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W・B・Arriance  作者: 栗ムコロッケ
追撃者編
26/72

17.2.N.B-Chase―とあるテーブルにて―

裏ギルドに向かう途中、目的地を同じとする女性エテルとであったリケは…。



その裏ギルドは街の文書上何年も廃屋のままであるはずの場所であった。


どこの裏ギルドでも共通だが、この独特の、陰気でいて身の危険や不安を肌で感じさせる空気。


仕事で当然のように利用しているリケはいつも同じことを思っていた。


リケ(慣れないなあ…)


リケはチラリと隣を見た。


この裏ギルドへ来る途中、同じ場所を目的地とする女性、エテルと出会い、道に迷っていた彼女と来たのだが、


リケ(ワケありか、犯罪者か)


エテルはキョロキョロと落ち着かない。


リケ「コーヒーでも頼みましょうか」


二人は近くの席についた。


周囲は荒くれどものドンチャン騒ぎでうまい具合に女二人の存在を薄めていた。


リケ「エテルさんはどうしてここへ?」


エテルは輪をかけて挙動不審になった。


エテル「どどどどうしてそんなことを聞くッスか!?」


リケ「素人っぽいから」


エテルは唇を噛んだ。


リケ「安心して、私はこういう者よ」


リケは胸元の魔導師バッチを指差した。


エテル「ま…魔導師!」


エテルは拗ねたように唇をつき出した。


エテル「魔導師がこんな素人に何の用ッスかっ」


リケは少し天井を見てからニコリと笑った。


リケ「魔導師というより一個人として、心配しているだけ。

   女一人でこんなところ、人生を棒に振りにきただけよ」


エテル「…ほんのちょっと前にすでに棒に振られたッス」


リケ(…)

  「ここへは何をしに?」






エテルはゴクリと生唾を飲み込み、一呼吸置いてから、これまでのフワフワとした自身の雰囲気を一変させた。


エテル「ある男に懸賞金をかけに来ました」


リケ(なるほど、私怨か)

  「ハンターズギルドには?」


エテル「断られました、功績を挙げている賞金稼ぎだから私怨で賞金首になんかできないって」


リケは眉ねを寄せた。


リケ「功績を挙げている賞金稼ぎ?誰なの?」


エテルは組んだ両手を力一杯握りしめ、うつむいた。


その声は更に低くなった。


エテル「"狂犬"ハイジ」


リケはその単語を聞いた瞬間、危険だ、止めなければと思った。


リケ「…彼に怨みが?」


エテルは目に涙を溜めた顔を上げた。


エテル「リケさんは、大切な人を他人の手にかけられたことはありますか?」






リケの両親、弟妹、祖父母ともに健在だった。


リケ「そうねぇ…」


エテル「じゃあ…好きな人は?」


リケ「いるかもね」


だが、"その人"が他人に手をかけられるなんて到底想像もつかなかった。


エテル「…魔導師さんにはわからないッス」


リケ「…友達や仲間は何人も失ったわ」


エテルはリケを見た。


店員が乱暴にコーヒーをテーブルに置いた。


リケはコーヒーを一口飲んだ。


リケ「家族と同じくらい大切な人たちだった」


エテル「…相手に復讐したいと思わないッスか?」







リケは笑った。


リケ「その人たちが選んだ道だったからね」


エテル「選んだ道じゃなかったら…?」


リケはニコリとエテルを見た。


リケ「私はこう考えるわね、その人たちが今の私をみたら何て思うか」


エテル「…なんて思うスか」


リケ「"自分の仕事をしろ"かな、もっと自分のことを考えてって、そういう意味」


エテルは俯いた。


その目からは大粒の涙。


エテル「でも、悔しくって、悲しくって、ムカついて…」


リケ「…魔導師の根性論だけど」


エテルは顔をあげた。


リケ「耐えなくてはダメ。

   相手にも、大切に思われている人がいるかもしれない、

   その人に対して、エテルさんは同じことをするの?」


エテルは眉をつり上げた。


エテル「エテルだけガマンッスか…?」


リケは背もたれに寄りかかった。


リケ「あくまで魔導師の根性論だよ、

   結局のところあなたがどうするかはあなたが自分の責任で決めていくしかないわ、ただひとつだけ、」


リケはエテルを見た。


リケ「"この世界"に足を踏み入れることを、恐らく誰も歓迎はしない」


どうか考え直してくれ、リケは強く願った。


エテルは笑った。






エテル「エテルにはもう、この道しかないっス」


リケ「…」


こういう仕事に関わっていると少なからず裏社会の被害者と直接関わることがある。


そんなとき、リケは必ず彼らが身を落とさないよう、少しでも前を向けるよう、なんとかしたいと思ってきた。

だが、それがうまくいくことはまずなかった。

所詮リケは犯人を捕まえるだけの人間であり、彼らからしてみれば全く外野の、赤の他人なのだ。

彼らの怒りや悲しみや憎しみは、彼らにしかわからない。


エテル「…リケさんはどうしてここに?」


リケ「…ちょっとね、人を探していて」


エテルは席についてから初めてコーヒーをすすった。


エテル「どんな人ッスか?」


リケ(どんな人か…)

  「こう、恰幅のいい感じの」

  

リケは腹回りの太さをジェスチャーしてみせた。


エテル「そんな人いくらでもいるッスよ」


リケ「あとは"ギルティン"って名前くらいしかわかってなくてね」


エテル「えっ!ギルティンさん?会ったことあるッスよお!」


リケ「!?」


リケはきょとんとエテルを見つめた。






突拍子もないところからギルティンの名前がでてきました。

はたして、捜査のヒントとなるのか?


次回17.3話は10/22更新予定~!

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