表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/25

5話 脱・戦闘童貞☆

 決闘はギルドに面した大通りで行われることになった。


 勝てばよし、負けてもよし。なぜなら俺達は金を持っているからだ。


 俺が負けたとしても、サラの代わりに相当量の金を置いていけば、さほどの文句は言われまい。


 街の様子から、俺はそれを確信していた。


 さて、こうなってしまえば、この決闘は単なる腕試しになる。


 俺は脳内のそろばん勘定を止めて周りを見た。


 一面に石畳いしだたみが敷かれた通りには、野次馬が続々と集まっている。風呂敷ふろしきを広げていた商人達が慌てて去ってったため、まっすぐ伸びる通りの中で、ギルドの前だけが異質な雰囲気に包まれる。


 にわか雨の音にも似た喧騒けんそうの中、パースは首を鳴らし、まだ登り切っていない太陽を指差した。


 彼は太陽に真正面から向かい立ち、真っ直ぐ石畳を切りつける。


「陽は横から、地は平らに、決めは不備無く公平に」


「意外と潔癖なんだな」


 太陽を背にした方が、戦いで有利なのは当然だが、スポーツの試合でもここまで気にする奴は見た事無い。


「決闘は冒険者の誇りに懸けて行われる。負け惜しみ言われてもウゼェからな」


「そうかよ。お前さん、意外といい奴だな」


 俺が言うと、パースはフッと笑った。


「冒険者だからな」


 お互い位置に就き、最後の口上を交わす。


「パース、職業魔法騎士(ルーンナイト)。手加減してやるから全力で掛かってきな」


「来栖怜司、職業商人」


 瞬間、わずかに野次馬がざわめき、さざ波のように揺れる。


「お前を倒して、サラちゃんを頂いてやるぜ。じっくり味わってやる」


「悪いが、お前がサラを味わうことは無いと思うぞ」


 この男の運命は2つに1つ。俺に負けるか、金に負けるかだ。



 決闘はジャッジの合図で開始される。


『二人とも準備はいいか?』


 俺達が頷くと、ジャッジは腕を上げ、響く声でカウントを言い放つ。


『3』


 パースの武器は直刀だ。魔法の属性は分からないが、抜刀している所を見るに、前でガンガン行くタイプだと予想できる。

 

『2』


 深呼吸して、曲刀のに手をわせる。手加減出来る自信が無いので、魔法は使わない。力と技で乗り切るだけだ。

 

『1』


 動き出そうとした刹那、心配そうに俺を見る、サラの姿が視界に映る。


 もともと負ける気はしなかったが、サラのためにも絶対勝つと気を引き締める。


『始め』


 パースが地面を蹴り、直剣の刃先が光る。


 彼は蛇行だこうしながら俺に迫り、小さく肘を引く。


 ――突きか。


 半身に構え、パースの足を注視する。彼が最後の踏み込みをするべく足を上げた刹那、曲刀を勢いよく抜き放ち、日光を反射させパースの目に撃ちこむ。


 この世界に転移してから、体の調子がすこぶるよく、思った通りの動きができる。


 さて、反射した日光を浴びたパースは、獰猛な笑みを浮かべて突進を継続する。


「そんな目くらましは通用しねぇ」


 分かっている。刀の反射光に大きな効果は望めない。しかし……刀の動きは追えなくなる。刀を返し、刃を上に向ける。


 ――剣士はやいばの向きを参考に次撃を予想する。


 パースが鋭い突きを撃った刹那、一歩踏み込むと同時に、腰を沈めて肩を回す。狙うは返しの一撃だ。上げた足が地面に付くまで、パースは回避できない。


 円を描いた刃は、上からの剣戟けんげきとなりパースに迫る。


「喰らえ」


 しかしパースは、渾身の一撃をかわして見せた。


「まだだっ」


 俺の攻撃は終わらない。躱された曲刀をパースに押し当て、斜め下から斬り上げる。パースの顔に驚きが走り、彼は跳び退いて距離を取る。


「やるじゃねぇか」


「斬り合いだからな」


 これは構造上の問題だが、直刀は受けに強く、曲刀は攻撃に特化している。曲刀は立体的な動きで優位に立つのだ。


 パースの目が細まり、俺を品定めするようにじっと見てくる。そして短く息を吐き、腰をグッと下げた。


「どこの誰だか知らんが、商人なんて巫山戯ふざけた事言ってる奴には負けられねぇ」


「一週間前まで、店開いてたんだよ」


「言ってろ。化けの皮はがしてやる」


 獰猛どうもうな笑みを浮かべるパースを見て、俺は思わず肩をすくめる。


「まぁいいさ。掛かってきな」


 パースが再び向かってくる。蛇のような動きで高速の突きをり出してくるが、身体を捻りギリギリでかわす。


 反撃の隙が生じているが、けんてっし、相手の間合いに不用意な手出しはしない。


「クソッ、何で通らねぇんだ」


 鋭い突きは何度も飛来するが、体ギリギリで切り払っていく。打ち払う度に足がブレるが、かかとを上げて姿勢を保つ。


 そうしている内に、段々とパースの動きを理解し始める。初動のモーションを分析し、次に何が来るのかを予想する。


 そして、予定した場所に、足を運び体重をかけて身を躍らせる。


「小賢しい、これでっ」


 体の回転と共にがれた剣を、刀を立て両手で受ける。打合う刃が空気を震わせ、風が踊り狂う。


 ――そろそろかな。


 刀の根元で斬撃を受け、力任せに押し返す。はじかれたパースの腕に力が入った瞬間、パースの剣に向けて斜めから刃を当てる。動きに干渉されたパースはバランスを崩す。


 そして、バランスが崩れたパースに体を寄せ、右側に踏み込み左上から斬撃を撃つ。


 避けようと右に動こうとしたパースは、俺の足につまずいた。


「クソッ」


 パースは体勢を立て直そうとするが、もう遅い。


 俺から意識を外した時点で、勝負は決着している。


「終わりだな」


 曲刀を握り直し、逆刃さかはにしてパースの首を払う。殺しはしないが、俺の仲間に手を出そうとした罪は重い。


 ――ドスッ。


 野次馬が静まり返り、パースの崩れる音が虚しく響く。


 数秒して、徐々に辺りがざわつき始め、ギルドの誰かが大声を上げる。


「負けた、パースが負けたぞ」

「しかも剣で負けたぞ」

「でも魔法無しだったからな」

「だが、向こうも魔法は使ってねぇ」

「魔法が使えないんじゃ?」

「いや、服装が耐魔加工されてねぇ」

「って事は本当に商人?」

「あんなに強い商人が居るわけねぇだろ」



 パースはもぞもぞと体を起こし、そして仰向けで寝転がる。


 仲間達の声を聞きつつ、彼はどこかすが(すが)しさすら感じさせる声でつぶやいた。


「まさか、商人如きに負けるとはな」


 ――商人如き……、か。


 文明が発展する程に、商人は強くなる。彼の言葉が、この世界のみず(みず)しさを現しているようで……。


 旧職を馬鹿にされたのに、不思議と悪い気はしなかった。


 っていうのは考えすぎだな。単に商人が戦闘職じゃないからだよね……。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 曲刀を仕舞い、歓声を上げている観衆をかき分けて、サラのもとに向かう。


 俺を見るなり、彼女は腕を組んで横を向く。


「決められるなら早く決めてよ。待ち疲れたわよ」


「心配してくれたのか?」


「べ、別に心配した訳じゃないから、……本当よ」


 そして目線だけ俺に向け、恥ずかしそうに口を動かす。


「でも、ありがとうね」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