詰めるという事
この作品はpixivに私が投稿した作品をそのまま転載したものです。一部改稿などはございません。
ぎゅうぎゅう詰めが日常生活に当たり前に存在する世界の物語らしいです。
―11月 某学園にてー
「ぎゅうぎゅう詰め?」
妙に大きな声をあげてしまう。まさか清純そうな咲樹からそんなワードが飛び出すとは。
「ち、違うよ!?その……いやらしい意味はなくて……あと理帆は声が大きいよ……」
「あ、ごめん」
でもぎゅうぎゅう詰めかぁ……確かに漫画とかでたまに掃除用具入れとかそういうところでそういうシチュエーションって見るし……密着するからドキドキするんだろうなぁと思ったことはあるけど……
「で……咲樹はそれを……私としたいの?」
「う、うん……最近そういう事をする事が流行っているって聞くじゃん……?私もどうせやってみるなら仲良しな人とやってみようって」
「んー、いいよ、おしくらまんじゅうみたいで楽しそうだし、寒いから」
「それとは一緒じゃない気がする……」
うん……まぁ照れ隠しみたいなものだから本気では言ってないんだけどね。別に咲樹のことは好きだし……お互い彼氏もいないから恋人らしいことをしているって言ったら多分咲樹と一番しているはずだし。もはや小、中、高と同じ学校でいつも同じ行動となると腐れ縁どころではない。
「で、どこでするの?」
「あっ、今日部活が休みだから誰もいない部室とかどうかなって、ほら、外れにくいようにベルトも持ってきたし……?」
「わーお準備万端」
これ、もし私が断っていたら何かとんでもない目に遭わされてたんじゃないかな。こう、もっとハードな。そういうことはあまり知らないけど清純すぎる咲樹のことだから暴走しそうだし。
―部室棟2F ペンクラブ部室―
「あれ、鍵は?」
「この部室、建てつけが悪いから鍵かかんないんだ」
「それ、もし誰か入ってきたらまずいんじゃ……」
「大丈夫大丈夫、今日は他の部員さんはみんな帰っちゃったし顧問の先生は会議中だから……?」
いちいち疑問形なところが非常に不安なので扉が開きにくいように何か置いとこう。
「忍法、椅子バリケード~」
「おぉ~」
「……ごめん咲樹、今の聞かなかったことにしてくれるとうれしい」
「あ、うん……」
私の恥ずかしい発言は置いておいて部室の端を見るとなるほど、確かに私たち二人でぎゅうぎゅう詰めになりそうな縦長のロッカーがある。
「理帆は後に入る方がいいよね……?」
「何それ、先と後で変わるの?」
「うん、先に入った方がロッカーの壁がある分、ぎゅって押される感じがより強くなるんだって、前に読んだサイトに書いてあった」
「そ、そうなんだ、じゃあ私は後の方で」
……よく考えたらそれ私が襲うような格好にならないのかな。私の方が咲樹より身長は上だし。
そんな事を考えているうちに咲樹がロッカーの中身やら中の板やらを取り出し始める。途中でおもちゃの手錠が出てきたけど使うのは丁重にお断りした。
ダメだ、今さらやたら緊張してきた。咲樹の事はそういう風に見てなかったけどよく冷やかされたり、レズ扱いされたりもするくらいにはベタベタだったし、それに咲樹って結構おどおどしていて守ってやりたくなるタイプだからこうして二人っきりで密着するとどうしても何かいかがわしいことを考えてしまう。
「理帆、その……用意できたよ」
「うん、まぁおっけー、心の準備できた」
そう言うと咲樹がロッカーの扉を開け、中に入る。
「……うん、落ち着く」
咲樹はもしかして小動物か何か?
「ほら……理帆も早く……」
言われるがままにロッカーに入ろうとする。
「ん……やっぱ狭いね」
「そういうものだから……」
咲樹が私に手を伸ばし抱き寄せてくる。そして私の胸に咲樹が顔を埋めるかぐらいで扉を閉めることができた。
「……真っ暗だね」
「……そうだね」
こうして密着していると咲樹は私とは全く違う甘い香りがする。生きている世界が違うみたいだ。
「んー……理帆は……どう?」
「どうって聞かれても……こんなに密着すると嫌でも何か意識するなぁって」
「へぇ……理帆もそう思ってるんだ」
狭い暗闇の中、私と咲樹はひそひそ話す。お互いの顔はほぼ見えないけど何となくお互いの表情はわかっている。
「……咲樹はどうなの?言い出したのは咲樹の方だし」
「えーと……なんだか不思議な気分、こんなに狭いところに二人でぎゅうぎゅう詰めって普通なら嫌だ、離れてほしいってなるのにこれは……そんなに嫌じゃないかな」
「ふむふむ、まぁ楽しそうで何より、って感じかな」
「理帆だからなのかな、それとこの制服が妙にぶあつく感じる……」
「……よくわからない」
「こんな言葉があるんだ、人は服の厚さだけ心が離れるから本当に大事な時は脱いで身を寄せあうって」
「へぇ……深そうな言葉だね」
「今私が考えた」
おい。ちょっと納得しかけた自分が恥ずかしい。
「……」
「……」
沈黙。顔は見えないけど明らかに気まずい空気が流れる。
「……あのさ、理帆」
「え、どうしたの咲樹」
「理帆は……その、女の子同士で恋愛って変だと思う?」
その突然の質問に戸惑っていると咲樹はさらにこう続けた。
「うん……まぁ急に言われたって答えづらいかもしれないけど……私はずっと理帆が好きだったから……こうやっていつも私と仲良くしてくれるし……それだけ受け取ってくれたら……」
そう言ってぼんやりとしか見えないその顔は少しだけ下を向いた。
「……うん、わかった、まだ返事は出せないけど……気持ちは伝わったかな」
今日、この狭いロッカーで私と咲樹は少し距離が縮まったのかもしれない。
その後、私と咲樹はたまにこのロッカーで抱き合うようになった。
まだ制服の厚さの分、心は遠いけどいつか重ね合える日が来るんだろうなぁと思っているし、あの日返せなかった返事はいつかはっきりと返そうと思っている。
でもとりあえず今はこの狭くて広い私たちだけの世界で二人っきりで生きていたい。
きっと私がずっと大好きな咲樹もそう思ってるよね?
「これだと私、締め付けが強い彼女みたいだ……」
納まりが大変よろしいようで。
原稿とレポートに詰まって過去作投稿して誤魔化そうと考えた自分を殴りたい。
そしてもっとぎゅうぎゅうにしておけばよかった。
確かこれを書いたときは「詰める」をテーマに書いてほしいと友人に投げられて3時間くらいで書き上げた記憶。