7話 罠を踏んでも僕が助ける! ほな、金になる罠全部踏むわ(`・ω・´)
「ここが迷宮か。思ったより立派だな」
「嘘だろ。怜司さん達は迷宮初めてなのか?」
「いや、そういう訳じゃないんだがな……」
パースはいぶかしむような視線を向けてくるが、王女の風格がにじみ出るサラを見て、軽くため息を吐く。
「まぁ人には色々有るからなぁ……詮索はしねぇよ」
「助かるよ」
ダンジョンの入り口は、現実世界の洞窟と大差なかった。苔に覆われた茶色の岩が、俺達に向けて大きな口を開けている。
中ではかがり火が焚かれていて、綺麗に整備された階段が有る。多くの人が出入りする迷宮であるようだ。
「さしずめ初心者用の迷宮ってとこか」
つぶやくと、エスティアが手を叩いた。
「その通り。ここは一番簡単な迷宮だね。最下級のF級迷宮だよ」
「F級なんて、話にならないわ。とっとと行くわよ」
テクテク奥に向かおうとするサラの手を引き、見咎める。
「サラ、協調性に欠ける行動は程々にな」
「分かったわよ。…………さっきから、そいつの言う事ばっかり……バカ」
「何か言ったか?」
「何でもない!」
エスティア達は好意で付き添ってくれているのだ。職業を偽っている俺達は何も言えない。
パースからフォーメーションや合図の説明を受け、迷宮に足を踏み入れる。
「おぉ」
階段に足を置いた途端、ざらついた砂が靴を擦り、むき出した岩の匂いが鼻を突く。日は視界から消え、魔力の明かりが路を照らす導となる。
それら全てが、秘められた空間に足を踏み入れているという実感を喚起し、俺の心に軽やかなそよ風が吹く。
――冒険の始まりだ。
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ダンジョン攻略は順調に進んでいた。問題が有るとすれば……。
「サラ、前に出過ぎだよ」
「うるさいわね、チビ。あなたが遅いのよ」
「僕は勇者だぞ。ちびっていう事は無いじゃないか!」
「喚くんじゃないわよ、雑魚。悔しかったら、私より多くのモンスターを倒して見せなさい」
サラとエスティアにまとまりが無いのだ。いや、俺も人の事は言えないのだが……。
パースは終始、引き気味な笑顔を浮かべている。
俺達のパーティーは、既に大きすぎる戦果を挙げている。パースが言うには、異常な収穫らしいが、これには訳が有るのだ。
一般的に、迷宮は最初に踏破した者に恵みを与える。理由は簡単で、宝箱を開けられるのは最初に攻略した人間だけだからだ。
なので、攻略済みのF級迷宮を攻略してところで、大した収穫は得られない。しかし俺達は大きな戦果を挙げている。
「おっ、また有った」
俺が見つけると、パースが泣きそうな顔をする。
「もう止めてくれ。アンタ達、鬼だ。キチ〇イだ」
パースの懇願をスルーして、俺はエスティアに近付き首根っこをつかむ。
瞬間、エスティアの顔がこわばった。
「怜司、もう止めてっ」
「うるせぇな。とっとと稼いでこい」
俺は壁を叩く。瞬間、迷宮内に警報が響き渡り、壁が大きく口を開ける。
――『罠』だ。
特技分析Sを持つ俺の目には、全ての罠が見える。そのトラップをあえて踏み、罠にエスティアを投げ込むという作戦だ。激しそうな罠を踏めば踏むほど、いい金になる。
俺はためらい無く、エスティアを罠に放り込む。そして全神経を集中させて、戦闘に耳を澄ませる。
『ギャー、あっちいけ、あっちいけ』
――キンッ、キンッ、ガチンッ、キンッ……。
『このドクロ野郎。あっち行け』
――ザシュン……ガラガラ……キンキン、ガチンッ。
『痛っ、このっ、いい加減に……あっ』
――キンッ、キンッ……。
『うぐ……。やだっ、助けて怜司……』
暗闇に向けて声をかける。
「それが人にものを頼む態度なのか?」
『――――ッ、……何で僕が、悪いのは怜司じゃ――」
それを聞いて、俺はサラに耳打ちする。
「頼りない勇者は置いといて、俺達だけで行くか?」
「そうね、イキリ勇者は置いていきましょう」
『待って、待ってくだひゃい。アンデットがこんなに沢山、サラ様、怜司様っ』
「待ってじゃないわよ、このクソ無能勇者。勇者ならそれくらい自分で何とかしなさいよ」
『ごめんなさい。ごめんなさい。……もう許して、たすけてください』
ちなみに、俺達は俺達で通常のモンスターを駆除している。俺はエスティアに意地悪している訳ではない。
エスティアが最初、『もし二人が罠を踏んでも、絶対に僕が助けるから』と言ったので、それに甘えているだけだ。
『怜司っ、たすけて』
――頃合いだな。
罠に身をおどらせ、練習中の雷魔法で骸骨モンスター達を駆逐する。
そして、座り込んでべそをかくエスティアに、手を差し伸べる。
「遅いよ怜司」
エスティアは涙目だが、身体に目立った傷は無い。俺がエスティア罠作戦を実行している理由の一つだ。
・エスティアは幸運Sの特技を持つため、わりと何が有っても何とかなる。
・幸運Sのせいか、エスティアがモンスターを倒した方が、良いアイテムが落ちる。
・エスティアの特技『返礼の刃』は、喰らった攻撃を相手に返す特技なので、丁度いい。
そして何より、エスティアをいじめると、凄まじくそそる貌を見せてくれるのだ。
正直興奮する。
そして助けてやると、犬みたいな笑顔を浮かべて、じゃれついてくる。これが女の子だったら、危かったかもしれん。
――まぁもっとも、女の子相手にこんな事はしないがな。
「怜司は強いね。雷魔法であんなに強いのは、中々見ないよ」
「そうか? 基準が分からないから、何とも言えないな」
「絶対に強いと思うけどな、雷適正Aとか有るでしょ?」
まぁ『S』なんだが、言う必要もない。
「ありがとうな。確かに一番雷が得意だよ」
適当にかわすと、エスティアが唇を尖らせる。
「もう、絶対何か隠してる。もしかして魔導士だったりする?」
「いや、魔導士ではない」
「そっかー、そう思ったんだけどな」
――直感B怖ぇ……。
「魔導士ってい――――」
その時だった。迷宮が大きく揺れ、苔と砂ぼこりにまみれた床が動き出す。そして地面に穴が開き、カビ臭い階段が現れた。
瞬間エスティアが叫ぶ。
「隠し部屋――未踏破地区だ」
階段の入り口には、黒光りする石が鎮座していて、そこには簡素に物騒な事が書いてあった。
―――――Ⅰ禁断Ⅰ―――――
有大災害
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