表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/25

6話 チョロインと真勇者(この世界では、勇者と書いてザコと読みます)

 翌朝、朝食を屋台で済ませた俺達は、ギルドに向かっていた。


「おい、そろそろ離れないと、変な勘違いされるぞ」


怜司れいじは私がくっついてたら嫌なの?」


「嫌じゃないけどさ」


「ならいいじゃない」


 サラは俺の腕を抱きかかえている。今朝からずっとこの調子だ。まぁ抱き付かれて嫌な気持ちにはならないが、周囲の視線が自意識に突き刺さる。


 世の中には、衆目しゅうもくを集めたい人も居るらしいが、俺にはさっぱり理解できない感覚だ。


 サラはと言えば、他人の視線をまるで気にせず、表情をコロコロ変えながらじゃれついてくる。そして、心なしか彼女の声が甘く聞こえる。


 まぁ昨晩色々有ったのだ。俺に尻拭いをさせたと謝るサラに、形だけでも夫婦なんだからと言ったら、この調子。


 考えても仕方の無いことだろう。女心は分からないとよく言うが、それがティーンであれば尚のこと。


 秋の空in山の模様を伺うよりも難しい。


「怜司は犬と猫どっちが好きなの?」


「あぁ、猫かな」


 すると、サラが信じられない行動に出る。


「私も猫が好きだにゃん?」


「は?」


 ――はぁああ? 何言ってんだコイツ……。


 サラは手を猫の手にして、にゃんにゃんとやっている。


「…………」


 黙っていると、サラの耳が見る見るうちに紅くなる。


「恥ずかしいならやるなよ」


「だって猫が好きって言うから……」


「じゃあ犬が好きって言ったら、どうしたんだ?」


 するとサラは、俺の腕を抱いたままプイッと横を向いた。


「怜司は意地悪だから、教えてあげない」


 ――何なのコイツ……可愛すぎるだろ。


 最早可愛さの次元を突破している。金髪碧眼の美少女が腕に絡みついて来るだけでもたまらないのに、ネコ語まで使われたら、頭が沸騰してしまう。


 思わず頭に手を伸ばし、さらさらした金髪を撫でると、サラは気持ち良さそうに目を細める。


「なぁ、サラ」


「何よ?」


「『気持ちいいにゃ』って言ってくれない?」


 言うと、サラが白けた視線を向けてきた。


「……キモ」


「うっ……」


「ほら、ギルド見えたわよ」


 これはこれで悪くない、と思う自分自身に引きつつ、俺はギルドの戸に手を掛けた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 戸を開けた瞬間、ギルド内が静まり返る。小さく囁かれた言葉が耳に届く。


「アイツだ」

「あの弱そうなやつが?」

「パースを剣で?」

「強そうには見えないぜ。指が綺麗すぎる」

「それだけ強いんだ。見てなかったお前には分かんねぇよ」


 入り口で立ち止まって、座れそうな席を探していると、奥の方から俺を呼ぶ声が聞こえた。


「おーい、怜司さん。こっちに席有るぞ」


 ――パースだ。


 パースが親しげな笑顔を浮かべ、手を振っている。サラの肩が強張るが、今の所ギルド内でパースが一番マシな人間だ。それに、彼はギルドを締めているパーティーの一員だと言っていた。


