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4話 性獣の巣窟と書いてギルドと読みます

 サラが言うには、サラの国――リヒト王国には、2つの敵国が有るらしい。


 いや、正確には2種類の敵と言うべきだろう。


 1つは、王国に敵対するアルスター帝国。及びその同盟国。


 2つ目が人間に敵対する亜人種――魔族が支配する魔国である。


 召喚された俺に求められることは、帝国もしくは魔国と戦うことらしい。


 そして、しばらくは腕を磨くため、泳がせてもらえるという話だった。


 当然ながら、俺には王国に尽くすモチベーションが無い。勝手に召喚されただけだからな。


 サラは国に尽くすモチベーションだけ持っているが、戦う理由が分からないと言っている。


 そういうワケで、色々なことを考えた結果、俺達はリヒト王国の同盟国である連合王国で武者修行をすることになった。


 三日三晩移動を続け、ついに連合王国の街『ハンベル』にたどり着いたのだった。


 そして現在、ギルドの前に立っている。


「入るわよ、怜司。最前線のギルドだから気を引き締めるのよ」


「分かってるよ。あんまり目立たないようにすればいいんだろ?」


「分かってるじゃない。あなたはステータス以外地味だから、それさえ隠せば大丈夫よ」


 サラが扉を開けた瞬間、椅子に座っている冒険者達が一斉にこっちを向く。


 その中で一番手前に座っている男が立ち上がり、俺達を見る。そして口に手を当て大きく音を鳴らした。


「新入りだぁ」

「見ねぇ顔だな。何者だ?」

「可愛い娘いるじゃん」

「えっ、どこだよ?」

「左の子、おっぱい無いけど、脚メッチャ綺麗じゃね?」

「やばっ、幾らでヤらしてくれるかな?」


 ギルド中の視線がサラに注がれ、彼女は居心地悪そうに体を震わせる。しかしその動きが、余計に男達の劣情をあおったらしく、気付いた時には囲まれていた。


 チャラい男が歩み出て、サラの肩に手を乗せる。


「ねぇ、お姉さんどこから来たの? 金で困ってるなら助けてやろうか?」


「汚い手で触らないでくださいます?」


 サラが手を振り払うが、今度は脂ぎった大男がサラと肩を組む。


「まぁ、来たなら一杯飲もうや」


「結構です。私達は依頼を受けに来ただけなので」


 その瞬間、俺に視線が集中し、バンダナを巻いた犬みたいな顔の男が、鼻息をぶつけてくる。


「兄ちゃん、彼氏?」


「違うけど」


「じゃあ、この売りに来たの? これでどうかな?」


 男が指を2本立てる。思わず絶句する。


 俺がサラに売春させにきたと思ってるのか?


「バカ、2は安いだろ。俺は4出すぜ」


「俺は8出すぜ。兄ちゃんも混ざっていいぞ」


「20出すから1日貸してくれよ。皆でシェアずんぞ」


 歓声が上がり、ギルドが喧騒けんそうに包まれる。突然現れた美少女ごちそうに全員が目をぎらつかせている。


 どうしようもなく腹が立ったが、ここで暴れても事態を荒立たせるだけだ。サラと俺は我慢して、さかる男達をかわし続ける。


 とその時、奥から茶髪の男が歩み寄ってきた。同時に男達は俺達から距離を取る。


 茶髪の男が口を開く。


「俺はパース、このギルド締めてるパーティーの魔法剣士だ。ようこそ、俺達のギルドへ。歓迎するぜ」


 ――やっとまともな奴が来たな。


 パースは言葉を続けていく。


「ここのギルドには、ルールが有るんだ」


「聞かせてくれ」


「仲間は信頼し合わなければいけない。そうだろう?」


 もっともな事なので、俺達はうなずく。


「だが、何の証拠も無しに信頼する事なんざできねぇ。冒険者はそんなに甘いもんじゃねぇ……そこでだ。俺達は信頼関係を築くために、新入りにテストを課してんだ。覚悟を測るテストをな」


