備員以外の人間。数年ぶりに目にするその姿に、囚人たちは思い思い一斉に騒ぎ始めた。ちょっかいをだそうと牢屋から腕を伸ばす者、唾を吐く者、罵倒する者、意味不明な奇声をあげる者。囚人たちの騒ぎに、巻き貝は振動した。リンリンは鼓膜が破けるかと思った。

リンリン「シェン、大丈夫~?」

シェンは服の上から「大丈夫だよ」と返事を返すように、軽くポンポンとリンリンを撫でてみせた。

リンリン「ムギュッ!」


所長「着きました」

シェンが足を止めたため、リンリンはシェンの首もとから顔を出した。

所長「"女王蜂"です」









巻き貝の最上階。天井から降る仄かな光に照らされ、こちらに背を向けて光を見上げ、淡く反射するアッシュがかった金髪に細い身体は聖女像を彷彿とさせた。

所長は鞭を檻めがけ打った。

所長「おい、"女王蜂"! てめえにお客様だ」

"女王蜂"は背を向け、天井を見上げたまま微動だにしなかった。

所長「聞け! この……」

更に振りかざした腕を、シェンの手が掴んだ。

シェン「いーよ、案内ご苦労さん」

所長は落ち着きなくハンカチで汗を拭き、恐縮した。シェンは牢獄の中に目をやった。


シェン「頼みがあるんだ、"女王蜂"」

牢獄の主から反応はなかった。

リンリン「シェンを無視とか、あんた何様なのよっ」

シェンは吹き出しそうな笑いをこらえた。

シェン「それ寧ろ俺が何様なんだよ」

リンリン「シェンは黙ってて! 女同士の戦いなのっ」

シェンはさらに笑いをこらえた。

シェン「はいはい、どーぞ」


リンリンは本物の聖女像のようにピクリとも動かない牢獄の主を睨み付けた。

リンリン「あんた話聞いてんのっ」

貝殻の底の、施設の出入口から緩やかな風が吹き上げた。それは"聖女像"の細かい金の髪を僅かになびかせた。だが、"聖女像"が本物の石像でないことがわかるのはそれだけだった。リンリンは頬を膨らませ、腕を組んだ。

リンリン「捕まえた魔導師がああなら捕まったやつもこうだわっ!」

シェン「いや、ウランドは逮捕はしてないぞ」


女王蜂「ウランド?」






アッシュがかった金の髪をなびかせ、すがるように白く細い指が檻に絡み付いた。深い空色のどんぐり眼が、求めるように視線を向けた。犯罪者、とするには余りに幼すぎるような印象の16、7ほどの少女だった。か細い、鈴を転がすような声が牢獄に響いた。

女王蜂「ウランドがきているのか」


シェンは違う違うと笑った。

シェン「大丈夫大丈夫、お前をこんなとこにぶちこんだ張本人なんて、連れて来ちゃあいないよ」

女王蜂の表情は一瞬にして暗く曇り、その場に崩れ落ちてしまった。

シェン「あれ?」

リンリンは目の前の少女の様子をまじまじと見つめた。

リンリン「ウランドに会いたかったの?」

悲しみに沈んだ青い瞳がリンリンを捉えた。

女王蜂「……ウランド殿に会ったことがあるのか? 最近か? 怪我の経過はいかがなものか? ……私のことを、何か言っておったか?」

シェンは女王蜂と目線を合わせるようしゃがみこんだ。

シェン「ピンピンしてるよ、お前のことは確かー……、"素直でいい子だから苛めるな"って言われて来た」

空色のどんぐり眼が輝いた。

女王蜂「お主、ウランド殿に言われて来たのか? 如何なる用だ」

リンリンはシェンのえりぐちで頬杖をついた。

リンリン「別にあんたを釈放とかじゃないから」


女王蜂はきょとんとリンリンを見つめた。

女王蜂「釈放? ハハ、そのようなことは考えもしていない、罪を償うと約束したからな、ウランド殿と」

女王蜂はその"約束"した時のことを思い出したのか、どこか嬉しそうだった。リンリンは眉根を寄せた。

リンリン「……残念だけどさ、あいつには」

女王蜂「わかっている」

女王蜂は再び光差す天井を見上げた。

女王蜂「指輪をしていた、わかっている、だが、日増しに想いは募るばかりだ、それが、今、私の生きる希望でもあるのだ、……わかっては、いるのだ」


リンリンはシェンの頬をつねった。

シェン「いてっ!」

そうしてシェンの服の中から飛び出すと檻の前までふわりと飛び、小さな右手を差し出した。

リンリン「わかる、決して一番にはなれないの! "二番目"なのっ!」

シェン「なにがわかるんだ?」

リンリンはツンとそっぽを向いた。

リンリン「男の子は黙っててくださーい!」


差し出したリンリンの小さな手のひらに、"リンリンにとっては巨大な"女王蜂の人差し指が重ねられた。女王蜂はニコリと笑った。

リンリン「あんたとはいい友達になりそうねっ! 恋敵ライバルにもなりえなさそうだしっ!」

シェン「仲良くなったところで、そろそろ本題いいか?」

女王蜂はシェンに顔をあげ、微笑んだ。

女王蜂「聞こう、お主の頼みを聞くことが、ウランド殿の頼みとあらば」






シェン「"共食い"を知ってる?」

女王蜂「吸血鬼とあれば見境なく殺して回っている同胞だな、幸い出くわしたことはないが」

シェン「俺はそいつを捕まえなくちゃいけないんだ、近づくために"ヴァンピール"に入りたい」

女王蜂はクスリと笑った。

女王蜂「私の首を取ってこいとでも言われたか」

シェン「察しがいいな」


静かに目を閉じ、女王蜂は俯いた。

女王蜂「……ウランド殿の役に立てるなら、喜んで差し出そう」


シェンは慌てて顔の前でヒラヒラと手を振った。

シェン「違う違う! そんなことしたら俺が殺人魔導師になっちまうよ! こっからホントの本題!」

ではどうするのと女王蜂は不思議そうにシェンを見つめた。シェンは楽しいイタズラを思い付いたら子どものように笑った。

シェン「別に首を取ってこいとは言われてない、"持ってこい"と言われたんだ」







女王蜂がだれかわからない方は20.X話をご覧ください~!

さてさて、シェンの秘策とは!?


次回は8/27更新予定です~!

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