 勧められるままに、椅子を引くと、パースが軽く頭を下げる。


「繰り返しになるが、昨日は済まなかった」


「別にいいさ。まったく気にしてないよ」


 これは事実である。少なくとも俺は気にしていない。パースの言っている事は興味深かったし、元はと言えば、ギルドを舐めていた俺達も悪いのだ。


「聞きたいことが有るんだが、いいか?」


 パースは軽くうなずいたので、遠慮なく問いを投げる。


「お前は、ギルドを締めてるパーティーの一員だって言ってたよな? どんなパーティなんだ?」


「あ~、俺達のパーティーは5人しかいないんだが、リーダーが勇者ブレイブなんだよ」


「リーダーが勇者なのか……」


 勇者は、評価値が150を超えている証拠である。評価値について詳しいことは分からないが、『137が1万人に1人の逸材』とサラが以前言っていた。


 ――それなりに名の知れたパーティーなのだろう。


 そう思った時だった。横から中性的な声が割り込んでくる。


「君がうわさの怜司だね?」


 元気のいい声に振り向くと、俺の右脇に15歳くらいの少年が立っていた。


「誰だお前?」


「僕はエスティア、この街を拠点に活動している勇者ブレイブだよ!」


 少年をよく見てみる。肩の高さで切り揃えられたクリーム色の髪に、緑色の目、背中には剣を背負っている。


 勇者っぽくない以前に、男っぽくない。


「本当に勇者なのか?」


 すると少年がステータスカードを渡してくる。


「いや、別にカードは見なくてもいい」


 見せ合うのは嫌なので、はっきり断るが、少年はカードを押し付けてくる。


「疑われっ放しはしゃくにさわるからね」


「別にいいが、俺のは見せないからな」


「構わないよ」


 エスティアのカードには、確かに勇者ブレイブと書かれていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


勇者ブレイブ

・条件

 評価値150以上、体力6以上。


職業クラス補正

 以下の固有術式を使用可能。

『一騎打ち』――自分より評価値の高い存在に、一対一の戦闘をいることが出来る。

『陣頭指揮』――自身が最前線に立つことで、味方全体にランダムで支援効果が発生。

 

職業クラススキル

 幸運S(※重複の為)

 不眠・不休の加護A


―――――以下裏面―――――

ステータス

体力8―魔力3―知力3


属性適正

火F―風F―雷F―土B―水B―聖F―闇F


特技

直感B―返礼の刃A―幸運A(S※重複の為)


総合評価162/400


―――――――――――――――――――――――――――――――――


「ほい、ありがとな。疑って悪かったよ」


 カードを返すと、エスティアははにかみ、俺に思い切り顔を近付けてくる。


「信じてもらえたみたいだね。それじゃ僕から提案が有るんだけど、聞いてくれるかな?」


「もちろん嫌とは言わない。聞かせてくれ」


 うなずくと、エスティアはパースの肩を叩く。


「お願い」


「えぇ……それぐらい自分でやってくれよ」


 パースは渋ったが、エスティアが手を合わせたのを見て、咳払いをする。パースも案外甘い性格らしい。


「怜司さん、そしてサラさん。二人の強さは、昨日十分に見せてもらった。これからは好きに仕事を取ってくれて構わない」


「言われなくてもそのつもりだ。それで?」


 先をうながすと、パースの真剣な視線が俺を射抜く。


「その上で提案なんだが、俺達と4人で仮のパーティーを組まないか?」


「……仮のパーティか」


「アンタは強いから、二人パーティでも問題は無いかもしれない。だけどギルドで活動していれば、他のパーティーと合同での仕事も有るはずだ。その練習ってヤツを俺達としてみないか?」


 パースが言った瞬間、サラが彼をにらみつける。


「よく言うわ。私にあなた達と組むつもりなんて――ッ、んん~れいじっ!」


 サラの口をふさぎ、考える。パースの言う事はもっともである上に、俺は勇者の実力を見てみたい。 


「ありがとう。渡りに船だ」


 言った直後、エスティアの顔が輝き、彼は白いマントをひるがえす。


「改めて自己紹介するよ。僕はエスティア=ガヴラス、職業クラス勇者ブレイブ。人呼んで、連合王国のデュアルエッジ」


「……デュアルエッジ、か」


 なんか売れないピン芸人みたいな名前だが、二つ名が付くのは強い証だ。


「よろしくな、エスティア。俺は来栖怜司くるすれいじ、職業は商人だ」


「……サラ=スチュアート。職業剣士よ」


 サラが渋々名乗ると、エスティアが元気一杯な笑顔を浮かべる。白い八重歯が印象的だ。


「うん、よろしくね。怜司、サラ!」


 こうして俺達は、エスティア・パースと共に初の迷宮ダンジョンへと向かったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