 わずかに、室内が盛り上がる。嫌な予感が脳裏のうりぎり、その予感は的中した。


「俺達からのお願いが聞けるか、どうかって話だ。服脱いで一日ギルドで横になってもら――」


 瞬間、澄んだ声が一閃いっせんする。サラは青紫の瞳に、怒りの色を浮かべている。


「ふざけないで」


 しかしパースはそれを全く気にせず、淡々と続けた。


「最近の新入りは、すぐ逃げやがる。裸で一日寝転がれない奴が、命張ってモンスターに挑めるのかよ?」


「それは違――」


「違わねぇよ。じゃあテメェ、仲間のために寝転がれない人間が、仲間のために命張れると思ってんのか?」


 サラは絶対に譲れないらしく(当たり前だが)、パースに激しく食って掛かる。


「この、畜生共っ。破廉恥なことをするための、理由を付けてるだけじゃない」


「違うな。事実、テストを課し始めてから、逃げ出す新入りは少なくなった。テメェはここに足を踏み入れた。その瞬間変わったんだよ」


 パースが叫ぶ。


「『冒険者である前に、女であったお前』は『女である前に冒険者になるんだよ』。ここにいる奴は、冒険者だ。冒険者は安定しねぇから、家庭を持つことを望めねぇ、皆全てを捨てて冒険に賭けてんだよ。命張ってんだよ」


「お前だけ、全部取ろうとするんじゃねぇぞ。中途半端に片足突っ込もうとしてんじゃねぇぞ。生言ってんじゃねぇぞガキがっ」


 俺、思わず苦笑い。だがまぁ、パースの言うことは確かにそうかもしれない。


 一般人ならパースをなじるだろうが、パースの言う事にも一理有る。確かに性的な関係をもつ事は、手っ取り早く信頼関係を構築するのに有効だ。


 性欲を正当化するための後付け理論には変わりないが、意外としっかりしている。


 これで『先輩も皆経験してるよ』が入れば、大学の危険サークル新歓テンプレになるが……。


 ――まぁサラの事だから、怒って外に出ようとするだろうがな。


 そして予想通り、サラは乱暴に床をけり、パースに背を向ける。


「こんな野蛮人ばかりの場所には居られないわ。行くわよ怜司さん」


 しかし男達が入り口をふさぎ、身動きが取れなくなる。


 そしてパースが下卑た笑みを浮かべて、ギルド全体に聞こえる声を出す。


「ギルドに入った時点で仲間だからな。なぁ皆」


 瞬間、地鳴りのような歓声と共に、ギルド内が一斉に立ち上がる。全員が欲望で目をぎらつかせてるんだから、しょうがない。


 荒事の一回目は、男冒険者ちゃんたちの性欲をしずめる戦いだ。


「サラ」


「何よ」


 サラが俺に目を合わせる。気丈に振舞っているが、彼女の声は震えている。


「俺のことを信じられるか?」


 瞬間、サラの顔が真っ赤に染まる。知力9は伊達じゃない。


「何言ってるのよ。怜司までエッチな事しか考えてないの?」


「いや、2割ぐらいしか考えてないけど、信じられるか?」


「……なら7割、ううん8割くらい信じられるように頑張る」


「分かった。なら俺に任せとけ」


 俺もサラも、ステータスだけの駆け出し冒険者だ。

 

 彼女は強がっているが、実際は不安でしょうがないはず。


 俺は買ったばかりの刀を抜き、パースに向ける。


 この人数を相手にすることはできないので、この場は一か八かで一騎打ちだ。


「決闘だ、パース。俺が勝ったら、俺達は明日からギルドを好きに使わせてもらう。お前が勝ったら、お前達の流儀を通そう」


 パースは腰から剣を抜き、そして俺に真っ直ぐ突き付けた。


「いいだろう。泣いてびても許さねぇぞ」


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